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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第三章 体育イベント二点盛り
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49 - 村社郁也の偏る才能

 ジャンプフローターサーブ、というらしい。

 ほぼ無回転の、高い打点から放たれる『早いブレ球』。

 ありゃ取れないよなあ、と矢印をみて思っていたら、二度目のそれはきっちりと拾われた。

 当然、きっちり拾われればきっちりと攻撃が飛んでくるわけで。

 ブロックは無し、打たれる瞬間に矢印が生じて、その矢印が地面にぶつかるまでの間に遮る様に腕を差し込み、角度を調整して村社くんの頭上に返す。

 村社くんはそれに驚きつつもセッターとしてトスを上げ、名前を呼び、スパイクのような何かとして放たれた攻撃が相手のコートに突き刺さった。

 気のせいかな、今相手のチーム、誰も動いてなかったけど。

「……いやあ、正直今のはボクでも固まるよ。渡来、なんでいまのとれたの?」

「何となく、くる場所はわかるし……」

「そう……本格的にスカウトしたくなってきたなあ。ボクがこのままバレー部を続けるなら、渡来みたいな子が居てほしいのは本心だし」

「え? なんで?」

 ボクには弱点があってね、と村社くんは言って。

 ホイッスルに合わせて、プレーが再開された。

 そして結論から言うと、三組はバレー部員四名を擁する四組に二セット連取で勝利した。

 スコアは第一セットは25-18、次いで第二セットを25-17。

 接戦というわけでもなく、かといって大差かと言えばそうでもない、微妙な感じの点差、に見えないこともない。

 実際に見てた子でも、そういう印象を抱いた子は抱いただろう。

「……完敗か」

 だが、実際の対戦相手、四組で一番頑張ってた子はそう呟いた。

「そこのちっちゃいの」

「村社くん。ボールかしてくれる?」

「……えっと、渡来、何に使うの?」

「さあ。ちょっとボール触ってたら偶然手が滑ることもあるかもしれないけど、ほら、次の試合までにボールになじませておいて……」

「悪かった。俺が悪かったから。ごめん。えっと、渡来」

「何?」

 どうやら怒りについては理解してくれたようなので、まあ、許す。

 っていうかこの子名前なんだっけ。出席番号順のときは横、みたいな感じだったから、わ……じゃなくても、ら行だったと思うけど。

「お前、バレーボールの経験はあったのか?」

「ううん。小学校の体育でちょっとやったことがあるくらいで、あとは世界選手権とかをテレビで見てるくらいかな。だからほら、スパイク全然打てなかったし」

「……実はどっかのクラブチームでリベロやってたりしないよな?」

「しないよ」

 というか中学生のバレーボールでクラブチームってあるんだろうか?

 その段階からして知らないんだけど。

「うわあ。ってことは天然ものの逸材か……。村社、とれるならとっちまえよ。こいつが居ると居ないとじゃ、たぶんお前が『別』になるぞ」

「うん。鷲塚(わしづか)、ありがとう」

 あ、名前は鷲塚くんだったらしい。

 わ、か。うん、大体あってた。

 でも、

「村社くんが別になる……? って?」

「……んー」

 僕の問いかけに、村社くんは深く考え込んだ。

 なんだろう。

「説明をするのは、簡単で。まあ、ボクの弱点とか難点、欠点を教えればいいだけだしね。それ自体はボクも認識してることだし、だからあんまり気にはしないんだ。でも……それを教えると、なんていうのかな。押しつけがましくなっちゃうかもしれなくて」

「どういう意味?」

「説明したら鷲塚の言ってた言葉の理由はわかってもらえる。でも、それは裏を返せば渡来は、それを知ったうえで決断しなきゃいけなくなるってことでもあって……」

「ああ、そういう心遣いか……いいよ、気にしないで。僕、断るときは無理って即答するタイプだから」

「でも、」

「先週の金曜日も告白されたのに、無理ってその場で断ったくらいだもんね」

 と、僕と村社くんの会話に割り込んできたのは昌くんだった。

「え、告白? 渡来がされたの?」

「うん。相手の子は……名前は伏せるけどね。村社は羨ましい奴だと思わない?」

「思う。張り倒したいくらい」

 え、なぜ。

「だってさ、その子、僕より背が高いんだよ。やっぱり許せないじゃん」

「なぜ。ボクはボクより背が高い女の子じゃないといやだよ。甘え甲斐がない」

「ええ……僕は甘えたいわけじゃないしなあ。むしろ頼りにしてもらいたいし?」

「何を不毛なところで喧嘩寸前になってるんだい、二人とも」

「喧嘩?」

「どこが?」

「…………」

 そして昌くんが黙り込んでしまった。

 いや、まあ、うん。そう聞こえないこともないけどね。

「むしろ僕は村社くんと気が合うなと思ったよ」

「ボクもだね。渡来くんとならばいい関係が結べると思う」

「なんで……つい七秒前には真逆の意見を言い合ってたのに……」

「だからだよ。僕は背が高い子はダメで、低い子がいい。村社くんは逆。だから取り合いがない!」

 同じものが好きというのはもちろん仲が良くなる要因としてふさわしいだろう。

 だけど逆のものが好きだというのも、場合によっては仲が良くなる要因たりうるのだ。

 『魚は苦手だけど貝は好き』と『貝は苦手だけど魚は好き』な人が一緒だと、お寿司を食べるときとかで都合も良いしね。

 そもそも魚も貝もダメならお寿司屋さんに行くなと言われればそれまでだけど。

「まあ、昌くんをいじっても話は進展しないからね。教えてよ、理由。それを知ったうえで手を貸すかどうかは別だけども」

「うん。そうやって渡来が割り切ってくれるなら、安心して話せるかな。……ボクには欠点が二つあって、一つは体力。もともと瞬発力のない短期決着型(スプリンター)でね」

 瞬発力のないスプリンター……なんだろう、もやっと感がするのは。

 パンチ力のないハードパンチャーみたいな?

「体力の絶対値が少ないくせに、短い時間で体力を使い過ぎちゃうところがあったんだ。これはもともと、ボクがいろいろ習ってて、それが時間を区切ってやるタイプの競技だったから。だから、改善はちょっとずつだけど、できてる。一年はかかるだろうけど、何とか、試合に出続けることが出来るくらいにはなると思う」

「要するにピーキーってことかな。オンとオフしかない。省エネモードが無いみたいな……ギアがフルスロットルか停止しかない、的な」

「そうだね。それに言い方を合わせるなら、今は中間のギアを追加してる感じかな」

 ふうむ。言わんとしていることはわかる。

 でもその一点は、別に僕がバレー部に入ったところで何も変わらない気もする。

 まさか賢者の石による治癒効果を看破しているわけでもあるまいし。

「で、もう一つの欠点。それは、ボクはそもそも運動自体があまり得意じゃないってこと。『あらかじめ決められた動きを、丁寧に再現すること』は、得意なんだけどね」

「丁寧に再現……だから、サーブとトス?」

「そう。特にサーブは、結構得意だよ。なにせ『誰にも影響されない』プレーだから。トスはその点、他と比べればまだマシ、って感じでね。咄嗟のレシーブはできない。咄嗟のスパイクも打てない。その面で見ると、トスは大分マシなんだ。ある程度影響は少ないから」

「つまりアドリブ力がない、か……」

 うん、と頷き、村社くんは苦笑を漏らした。

 それがボクの欠点だよ、と、そういって。

「渡来でボクが変わるって鷲塚は言ったけど、あれは、渡来のレシーブが本当に上手だったからだよ。渡来はほとんど毎回、確実に、ボールをボクの真上に高く戻してくれていた。すごくありがたいんだ、あれ。アドリブに頼らないでも、基本のルーチンで対処できるから。それに、高く上げてくれてるおかげで、色々と考える時間もあるしね。……ボクはスーパープレイヤーじゃない。ボクはただ、『繰り返し』が他人より上手なだけ。条件が同じならば常に同じ結果を出す自信はあるけれど、逆に言えば条件がそろわなければ、同じようなプレーをすることすら難しい。だから……渡来には、手伝ってほしい。渡来がもしバレー部に入ってくれれば、条件を整えやすくなるだろうから」

「……僕、本当にバレーは素人だよ? サーブもスパイクも打てないし」

「でも、レシーブはできる。リベロってポジションもあるからね……渡来がもしその気になってくれたなら、今度、部活を見に来てよ」

「……眼鏡かけたままでも部活って大丈夫?」

「そういうちゃんとしたスポーツ用の眼鏡なら、してる子もいることはいるから。大丈夫だと思うけど……渡来って目、悪かったっけ?」

 ううん、と僕は首を横に振った。

 実を言えば2.0ではないけど、それだけだしな。視力にはそこそこ自信があるのだ。

 でも実際問題、ベクトラベルの視界無しだったら僕はせいぜい瞬発的に動けてスタミナの概念が無いだけの小柄な選手だからなあ。

 まあそれでも、洋輔よりもある意味においてはこの視界は使いこなせている……なんて自負もあるけど、洋輔の場合は矢印を強引に書き換えれば済むしな。やっぱり勝てないか。

「なんかね。よくわかんないんだけど、眼鏡をかけてないと安心できない、っていうか。……僕も、いまいち理由は説明しがたいんだけど」

「ふうん……まあ、事情があってしてるなら認められると思うよ。もし渡来がその気になってくれたなら、今度バレー部がやってるときにでも見学しに来て。ホームルームが終わったときに話しかけてくれたら、そのまま案内もできるからさ」

「わかった。じゃ、今度そうするね」

 演劇部との両立も……『演技側』じゃない僕としては、やりやすいし。

 まだ検討の段階だけどね。

「話し合いは終わったかな。そろそろ次のゲームだよ」

「うん」

 というわけで、次の試合。

 一組対三組だ。

 村社くん曰く、一組の男子にはバレーボール部員が居ないそうで。

「四組は四人もバレーボール部員がいたからね。かなり模範的なバレーボールをやってくれたけど……一組にそれは期待できない。どこからどうやって攻撃が来るのかも、読みにくい。案外、そういう相手の方がやりにくいんだよね」

 定石や技術がわからないからこそ、単にその時の『ノリ』に任せてくる、ということらしい。

 確かにやりにくそうだ。

「今度のゲームも、ローテーションは同じで、原則も同じ。レシーブは渡来、トスは僕、アタッカーには声をかけるから、相手のコートに落としてね。渡来、相手がちゃんとスパイクを打ってくるとは限らないから、きをつけて」

「うん。もちろん。アウトのは見逃しでいいんだよね?」

「そうだね。ジャッジできそうならやってみて」

 了解、と頷き、いざ試合開始。

 役割としては完全に僕のレシーブ、村社くんのトス、村社くんに指定された子がアタックという形が完成していて、他の四人はアタックに集中。

 ある意味理想的な分担といえば理想的な分担だけど、意外とコートって広いもので、これを完全にカバーするのは結構手間だったりする。

 手間なだけでなんとかなるけど。

「まあ、ボクもお願いしておいてなんだけど。よくブロックでのコース絞りもなしで、全域カバーできるよね……」

「真ん中にいれば大体は間に合うし」

「どこに打たれるかわからないでしょうに」

「打った瞬間にわかるでしょ」

「…………」

 実際そのように動いているわけで。

 打った瞬間、矢印に合わせて移動を開始すればとりあえずは間に合うのだ。

 ネット際からほぼ真下に打ち込まれたりするとさすがにちょっと厳しいけど。

 飛び込みながらならばぎりぎり届くかな?

 さすがに消費(、、)が激しそうか……。

「まあ、いいか」

 とまあ、そんなわけで試合進行。

 第一セット25-9、第二セット25-12で二セット連取、三組の勝ち。

 ものすごい大差がついたのは、村社くんが自重しなかったせいである。

 大人げなくジャンプサーブ二種をふんだんに使ってサービスエースを取るわ取るわ。

 実際、まだ僕たちは中学生だから子供なわけだけどちょっと一方的に過ぎる。

 一組に一人でもバレー部の子がいたら違ったのかな……ちょっとかわいそうになってくる感じだし。

 あ、でも僕としては大いに手伝った。全力で拾ったし。

 理由は簡単、お菓子がほしいからだ。

 あとお菓子じゃない別の景品とやらにも興味はあったしね。

「一年男子のバレーボールの結果は、三組が二勝、二組と四組が一勝、一組は全敗。女子バスケットボールは、一組が二勝、三組と四組が一勝、二組が全敗……か」

 暫定ボードを眺めてつぶやくと、

「現状一歩リードってところだな」

 と。

 声をかけてきたのは洋……じゃないな、涼太くんだった。

「すっげえ活躍だったな、渡来」

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