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黒迄現在夢現  作者: 朝霞ちさめ
第六章 水無月空模様
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113 - それはともかくプール開き

 合同練習当日は、帰宅後そこそこ溜まっていた疲労を癒して早めに就寝。

 翌日の月曜日はすべて世はこともなく、ぼやっとしていれば火曜日に。

 ただの火曜日はともかくとして、今日という火曜日は結構特別な日だ。

 一時間目の道徳を終え、二時間目の理科も卒なく終えて、三時間目、体育。

 男子一同は着替えをもって上の階へと移動する。

「ついにプール開きかあ」

「うわあすごい笑顔。佳苗ってプール好きなの?」

「んー。まあ好きかな。結構、楽しいし」

「おれは憂鬱だけどな……めんどくせー。見学してえ」

「涼太くんとか、泳ぐの得意そうなのに」

「そこそこ得意といえば得意だけど、でも得意だからって好きかと言えば別だろ」

 一理ある。

 ともあれ皆で移動して、向かった先は四階だ。

 この学校の四階はちょっと奇妙な造りになっていて、三年生の教室や職員室のある本校舎の四階には単に特別室が設置されているのだけど、一、二年生の教室がある新校舎側の四階はプールになっているのである。

 ちなみに入り口手前が更衣室。

 男子は教室で着替えとかもザラだった小学生時代と比べればいい時代になったものだ。ちゃんと更衣室が使えるのは素晴らしい。

 先生曰く、別にどのロッカーを使ってもいいとのこと。

 適当にシャワーの近場を取っておくことにすると、隣に郁也くん、更にその次が昌くん。

 何ともわかりやすいと言えばわかりやすい。洋輔はちょっと遠めだけど、代わりに前多くんや涼太くん、信吾くんらと近い感じ。

 さっさと着替えを済ませて、というところで。

「……佳苗。やっぱり、また怪我してない?」

 と、郁也くんに指摘された。

 え?

 と、指の指された部分、右脇のあたりを見てみる。

 確かにちょっと赤い線が。

 でも全然痛くないしかゆみも感じない。

「いつだったか、ちょっと前もなんか似たような傷……なかったっけ?」

「んー……」

 プールだとさすがに目立つよね、これ。

 しかも原因不明。本当に謎だ。

「まあこの程度、いたいのいたいのとんでいけーって撫でてれば消えるでしょ。痛くもないけど」

「いや佳苗。そんな都合よく……うわあ、本当に都合よく消えてる……?」

「もともと怪我じゃないしね、痛くなかったし。制服脱ぐときにでも何か引っかかったのかな」

「あー。たまにあるよね、それ」

 訝し気な昌くんに対して、郁也くんが上手い事乗ってきてくれたので助かった。

 ちなみに今は腕に通しているけどゴーグルにも一通りの機能はついていて、その機能を用いた治療をしていたり。

 賢者の石の効果で消えたということは、やっぱり怪我もしくはそれに類するモノっぽいんだけど、なんかやっぱり違うんだよね。

 とはいえちょっと不気味だし。今度洋輔にお願いしてリザレクションしてもらおっと。

 ともあれ。

 更衣室からプールに向かう通路の一部には別個のシャワーがあって、そこで簡単に身体を流す感じ。

 それが終わったらプールキャップを装着、ついでにゴーグルも装着。これでよし。

 シャワーを通ったその先には屋上プール。

 おー。高いところにプールがあるというのもなんか不思議な感覚だ。

「こら、佳苗。走るなよ」

「わかってるよ。小走りならいい?」

「ダメに決まってんだろ」

 それもそうだ、ということで早足歩きでプールサイドを一周。

 隅に近づけばプールの内側からは外の景色は見れるけど、逆は難しいだろうな。ブラインドの応用で柵が作られている。

 で、全方角を見た感じだと、プールをここを覗けそうなのは……、うーん。結構あるな。

 マンションの高層階とかからならば、フェンス関係なしに上から見下ろせる。屋上に屋根がないタイプだから当然なんだけど。

 まあ、一番近い高層マンションでも百メートルは余裕で離れてるから、よっぽど視力が良くてもあんまり見えないだろう。

 双眼鏡とか使えば関係ないし、ビデオカメラとかでも倍率の高いレンズ使ってればある程度は何とかなるだろうけど、そこまでしてプールを覘くとも考えにくい。

 女子ならまだしも、男子だしな。

 それでも気になる者は気になるということで、ゴーグルを装着、色別オン。

 緑が殆ど、青い人影は二つ。一つは洋輔、もう一つは昌くんか。一度青くなってからずっと青いんだよね、昌くん。ほとんど全面的に味方をしよう、みたいな感じなのかな? それこそ郁也くんに何かが起きない限りは。

 で、外の景色に赤はない。一応覗かれたりしたら『嫌だ』と考えたうえでの色別だから、もしカメラとか双眼鏡で覗こうとしているならば、そこが赤くなるはずである。けど、ドットほども赤は外になかったから、大丈夫そう。

 取り越し苦労ってやつかな。

 一応内側も確認、気になるのは……ん。

「それじゃあ授業を始めるから、集合ー」

 と、先生が声を上げて手を挙げた。プールサイドの反対側である。

 移動しなきゃ、と思いつつも、僕はそこに置いてあるパイプ椅子を手に取った。

「おい、佳苗。移動だよ移動」

「わかってるよ、洋輔。でも」

 パイプ椅子の脚をとんとんと叩くと、洋輔はいぶかしげにそこを見る。

 小さな穴が開いていて、それはたぶんネジか何かが本来は入っている穴なのかな。

 でも、そこにはレンズ的なものが埋まっていて。

 よく見つけるよなあ……、そのゴーグルは流石に便利すぎるだろ、とかいう洋輔の主張を表情で受け取り、洋輔がささっと周囲に気を配りつつも僕に「大丈夫だろ」と言った。

 ので、一瞬だけピュアキネシスを展開、瞬時に錬金、音はほぼなし、ピュアキネシス解除。

 はい、パイプ椅子の完成だ。見た目的には変わるまい。中身の機材はパイプ椅子の品質値に変換されたけども。ちなみに錬金前が3600で、今は5266である。

「じゃ、集合しようか」

 他に気になる赤はないし、ね。


 さて、プール開き、といっても最初のプールの授業は三年生と決まっているそうで、あくまで僕たちにとってのプール開きだけれど、準備体操をする前に簡単に施設に関して注意が施された。

 柵はかなり頑丈で、そこそこの衝撃には耐えてくれるけど、思いっきりタックルとかはしてはいけないとかそのあたり。まあ誰がするんだって話ではあるし、思いっきりタックルをしたところでその先には二メートルほどのテラス空間と、さらにその先には塀があるから、一気に外に飛び出てしまう恐れはない。

 それでも危険は危険だからな。四階基準とはいえ屋上だし。僕や洋輔ならともかく、他の子が落ちたらとてつもなく危険だし、僕だって眼鏡に類するこの道具が無い時だと結構危険である。筋力強化とか一通りを咄嗟に使えれば骨折くらいで済むかな? まあ、試してみたいわけがなく、無視。ていうか試せないってば。

 で、水泳中に具合が悪くなったりしたらすぐに先生に言う事、あとはプールの深さが中央に近づけば近づくほど深くなるから注意することなどが告げられて、いざ準備体操。

 陸上とは少し違ったそれを行って、いざ水泳の授業が始まった。

 まずは背の順で並んで、足の先からプールに漬けてゆく。じゃばじゃばと足を動かして、水の感覚を楽しんだり。

 次にプールの水をすくって足元へ、そしてゆっくりとおなか、胸へとかけてゆく。これで水温によるショック状態を回避。

 そこまでしてやっと、プールに入るわけだ。

 全身が冷たい水につつまれて、うん。なんか変な感覚。塩素の匂いもすごいよね。

「おい、佳苗」

「なに?」

「なに? じゃなくて。あんまりはしゃぐなよ」

「わかってるよ」

 ちょっと遠くからそんな洋輔の忠告が。

「どういうこと?」

 当然背の順なので真横にいる前多くんがそんなことを聞いてくるけど、それに答えたのは僕ではなく、比較的近くに居る信吾くんだった。

「もうちょっとすれば前多にもわかるよ」

 と。

 まずは水に潜るところから。

 次にバタ足。プールサイドにつかまって、ばたばたと足を動かすだけ。

 尚、プールは縦幅二十五メートル、横幅は四レーン分。目測だけど十五メートルくらいかな?

 深さは僕が立っているあたりは水深一メートルちょっと。真ん中の方だと口が水中になりそうだ。

 さて、その次にいよいよ蹴伸びである。

 蹴伸びといえば、プールサイドを壁替わりにしてそれを蹴って、水中をすすいと進むだけ。

 距離は人それぞれで、洋輔とかはそれだけであっさり反対側のプールサイドとかにもたどり着いていた。すごいよな。

「……渡来。どうした?」

「……いえ? その。覚悟を決めているだけで」

「覚悟?」

「なんでもありません。やります」

 まあ、動きは見てたし大丈夫だよね……?

 このゴーグルにも『理想の再現』って機能はつけてるし。うん、大丈夫大丈夫。

 水に潜って、壁に足を付けて、思いっきり蹴る。もちろん筋力強化とかは全部オフ。最悪の場合蹴破りかねない。

 とりあえず壁を蹴ることには成功。

 成功したんだけど。

 角度が違うのか、なんか水中というよりも床に一直線。ヤバい頭がぶつかる。

 慌ててブレーキをかけて立ち上がろうとするけど、まずブレーキの掛け方がわからない。幸い失速したから激突の恐れはないけど、地面がどこか分からない。いや水中に地面ってそもそもないよね?

 ってことはあれ、どこに立てばいいのこれ。いや目の前に床があるんだから床に足を、いやでも目の前に床があるんだから逆立ちしてるような状態なわけで、えっと身体を……。

 と、混乱しかけたところだった。

 すーっと水中を近づいてきたのは洋輔で、洋輔は僕の肩を抱えてそのまま水面へと向けて、思いっきり引っ張り出した。

 ぷはあ、と。

 久しぶりに空中で息をする感覚。

 すこしぜえぜえとしてしまっているのは、まあ、結構長く水中だったからな……。

 距離的には一メートルすら進んでないのだけど。

「言わんこっちゃねえ。案の定じゃねえか」

「ごめん……」

「……え? 渡来ってもしかして、あんだけ運動神経いいのに、泳げない……?」

 前多くんの問いかけに、僕は苦々しくも頷いた。

「どうもね。プールは好きだし、水の中で動くのも好きなんだけど。泳ぐ、となると、なんか泳ぎ方がまるで分らないというか……」

「へええ……。すっげー意外……」

「な、すぐにわかっただろ。小学生の時もそうだったしな」

 信吾くんの補足に心底納得したように前多くんは頷く。

 僕はそれにちょっと複雑な心境を抱きつつ先生に視線を向けると、先生としても意外だったらしい。

「あの渡来にも苦手分野があるとはなあ……。水中でパニックになったりするようなら、ゆっくりでいい。少しずつやっていこう」

「はい。ありがとうございます」

 ま、先生にはこう答えておくとして。

「それで、今はパニックになってなかったな。なんでだ?」

 洋輔は当然、小声で追及してくる。

 僕はそれにゴーグルを直すことで答えた。

「再生はうまく機能しなかったけど、水中呼吸できるようにしてあるんだよね。口呼吸じゃなくて肌呼吸」

「お前人間辞めるつもりか?」

 まあ僕もそれを全く思わないでもないけど、そういう道具が錬金術の完成品にあるんだから仕方がない。

 ちなみにその道具、本来の用途としては猟師さんが使うらしい。なるほど。

「ともあれ、向こう側まで……まあ先生遠いし、とりあえず俺が連れていくか」

「大丈夫だよ。歩きなら」

「そりゃそうだ」

 泳ぎじゃ無理だけどね。

 改めて水中を歩き始めて、ふともう一度、色別をオンにしてみる。

 基本は緑、人影は二つほどが青。

 そして見渡す限り、プールの水は真っ赤に染まっている。

 僕に害あり。

 わかり切ってたことだけれどね……。

 歩いて反対側のプールサイドに到着すると、前多くんが笑みを隠すような笑みで「珍しい一面がみれたなー」とつぶやいている。

 どうせならば笑みはきちんと隠してほしい。笑みを隠すような笑みって。

 それ全然隠せてないじゃん。

「泳げなくても、プール自体は嫌いじゃないんだな、渡来は」

「前多くんだって運動自体は嫌いじゃないでしょ」

「ああ。確かに」

 そもそも僕の場合も、こっちに帰ってくるまではそこまで運動が得意だったわけじゃないし。

 それでもやってて楽しかったのだ。

 特に全くできない水泳も、それでもプールに入る事それ自体は楽しくて仕方がない。

 頻繁に溺れかけてたけど、まあ、今なら大丈夫だ。水の中でも呼吸ができる、その一点だけでパニックがだいぶ遠ざかった感じがする。

 ようやくスタートラインに立ったというだけで、泳ぎ方はこれからだな……。

「……で、なににやにやしてるの、昌くんまで」

「ううん。普段無敵な佳苗の弱点見つけたーって喜んでるだけ」

 そういうのは隠そうよ……。

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