幕開け
栄次達、早稲木大学ラグビー部員らを襲い〝カワ〟を損傷したゲルは修復をするために研究所に戻っていた。バスを殴ったときに酷く傷ついたのである。
「あれはマズイことをしたな…」
ゲルはひどく落ち込んでいた。その調子でいると、研究室のモニターにはクロの姿があった。ゲルは完全に怯えていた。
「とんでもない大失態をしてしまいましたね〜」
穏やかな口調でゲルに言い放った。完全にゲルは悟っていた、自分の未来を。これによって組織の存在が公になる可能性を作ってしまった。
「も、申し訳ございません」
弱弱しい声で謝るゲル、その顔は完全に蒼白だった。こんなことをして生かしてもらえるのか、否死である。ゲルの目に生気はなかった。
「君は一回、大きな失敗を犯した。これをルールに照らせば君は処刑される…だが君にはチャンスをもう一度あげます。ですが次の出番は当分見送られるのでしばらくは休んでいて下さい。それでは…」
ゲルの顔に生気が蘇った瞬間だった。
「あ、有難うございます。」
ゲルがそう言うと研究室のモニターの電源が切れた。そして研究者に誘導されながら個室へと連れていかれた。
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栄次達、ラグビー部員らが乗っていたバスには死体が散乱していた。一人は腹部から臓物が飛び出す者もいれば、もう一人は頭蓋骨が木端微塵に砕けて顔が認識出来ない者。バスに乗っていた乗客及び運転手は合計49人だった。だがそこにあった死体の数は48体であった。1人分の死体が足りないのだ。その1人とは栄次だった。
襲われたトンネルから少し離れた小屋のベッドの上に栄次が居た。そしてベッドの前には白いワイシャツとジーンズを着た痩せ型のメガネの男が立っていた。
「やっと気づいたか。」
栄次が目を覚ました。だが栄次は右腕を失っていた。
「ここはどこだ…痛っ…腕がない」
栄次は今の現状を完全には理解出来ていなかった。
「お前、バスの周りで死にかけてたんだよ、何があったんだ」
男は栄次に心配そうな顔で問い詰める。
「俺はあの時、襲われたんだった…他の連中はどうしたんだ 」
片腕で男の体を掴みながら問い詰める。
「おそらく全員死んだと思う、お前1人だけ助かっただけでも奇跡と言ってもいい」
目を瞑りながら暗い顔で答えた。
「そうか、俺は朝日栄次…助けてもらった事は感謝している、ありがとう」
栄次の目から涙の雫がこぼれていた。
「俺は檜山右京だ、1つ聞きたいことがある、お前を襲ったのはおそらくルーナーだろう?俺も組織に家族を殺された、俺も半殺しにされた」
栄次は驚きを隠せなかった。ただ呆然と檜山の話を聞いているだけだった。
「信じられないかもしれないがその日を境に他の人間にはできないことができるようになった、その能力を使えばお前の腕を治すことが可能だ、だがその日からお前もこっち側人間になる…それだけだ」
その話を信じることが出来なかった。だが檜山が腕をまくると腕にはこの世のものとは思えない傷があった。
「わかった、腕を治してくれないか…これ以上何も失いたくない」
檜山が腕をかざすと右腕がみるみる間に修復されていった。
ここから栄次達の戦いの幕が開いたのだった。