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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第七章 中間考査の平和な一幕
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130 - 夜明けのキャット

 日曜日、朝。

 作るべきものは昨日のうちに概ね作り終えてしまったので、今日は結構やるべきことが無かったり。

 キャットタワーとか猫砂とか、いろいろと用意しないといけないものはあるけど、どこに置くのかとかは考えないといけないよなあ。

「おはよー」

「おはよう、佳苗」

「あれ、お父さんは?」

「朝早くにお出かけしたわ。鶴来さんと一緒に」

「ふうん」

 朝早く……釣りかな。

 お父さん、洋輔のお父さんと一緒にいくことがたまにあるし。

「ねえお母さん。キャットタワーとかも用意するつもりなんだけれど、どこに置けばいいと思う?」

「その辺りを考えるのも佳苗に任せるわ」

「リビングに置きたいんだけど、僕の部屋にも置きたくて」

「両方に置けばいいんじゃないかしら」

 それもそうか。

 邪魔になったら退かせばいいし。そうしよう。

 で、朝ごはんのトーストを食べようとしたところで電話が。

「佳苗、出てくれる?」

「はあい」

 ま、トーストは逃げないし。

 電話を取って、もしもし、渡来です、と。

『おはようございます。朝にすみません、弓矢です。佳苗くんはいますか』

「あ、僕が佳苗だけど。昌くん?」

『ああ、やっぱりそうか。電話越しだとわかりにくいよね』

「だよね。どうしたの?」

『さっき、スマフォにかけたんだけど。出なかったから』

「ごめん。今ちょうど朝ごはん食べたりしてたから、スマフォ部屋なんだ。気づかなかった」

『ううん、そういうことなら仕方ないよ。えっとね、佳苗。今日、よかったらうちに来れるかな?』

「今日?」

 ちらりと外を見る。晴れてはいないけど雨の気配もしない。曇天、何とも反応に困るものだ。

「いいよ。何時ごろに行けばいい?」

『あんまり遅くなると困るけど、基本的にはいつでもいいよ。ごめんね、呼びつけちゃって』

「気にしないで。それじゃあ……んーと、朝はちょっとやることがあるから、十時ごろでいいかな」

『わかった。じゃ、待ってるね』

「りょーかい。また後でね」

 というわけで今日の予定が出来た。

「お母さん。今、昌くんから電話があって、遊びに来てほしいみたいな感じだったから行ってくるよ」

「そう。十時ってことは、お昼は良いのね」

「たぶんね。夕飯は家で食べるつもりだけど、遅くなりそうなら電話するよ」

「わかったわ。ちゃんとお土産もっていきなさいよ」

「うん。スイートポテトとか持っていく」

 この前食べたいって言ってたしね。


 というわけで午前十時、ちょっと前。

 色々と準備を終えてあと少しで弓矢くんの家、というところでスマフォの時計を確認、思ったより早くついてしまった。

 ちょっと時間をつぶしていくか、それとも早いけど向かうか。

 まあ、神社にでも寄って行ってもいいか。お供えとか持ってないけど。

 いやそもそも、神社ってお供えいるのかな?

 と、歩みを進めていくと、既に昌くんが神社の前に立っていた。

 どうやら待っていてくれたらしく、僕を見つけるなり手を振って呼び寄せてきた。

「ごめんごめん。急に呼び立てて、悪いね」

「いやあ、今日は暇だったし。ちょうどいいよ。あ、これお土産のスイートポテト。晶くんに」

「気にしないでいいのに。ありがとう、いただくよ。じゃ、とりあえずぼくの家に」

「うん」

 案内されて歩みを……、うん?

 もしかして、

「昌くん。ひょっとして猫がいるとか?」

「……え? なんで?」

「毛はついてないけど、猫の匂いがする……」

 匂い的にはちょうどやんちゃ盛りになりはじめた小猫だろうか。

 たぶんオスだな。

 そんなこんなで昌くんの家へ到着、すると、玄関の前には晶くんが、短毛種のサバトラちゃんを抱いていた。

 その目は右目が金色、左目は青色。

 晶くんと似たような、かなりくっきりと分かれてるタイプのオッドアイ猫だった。

「いらっしゃい、渡来さん!」

「おはよう、晶くん」

「あ、ちょっと、ゆーと、だめだよ暴れちゃ」

 ゆーと?

 ああ、猫の名前か。

 晶くんの腕の中で大人しくしていたその小猫は、僕を見るなり暴れ始めている。

 別に僕を見たからというよりも、単に持ち方が気に入らないとか、その辺りだと思うけれど。

「その子の名前が、ゆーと……くん、かな?」

「はい。ゆーと、挨拶しよ」

「晶。さすがに猫にそれは、」

「にゃあ」

「え、するの? ゆーと、人間の言葉分かるの?」

 いや今のも甘えたり了解否定をしたという感じではない。

「晶にばっかり懐いちゃって……。ぼくにもすこしは甘えてほしいなあ」

「へへへー。にーちゃんも意外と頼りないよなー」

「…………」

 これは……言うべきか、言わずにそっとしておくべきか……。

「ね、佳苗。その辺どう思う?」

「あ、ボクも気になる。渡来さんはどう思いますか?」

「……その子の代弁をすると、『持ち方が気に入らない』『おなかすいた飯よこせ下僕』って感じだよ」

「え?」

「げぼく?」

「うん。現状その子はどうも、晶くんを下に見てるね。便利な手下みたいに。でも昌くんに至っては『どうでもいい』扱いしてるし、そっちと比べればマシかなあ……」

「…………」

 ショックを受けつつも撫でているあたり晶くんは猫がすきなようだ。偉い。

「佳苗って猫の気持ちがわかるんだね……」

「大体は動きとか表情とかでわかるよ。長年大量の猫と接してきたからかな」

「将来は猫博士?」

「それってお金になるかな?」

「微妙なところだね。まあ、いいや。実は昨晩、佳苗に教えてもらったブリーダーさんから紹介してもらって、譲ってもらったんだ。そのことを電話で伝えるよりも、実際に会ってもらった方がいいかなって思ってね。迷惑だったかな」

「とんでもない。いい出会いがあったようで何よりだよ。ね、ゆーと。……そうだ。せっかくだし、猫のトイレとかのしつけ、ちょっとだけ手伝ってあげるよ」

「本当? 助かるよ。どうやればいいのか、結構手探りだったから」

 どうやるも何も、言い聞かせるだけなんだけどね。

 ま、玄関前でずっと話しているのもあれだということで、屋内へ。部屋の中に入って玄関の扉が閉まったのを確認してから、晶くんはゆーとを床に置いた。一応逃げないようにと工夫は凝らしているようだ。

 当然ながらゆーとはまだこの家に慣れているわけでもないようで、好奇心と警戒心が上手い事葛藤しているようだ。

 ちらちらとあちらこちらに視線を向けて、安全を確認しては数歩歩いて、という感じ。

「触ってもいい?」

「どうぞ」

「もちろん」

 二人の許可も貰ったので、ゆーとの頭を、そしてそのまま首から背にかけてを撫でてやる。

 ふーむ。

 まさかサバトラとは思いもしなかったな……オッドアイの子ってほとんど白猫だからなあ。

 でもま、レアなりに居ないわけじゃないか。

「…………。ゆーとが全然暴れないどころか、自分からころんっておなか出してる……」

「さすがの猫誑し……。昨日ぼくたちがどんだけの苦労をしてようやく触れるようになったのかとか、そのあたりの苦労は分かち合えそうにないね……」

「撫で方が気に入らないとか、そういうサインを見逃したんじゃないの。ちなみにこの子はこの辺りを撫でると喜ぶタイプみたい。あ、でもちょっとでも横にずれるとすっごい怒るから気を付けてね」

「おかしい。なんでこの人、自分の飼い猫でもない猫の好みがもう把握できてるの、にーちゃん」

「さあ。佳苗だからとしか言えないんじゃないかな……」

「ちょっと、昌くんも晶くんも。二人も覚えてあげてね。ちゃんとこの子が喜ぶところを覚えておけば、自然と懐いてくれるからね」

 たぶん。

 少なくとも機嫌を損ねて引っ掻かれる回数は減るだろう。

 まあそれはそれとして、かねてからの疑問は先にこっそりと解消しておくことにしよう。

 ゆーとの視線の動きや体全体の反応、尻尾の揺れ方とかを含めて軽く辺りはつけておいて、さらに指を使って反応を確認。

 ふむ。

「何してるんですか、渡来さん」

 あ、ばれた。

「……まあ、隠すことでもないしね。言っておくか。いや、オッドアイの猫って、視力的なハンデを負ってる事がままあってさ。この子は大丈夫かな? って確認してたの」

「そういえば、紹介してくれる時にもそんな事、佳苗が言ってたっけ……。何かわかった?」

「うん。この子は他の猫たちと変わらない。視力に異常はないと思う」

 少なくとも現時点ではそれらしきそぶりはない。動体視力も含めてね。

「やんちゃ盛りが始まると、いろんなところを壊したりするから、そういうのは、あらかじめ気を付けておくといいよ」

「そうする。それと、トイレのしつけはどうやればいいのかな?」

「猫砂のやつ?」

「うん」

「そこまで連れて行ってくれる?」

「もちろん」

 という訳で、家にお邪魔してから少し歩いた縁側横の部屋。

 そこには猫砂タイプの猫用トイレが置かれていて、他にも大型のキャットタワーや猫が好むような箱型のクッションなどが置いてあった。

 ここがゆーとの部屋、みたいな感じらしい。ちなみにフローリングで、壁も一応保護はしてある。

 でもふすまなんだよね。

「ふすまは……まあ、うん。頑張ってね」

「……やっぱりボロボロになるかな?」

「慣れてきたらすごい勢いでなるとは思う……。それと、底に置いてあるツボとか、できれば退かした方がいいよ。まだゆーとには届かないだろうけど、中に入って出られなくなったり、頭だけ入って引っかかったりする可能性もあるし、そうじゃなくてもゆーとは好奇心がある方みたいだから、近寄って寄りかかって、倒して割っちゃうかも。ツボそのものが割れても構わないとしても、その破片がゆーとを怪我させちゃうかもしれないよ」

「なるほど。じゃあ、退かして代わりに猫用のおもちゃでも置くか」

 それが無難だろう。

「さてと、ゆーと。ゆーと、ちょっとこっちおいで。そう。で、底の砂の上に来なさい。偉い。撫でてあげよう。いいかい、トイレは全部そこですること。いい? ちゃんと掃除はこのお兄ちゃんたちがしてくれるって言うから、もし汚れてて気に入らないとかがあったら、どっちかに言えばいいんだ。わかった? わかったらにゃんと鳴きなさい」

「いやさすがにそれは無理じゃ「にゃん」ええ……」

「あはは、ごめんね、晶くん。僕は別に猫と意思疎通ができるわけじゃないんだけど、不思議と言ったことは聞いてくれるんだよねえ」

「それって世間的には意思疎通ができてるってやつなんじゃ……」

「いやあ。別にお互いにそれとなく察してるだけだから、実際にこの子が本当にそう考えているのか、とかは分かんないよ」

 猫語は流石に習得できそうにもない。

「ちなみにゆーとはどこで寝るの?」

「特に寝床は決めてないね。どこでもお好きに、ただし外には出ないでほしいなあって程度」

「ふうん。この家は広いしね……、家の中でも運動不足にはなりにくいんじゃないかな。ただ、外に出るなと言うのは厳しい気もするね。縁側、普段は開いてるんでしょ?」

「うん。……だから、まあ、庭まではいいんだけれど。そこから外に出られると、ちょっと」

「ふうむ」

 庭もなあ。鯉とかいる池もあるし、ちょっと危ないと言えば危ない。

 まあ大丈夫か。この子も見た感じ、そこまで水が得意なわけでもなさそうだし。

「門はいくつあるんだっけ」

「今日もだけど、佳苗が通った正面の門と、それと反対側にもう一個、道場の入り口にしてるもんがある。あとは門じゃなくて勝手口だけど、それが西側に」

「その三つだけ?」

「その三つだよ」

「案内してくれるかな。ゆーとに言い聞かせるから」

「……なんだろう。普段なら『何言ってるんだろうこの人……』ってなるんだけど、渡来さんならやりかねないような気がしてきた」

「いやあ、さすがにこれは言い聞かせられるかどうかは微妙だけど、やらないよりかはマシって程度かな。ほら、ゆーと。晶くんの肩の上にでも乗りなさいな。爪をたてちゃだめだよ、痛いからね」

 にゃん、とゆーとは晶くんの足元に近づき、晶くんはおずおずとゆーとを拾い上げる。

 すると、ゆーとはするりと手から抜け出て腕を伝い、そのまま晶くんの肩の上へ。

 二人そろって似たような目の色、なんだかとてもお似合いだ。

「でも、佳苗には本当に感謝してもしきれないね。こんな良い子とめぐり合わせがあったんだから」

「そう言ってくれると嬉しいよ」

 僕は電話しかしていないけれど。

 でも笑顔の二人を見れば、なんだかいい事をした気にもなる。

 それにそっち側から言ってくれたことは、本当に幸いなのだ。

 洋輔と二人でどう切り出そうか、と悩んでいた晶くんの現状確認もできたしさ。

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