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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 二十日遅れの中学生活
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01 - 最初は眼鏡の準備から

 五月。

 ゴールデンウィーク開けの学校。

 僕と洋輔は、お昼休み中に先生に呼ばれ、職員室に訪れていた。

「さて。二人は中学校、慣れてきたかな?」

 担任の緒方先生の問いかけに、僕と洋輔は声を合わせてはい、と答える。

 すると、緒方先生は少し喜んだような、しかし困惑を隠しながら頷いた。

 隠した困惑を読み取れちゃってるのは、別にこの先生の表情がわかりやすいのではなく、『あっち』の世界での経験があるからだ。

 生存力に直結するから、真偽判定は護身術の授業で覚えたんだよね。

 ……まあ、正答率は八割ちょっとしかなかったけど。

「それはよかった。……それでだ。君たちは二十日くらい、他の子と、学校生活で差がどうしてもあるんだ」

「はい」

 何をいまさら。

「授業については、これまでの君たちの授業態度ならば、すぐに……とはいえなくても、夏休み頃には追い付けると思う。頑張ってくれ」

 うん。それはまあ、僕も同感である。

 洋輔はもうちょっとかかるかもしれないけど、最悪夏休みは僕と一緒に勉強会ってところだな。

「それでだ。君たちはこれまで、少しそういう意味で様子見があったんだけれど。この学校では、部活動に参加してもらうことになっていてね」

「部活動……」

「うん。レクリエーションとして、部活紹介とかもあったんだけれど……」

 まあ、まさか僕たち二人のためだけにもう一度……ってのは無理な話だよなあ。

 言わんとしていることが何となくわかって、僕はうなずく。

「じゃあ、見学だけさせてください。といっても、僕は特に入りたい部活ないんだけど……」

「俺もだなあ。なんか運動するかな?」

「洋輔なら大概の運動部はいけそうだよね」

 ベクトラベル使えば大概のスポーツで無双できそうだ。

「そういう佳苗は……なんだろうな。工芸部?」

「そんなのあるの?」

「いやねえと思う」

 だよねびっくりした。

「…………? 工芸って、渡来くんは何かを作るのが得意なのかい?」

「得意というか、好きというか。研究の先みたいなものですよ。ほら、暇なときに日曜大工じゃないけど、家でちょっとした棚を作ったり」

「あ、棚で思い出した。佳苗さ、こんど本棚作ってくれない? 勉強机の上に置けるような小さいやつ」

「いいけど。材料かってきてよ」

「もちろん」

 僕たちのそんな脱線を緒方先生は咳払いで正してくる。

 ううむ、危ない危ない。

「なら、工作部というものがある。そこに行ってみてもいいかもしれない」

「工作部……」

「うん。……何か?」

 いや、破壊工作とか特殊工作とか、そういうのが先に出てくるなあ、と思っただけだ。

 さすがに口には出せないので、あはは、と愛想笑いで返しておく。

「でも、工作部か。楽しいかもなー。洋輔はどうするの?」

「まあ、運動部を一通り見てみるつもり。つっても俺、テニスとかはできねーからなあ。なんかのチーム戦がいいかな?」

 チームでやるスポーツというと、野球、サッカー、バレーボール……とか、その辺りか。

 卓球もチーム戦と言えばチーム戦だけど。

「ともあれ、じゃあ、二人にはこれを」

 と、渡されたのはこの中学校にある部活のリスト、と仮入部届である。

「本当は、もう仮入部期間も終わってるんだけど。あなたたちは特別……ね。今日から、一週間。色々と試しに回ってみておいで」

「はい。ありがとうございます」

「ありがとうございました」

 もういいかな?

 と視線を送ると、満足そうに緒方先生はうなずいている。

 大丈夫そうなので、じゃあ失礼します、と僕と洋輔はそろって職員室を出る。

 なんかなー。

「すっげえ見られてたな」

「ね」

 やっぱり洋輔も気にしてたか。

 ……まあ、職員室に生徒が入ること自体珍しいというのもあるんだろうけど、まさかここまで警戒されているとは。

 別に僕たちが望んで問題児になってるわけじゃないので、できれば勘弁してほしいんだけど。ま、愚痴っても仕方ないか。

「それで実際、どうするんだ、佳苗は」

「うん……まあ、どんな部か確認はするけど、一応工作部を見るだけ見てみるよ。そういう洋介は?」

「んー……野球はちょっと、苦手なんだよな」

 …………。

「ルール覚えてねえんだよ」

「ああ、なるほど……サッカーは?」

「サッカーのほうがまだましだな……一応覚えてる。だからまあ、とりあえずサッカー部かな?」

 見るだけは見てみるつもりだぜ、と洋輔は言った。

「バレー部とかもあるよ」

「バレーボールなあ。あれ反射神経いるだろ。俺そんなにねーもん」

 ふうん。そんなものか。

「サッカー部さ、見に行くなら、僕も行くだけ行っていい?」

「そりゃいいけど、お前もサッカー部入るのか?」

「見るだけだよ。マネージャーとかならやってもいいけど、僕、そこまで運動は得意じゃないからね。走り込みとかはしたくない」

「やれやれだな」

 まあ佳苗らしいけど、と言いつつ、洋輔は僕の頭を撫でてきた。

 子ども扱いされてもなあ。同い年なんだけど。

 ともあれ、部活の見学は早速、今日からしてみるか。

「さてと。お昼休み、そろそろ終わっちゃうね」

「だな。次の教科なんだっけ?」

「国語」

「じゃあ急がないでいいか」

 遅刻しなければ、ね。


 その日の放課後、僕と洋輔は校庭の隅のベンチに座っていた。

 なんでこんなところにベンチが、と思わないこともないのだけど、あるものは便利に使わせてもらう。

 で、すでに部活はちらほらと始まっていて、どうやら今日校庭を使うのは野球部とサッカー部、そして陸上部らしい。

「やっぱりみんな走るんだね」

「体力はどの部でも使うからなー」

「正直、めんどくさそう」

 身もふたもない感想を漏らすと、洋輔は乾いた笑みを浮かべた。

「体力……か」

「俺たちも体力落ちてるからなあ。しばらくベッドの上だったし」

「そうなんだよね。どうしよっか?」

「いやあ、どうもこうも、なるようにしかならねーよ。来週体力テストがあるから、それまでにどこまで戻せるかだな」

「それさ、ほとんど準備期間ないよね。大体、そこまでにどこまで怪我が治るか……」

「まーな」

 といっても、すでにけがはほとんど治ってたりする。

 まだちょっと突っ張るような感覚はあるけど、痛みはほとんどないし、傷跡もほとんど気にならない程度にはなっている。

 それに。

「通院さえ終われば、もうどうにでもできるしな」

「そう考えると、次の通院が鍵だね」

「おう。……で、そっちの方はどうだ?」

「うん。ちょうどいい『口実』も、今日もらったから」

 と言いつつ、ひらひらとしたのは部活の一覧が掛かれたプリントだ。

「洋輔さえよければ、すぐにでもやろうかなと思ってる」

「いいぜ」

「らっきー」

「材料は?」

「その辺にたくさん転がってるよ」

「…………」

 という訳でベンチに荷物を置いて、校庭に転がっている石をいくつか拾って、と。

 片手で持てる程度の量があれば十分だろう。

 周囲、特に近くに人がいないことを確認して……幸い、校庭ではすでに声出しが始まっている。

 多少音がしてもバレないだろう。

 魔力で袋を作って、そこに拾った石を投入、錬金。

 ふぁん。

 即座に袋を消して、僕の手のひらの上に残ったのは二枚の透明な板だ。

「ね?」

「……ね? って言われてもな。相変わらず理不尽だろ」

「今更でしょ」

 石に含まれる石英などを強調する形で錬金術を行使することでガラスが作れるのは、あっちで実践済み。

 あとは、ポケットに入れたおいたプラスチックの定規を取り出して、と。

「その定規は?」

「これね。ほら、部屋で最近いろいろ作ってるのは知ってるでしょ。あの時に壊しちゃって」

「あー……」

 ちょっと無理に使ったらぱきんと折れてしまったのだ。反省。

 でもまあ、ちょうどいいので使わせてもらう。

 先ほど作った『ガラス板』と、半分ほどで折れているプラスチックの定規を、改めて作った魔力の器に投入し、足で洋輔の太ももを軽く小突くと、洋輔は目を閉じ、すぐに開けた。

 そして、袋の中に圧力を感じたので、そのまま錬金。

 ふぃんっ。

 袋を消してっと……よしよし。

「で、完成か」

「うん」

 僕は作ったばかりの眼鏡を着用しながら答える。

 うわあ、やっぱり慣れないなあ。

「度は入れてないから、伊達メガネだけどね」

「まあ、変に度を入れてもな。目が悪くなるだけだ」

 そういうこと。

「改良はどうする?」

「全部やっちゃおうか」

「おっけ」

 眼鏡をはずして、また器に投入。

 錬金術をふぃんとやって、はい、改良おしまい。

 『表しの眼鏡』、あっちの世界で使っていたものと多少デザインや材質、それと丈夫さとかはだいぶ違うけど、おおむねの機能は同じになった、はずだ。

 改めて眼鏡をかけて、色々と確認。

「どうだ」

「まだ慣れてないよ」

「そうじゃなくて」

「バッチリ」

「そっか」

 表しの眼鏡。

 錬金術の材料、マテリアルとして認識したものの『品質値』を表示するという機能と、魔力を流している間、洋輔の『剛柔剣(ベクトラベル)』の感覚を視覚的に表すという機能の二つを付与した特殊な道具だ。

 あっちの世界で使っていたそれは様々な特異マテリアル――つまり特殊な材料を投入して、とにもかくにも頑丈に作っておいたのだけれど、残念ながらこっちではそれらの特異マテリアルがまだ用意できていない。エッセンシアを使うからなあ、薬草を用意しなきゃ。

 でもまあ、そういった丈夫さとかを考えないならば、とにかく最初に作るべきものはこれである。

 さっきも述べたように、これのメインの機能は『マテリアルとして認識したものの品質値を表示する』、だ。

 薬草には品質値が存在しない――だから、薬草と雑草はこれを通して確認すれば、見分けができる。

 あとはこれをかけて、片っ端から草の品質値を見ていけばいいだけのことってわけだ。

 ちなみに品質値が表示できないのは薬草以外にもあって、それは『生き物』である。

 生き物は錬金術のマテリアルにできない。

 逆に言えば、なんか生きてるように見えても、品質値が表示されているならばそれは死体やまがい物ということだ。

 便利だよね。

 せっかくだから一通りの者の品質値を確認してみる。手近なところでは今、僕が着ている制服とか。

 品質値は……、6226。反応に困る感じだ。

 いや、等級でいえば三級品だから、かなり高い部類なんだけどね。

「しかしまあ、あれだな。ファッションメガネにしか見えん」

 そりゃそうだ。

 品質値の表示は錬金術師にしか見えることができない。錬金術という技術が扱えない限り、そもそもマテリアルとして対象をとることができないからだ。

 で、もう一つの機能、ベクトラベルを視界的に表すというものも、別にレンズに表示されるわけではなく、魔力を通すことで視界にオーバーレイする感じなので、はたから見ればただの伊達メガネである。

 しかも弦の部分の材料がプラスチックだから、そこまで高級品でもないし……ね。

「しかしこれは聞かせておいてほしいんだけど、それを得た口実って具体的にはどうするんだ?」

「演劇部の見学をしたら先輩がくれたって方向で」

「なるほどな」

 演劇用の眼鏡とかありそうだし。

「じゃ、お前はこれからアレを探す感じか」

 アレ。薬草のことだな。

 僕はうなずく。

「ちなみに見つかったとして、どこに置くんだ?」

「それが、悩みどころでね……庭っていうほど広くもないけど、まあ土があるから、そこに置こうかと思ったけど。いちいち外に出るのも面倒だし」

「だよなあ」

 僕と洋輔の家には、狭いながらに庭……のようなものがある。

 このあたりでは珍しかったり。あんまり意識してなかったけど、考えてみれば裕福なんだろう。

 庭のサイズは大体六畳くらいだっけ?

 走り回るのはかなりつらいけど、花火で遊んだりバーベキューをしたりするくらいのことはできるのだ。

 ちなみにお母さんは家庭菜園もどきをそこでしていた時期がある。二年前あたりに面倒になったのか、やめてしまったようだけれど。

 ふむ。

 考えてみれば、この家庭菜園もどきの経験は利用できるかもな……。

 ま、それはそれとして。

「小さなプランターを用意して、そこで……かな。効率すごい悪いけど」

「ま、妥当ではあるか」

「うん」

 それに、ティッシュ箱よろしく必要なときに必要な分引っこ抜くという使い方もできる。

 取り置きをしたり、一気に百個くらいほしいときとかはちょっと面倒だけど……。

「どのみち、置き場がない」

「ああ、その点についてちょっと考えがあるんだ」

 うん?

「倉庫部屋使わねえ?」

 ……へ?

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