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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第一章 二十日遅れの中学生活
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10 - 改善点と脚本づくり

 わいのわいのと騒いでいるところに緒方先生が到着。

 そして、白雪姫ドレスを纏った皆方先輩を見るや、

「え? なんだいそれは……?」

 とドン引きしていた。

 あれ?

「すごいのよ、さゆりん! かーくん、昨日の今日で作ってきちゃった! しかもサイズもぴったりなの。すごいわよね!」

「え……? 作った? 渡来くんが?」

 はい、と頷く横で、洋輔が『ほら見たことか』といった感じの視線を向けてきていた。

 ううむ。さすがに品質値9000オーバー、特級品はやりすぎたか……?

 でもなあ、別に品質補正をしてない状態でそれだからなあ。

 もともとの布材がいいものだったし。

「見様見真似なので、ちょっと強引なところもありますけど……。この絵本の表紙とかにある絵から、だいたいこうなってるかな? みたいなのを決めて、作った感じです」

「そう……。想定していた以上にすさまじい出来ね……売ってたものを買ってきたにしてもものが良すぎる……」

「あ、さゆりんもそう思うよね? これ買うとしたらいくらするかな?」

「六桁は行くわね」

 そうかな?

「宝石っぽく見せてるのは色付きガラスだし、そんなに高級感ありますか?」

「だって、この刺繍とか、すごく手間がかかったでしょう。それに生地の使い方も上手だし……。着心地はどう?」

「なかなかですよ。コルセットをしてその上から着てるんですけど、動きやすさは学生服並みです」

 学生服並み……って動きにくくない?

 と思ったけど、女の子だもんな。学ランじゃないか。

 なお、この中学校の女子制服はセーラー服。

 結構動きやすいのかな?

「なんというか……。作った本人が誇らしげでもなく、淡々としてるのがかえってぼくには気になるんだが。かーくん。君はどう思ってるのかな」

「どう、ですか」

「本音でいいぞ」

 ふむ。

「じゃあ、遠慮なく。やっぱりタイツくらいは用意するべきでしたかね……足元がさみしすぎますし。靴も準備できればそれが一番だったんですけど……あとで全員、靴のサイズ教えてください。ちょっといろいろ試してみるので。で、白雪姫のドレス一号は、まだ改善できそうですね。リボンをもうちょっとふんわりした感じの素材にすればもっと豪華にできるし、そっちのほうがかわいいかも。あとフリルももうちょっと足して大丈夫かな? 現状だと思ったより大人しいって感じですもんね。大人の色気を出すなら逆に削らないとダメですけど、白雪姫ってそんな大人なイメージもないし。あとあと、ティアラとか、ブレスレット、ネックレス。イヤリングは……やりすぎかな、さすがに。でも耳元にも何かが一応ほしいですよね。真珠とかがいいのかな。まあ本物の真珠は高いから適当な加工してでっちあげますけど。あ、でもイヤリングって痛いんだっけ……ピアスは校則で禁止だから、論外だし。なら、テープで張り付けられるタイプのやつを探してみますか。他の装飾品と言えば、足元かな。靴の上にアンクレットがあってもよさそうです。つまり、全体的なシルエットはあんまり変えずに、フリルとかアクセでゴージャス感を出して……あとは、光をどの程度反射させるか、くらいですかね、工夫の余地は。シルエットを変えるなら、袖のあたりをもうちょっとふんわりさせてもいいかな。でもあんまりやりすぎると、今度はくどいし。難しいところです。何か改善のご要望ありませんか?」

「かーくんが全然満足してないのはわかったが、え? こんだけのものを作っておいてまだ満足してないのか?」

「だってどうせそろえるなら、全部作りたくなりません? 靴は作ったことないから、さすがに苦戦するでしょうから、なんか別の策も取らないとだめかもしれませんけど。アクセサリー系統も、言っちゃえば百円ショップとかで材料はそろいますからね。あとはそれを組み上げたり色を変えたり……。工作の範疇になっちゃいますけど」

「はーい! かーくん、ガラスの靴履いてみたい!」

「ガラスですか……。さすがにそれは……」

「あ、やっぱり無理よね?」

「いえ、無理かどうかはやってみないとわかんないですけど、万が一できたとしても耐久性に問題がありすぎます。どれほどの分厚さで作るか、とかもあるんでしょうけど、ちょっと力を入れて歩いたら割れて大惨事、なんてことになったら大変ですよ。だからガラス製はちょっと。シリコンとかアクリルとかああいう素材でガラスのような靴、とかは作れそうですよね。そこまで苦労もしなさそうだし……あ、でもそうすると今度は割れないのが問題になっちゃいますか? 割ることを前提にした脚本だとしたら、うーん。でもなあ。安全には変えられないよなあ。ならば履く用途のアクリル製と、割る用途のガラス製……いやでも割る前提だとしてもガラスは危ないですから、水あめとかで『割れる』けどさほど怪我にはならないようなものを再現してみますか? ほら、テレビとかのドラマの手法で、『割れるガラス』あるじゃないですか。あれ、水あめ使ってることが多いんですって。割りやすくて比較的安全」

「あ、うん。そう」

 うん?

 と、声を上げたナタリアさんに視線を向けると、ナタリアさんはがしり、と僕の頭をつかんできた。

 え?

「かーくん。あなたが職人気質なのはわかったわ。しかも『好きだから』やってて、その上で実力が伴ってる稀有な例よ。だからこそ、かーくん。あなたにはこれを言っておかなければならないわ」

「言っておくこと?」

「あたしのドレスは少しゆったりとさせて頂戴。あたし、身体のラインが直接出るのは苦手なの」

「なるほど……。体のライン、ですか。僕が見た感じ、ナタリアさんはかなり整ってますし、あんまり気にしないでいいと思いますけど。むしろモデル体型って感じです」

「褒めてもらえるのはとても嬉しいけど、あたし、あんまり身体を見られるのが好きじゃないのよ」

 ふうむ。

 袖が無い類のドレスとか、すごく似合いそうなんだけど……。

 本人が嫌がるならば別の手を考えるべきだろう。

「だからウェディングドレスみたいな、ゆったりとしたものが理想ね。……まあ、次の役が女王だから、ウェディングドレスはどうかと思うけれど」

「あ、それで思い出したんですけど。女王様のドレスってどんなのがいいですか? なにか資料があると、作りやすいんですけど……」

「うーん。実際の写真とかがいいのよね?」

「別にアニメのキャラとかでもいいですよ」

 大体のディティールさえわかるなら。

「悪役であることをイメージ付けるなら、ちょっと魔女っぽい感じにしたいし。悪女ってことをイメージ付けるなら、魔女じゃなくてこう、大人な感じの服装かな。実は女王様は普通だった! で押すなら、いかにも女王様! って感じのドレスでもいいですからね。どうします?」

「……えっと。ちょっと待ってね、かーくん。りーりん、脚本はどうなるの? 今月中納期だけど」

「納期には間に合わせますよ。いまんとこ、せりふ回しの調整とかしてます。ただ、ストーリー自体はおおむねできてるんで、ここで簡単に説明しちゃうっすよ。かーくんもその方がイメージ付きやすいだろうし」

 そうしてくれるとありがたい、と頷けば、鹿倉先輩は話し出す。

 演目『白雪姫』、その粗筋。

 ……といってもまあ、基本的には原作に忠実だ。

 ちょっと違う点も一応あって、それは王妃のキャラ付けと、魔法の鏡である。

 王妃は、王妃に注がれている寵愛を奪いつつあった白雪姫を疎ましく思っていた。それは真実だ。

 だが、王妃は己の娘同然として白雪姫を扱っていて、そして愛してもいた。

 だからこそ、王妃は決して白雪姫を殺そうとは思っていなかったのである。

 暗殺者ではなく、あえて白雪姫と仲の良い狩人を嗾けた。狩人が白雪姫を殺せないことを見越したうえで。

 しかし鏡は答える。白雪姫が生きていると。その魔法の鏡とは、国王の心を写す鏡なのだ。

 つまり、国王は白雪姫が生きているとどこかで思っている。それはそう思い込みたいだけなのかもしれないが、もはや確信に近い。

 であるならば、と王妃は手を打った。

 それが隣国の王子で、その王子と白雪姫を結ばせ、白雪姫を隣国の王妃にしてしまおう……という計画である。

 隣国の王子はもともと白雪姫のことを好いていたので、それを利用しようという魂胆だ。そして王妃の接触を受けた王子は、あっさりとそれを受諾。

 白雪姫が生きているとはいえ、森のどこにいるかはわからない。

 小人の家をなんとか見つけた隣国の王子は、その家で、ガラスの棺に納められた白雪姫を発見するのだった。

「つまり、魔女の下りはオールカットの方向?」

「そのつもりっすね。王妃様を悪人になり切れなかった優しい人として位置付けてるので」

 ナタリア先輩の確認に鹿倉先輩が答えると、ナタリア先輩は数度うなずく。

「それに、毒りんごを食べて死んだ白雪姫が、りんごを吐き出したから解毒! ってのは個人的になんか違うんっすよ」

「ああ。それは私も思ったことがあるわー。でもあれ、調べてみると一番最初に発表された白雪姫の原型だと、呪術的なものなんですってね」

「こほん」

 脱線を誘発する皆方部長をわざとらしい咳払いで抑え込んだのは藍沢先輩。なんていうか扱いに慣れてる感じ。

「だから、単に行商人から買った林檎を食べていたらのどに詰まらせて失神、仮死状態になってた。そこを王子が訪れ、棺ごと小人たちから受け取り、王妃にどのように説明すればよいのだろうとか考えていると、棺を運んでいた従者の足が縺れ、ガラスの棺が地面に落ちた。その時、のどに詰まっていた林檎の欠片が吐き出され、白雪姫は蘇り、そのまま王子様と婚約。そのことを知った王妃は一息ついて、鏡に問いかける。鏡よ鏡、この世界で一番愛しているのは誰かしら。鏡は答える。それはお前、王妃のみ――って感じのエンディングかなーって」

「ハッピーエンドと言えばハッピーエンドだけど、微妙に国王様がかわいそうね。主に頭が」

 ナタリア先輩はすっとそんな突っ込みを入れる。まあ、気持ちはわかるけど……。

 ともあれ、今のでだいたい必要そうなものと不要そうなものが判明。

 今回は小人たちがちょっと役だから、小人の人形はそこまできっちりした者である必要はないし、そもそも魔女が登場しないから、魔女の服はいらない。

 代わりに国王……王様の服はちゃんと用意する必要があって、従者もまたしかり。

「確認させてください。王様役は、藍沢先輩ですよね?」

「そうなるな」

「従者役は?」

「友人に声をかけて、そいつらにやってもらうよ。助っ人だな」

 ふむ?

「その人とは早めに会いたいですね。服、どのくらいのサイズで作るのかーとか、あるので。最悪フリーサイズでも作りますけど……」

「なら、できればフリーサイズがいいんじゃないかな。別の作品での使いまわしやりやすいしさ」

 と、緒方先生。それもそうだ、部費は無制限にあるわけではないのだ。

「その上で、女王……王妃の服は、それなら大人びた感じの、シックなものがいいかしらね……」

「色は?」

「ロイヤルブルーあたり?」

 ロイヤルブルー、というと、淡い青色か。

 ならシルクとかがいいのかなー。

「シルクってありましたっけ?」

「シルク、無いことはないと思うけど、量はちょっと」

 だよなあ。

「なら、生地はジョーゼット? でしたっけ、あれがいいかなあ……。そこそこ量あったし」

「でも白い奴しかないわよ?」

「そんなの染めればいいだけのことです」

「…………」

 いや本当に。

「大人っぽい、って意味だと、フリルよりもレースですよね。でもあんまり身体を露出したくないなら、マントみたいなものを羽織ってみるとか……いやでも王妃様がマントはないか。うーん。まあ、生地についてはいろいろと試してみます。けどやっぱり、ディティールというか、イメージというか……。そういうのがほしいですね」

「うーん……。ぱっと思いつくアニメとかのキャラ、もいないのよね。私の絵でいい?」

「はい。大体のイメージ、って形になるかもしれませんけど、それでもいいなら」

「じゃあ今描くわ。ノート……、は」

「あ、かーくんがこれの着方を書いてきてくれたノートがあるので、これを使うといいですよー」

 よしよし。

 女子の先輩二人がわいのわいのと相談を始めたのを見て、僕はもう少し考えてみる。

 大人っぽい装飾ってなんだろう。宝石?

 でも宝石そのものは使いにくいから、また着色したガラスかな。

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