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勇者タカユキと魔王の戦い~異世界パンツ英雄譚~  作者: 月見七春
第十五章 帝国ルーミリア、魔王と勇者
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第七十五話

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 再びの魔王城。

 あっさりと侵入できた時点で舐められている感じしかしない。

 むしろ壮大な罠が玉座の間にあるのかとひやひやしながら足を踏み入れた俺たちを、魔王は高笑いしながら迎え入れた。足下にお菓子の山があるあたりは子供&わがまま丸出しである。


「くくくっ。またきたか、勇者よ! どのような手でかはしらんが、人間にもどったようだな! こしゃくなやつめ!」

「もう……負けないぞ」


 クルルのパンツから大剣を出して構える俺に魔王が杖を掲げた。

 きます、というコハナの呟きにクルルが前に出た。


「悪魔に――」

「トゥス・レヘトヌ・リベラシオ!」

「なっちゃえー!」

「リュミエイレ!」


 魔王の杖から放たれた闇の閃光をクルルの光の魔法が迎え撃つ。

 溶け合う闇と光。轟音が鳴り響き、閃光に包まれた玉座の間でルカルーが飛んだ。

 壁を疾走する彼女の向かう先にあちこちから狼の魔物が出てきて飛びかかろうとする。

 けれど、ルカルーに届かない。ナコの放つ矢が彼らをことごとく貫くからだ。


「もとにもどれー!」


 ペロリが叫び、その手から淡い緑の光を放つ。打ち倒された狼たちが次々と魔物から人へと変わっていく。


「ぐっ、やるなあ! おまえたち!」


 魔王が叫んだ途端、彼女の周囲の空間に闇の球体が出現した。

 その中からありとあらゆる魔物が出てくる。


「クラリス様!」

「わかっています!」


 大鎌を手にするコハナとレイピアを手にするクラリスが前に出る。

 襲い来る魔物たちを迎え撃ち、クルルとペロリを守るためだ。

 見守っているつもりはない。俺もまたクルルの光のそばを疾走する。

 立ちふさがる魔物を端から切り飛ばして、魔王へと大剣を振り下ろした。

 取った!

 そう確信を抱いたのに、だめだった。


『ゆうしゃああああ!』


 真っ黒に染まったニコリスが俺の大剣を蹄で受け止めていたんだ。


「ニコリス!」


 ナコの悲痛な声が聞こえる。

 どれだけ二人の関係が歪んでいようと、それでも心配する優しい女の声だった。

 けれど、目の前の馬には聞こえていないようだ。

 怒り、猛り、その蹄で踏みつけようとしてくる。代償を感じたことがないのに、鎧の力を頼ることに躊躇いなどあろうはずもなし。

 大剣を消して弓を取り出す。ナコの弓――……彼女の力。

 勇者の武器が魔王の性質を壊すものならば!


『おまえさえ、おまえさえこなければ――!』


 弦をめいっぱい引いて、離す。

 空へと通り抜ける光の矢が幾重にも放たれ、馬の身体を穿ち、貫き、吹き飛ばした。

 正しく言おう。

 馬にとりついた黒い闇だけを、矢は確かに捉えたのだ。


「遠からず、酷い目にあっていたと思うぜ」


 光の馬へと姿を変えて消えていくかつての敵を、巫女の相棒を見送る。


「ぐぬぬぬ!」

「ふーっ!」


 クルルと魔王の攻防は一進一退を繰り返している。

 今のうちに倒せば、そう思った時に俺は見てしまった。


「まだ、手はあるぞ!」


 魔王が笑い、虚空から杖を取り出す様を。

 それはペロリがエルサレンで使っていた、あの杖だった。なくなったはずの杖だったのだ。


「重ねて、一つにして、二乗だ!」


 叫びながら魔王が杖を重ねると、それは一つに融合した。

 ドクロに血管が浮かび上がり、もこもこと肉が生えていく。

 不気味なそれは人の頭となって耳障りな叫び声をあげた。

 その途端に杖から放たれる闇の量が倍以上に膨らんだ。


「クルル!?」


 思わず呼びかけてふり返る。


「ふぬぬぬぬ!」


 歯を食いしばり膝を曲げて、けれど彼女の両手の血管が弾けていく。


「おねーちゃん!」


 あわててペロリがその手の光をクルルに向けた。

 治癒の光がクルルの身体の崩壊を防ぐ、けれどそれは決して魔王との攻防に介入できるものではない。

 クルルの目が俺を見た。ごめん、と彼女の唇が動く。

 嫌な予感がした。けれど。


「アンジェ・テヘニゥ!」


 止める暇無く、彼女はそれを口にした。

 その途端にクルルの髪が一瞬で真っ白に染まった。

 背中から生えた翼はいつかの再現。


「リュミエイレ――」


 飲み込まれそうな光の筋の強さが、


「マキシモ!」


 圧倒的に変質する。

 膨大な闇を一筋の光が貫き、それは真っ直ぐ魔王の持つ杖を破壊した。


「ぐっ!」


 その手が焼かれてうめきよろめく魔王へと、


「いけええええ! タカユキいいいいい!」


 クルルの叫び声に背中を押されて駆ける。

 振り下ろす大剣にもはや躊躇などない。

 だが、がちん! と耳障りな音を立てて再び弾かれた。

 ニコリスはいない。他の魔物もナコとルカルーやコハナとクラリスの相手で手一杯。

 だから、俺の大剣を防げるのはもう、魔王以外にあり得ない。


「くぬぬぬ! めんどくさい、やつだな!」


 歯がみして俺の大剣を受け止める魔王の腕が膨らみ、変質し始める。

 一瞬で思い浮かんだ。ああ、よくある真の姿を的な奴だ。だから、


「勇者さま! さあ、今こそ!」


 コハナの恍惚とした叫び声に頷き、姿を変えようとする幼女を抱き締めて。


「ふぎゃ!? え――」


 きょとんとした魔王の唇を奪った。


「「なっ!?」」


 クルルとクラリスの悲鳴が聞こえた。


「う、うわあ……」

「……熱烈」


 ルカルーとナコのなんともいえない声も。


「あ、ずるい! ペロリにはおはなだったのに!」

「「えっ」」


 ペロリの発言とさらに声をあげるクルルとクラリス。

 そして、


「ふむ、むっ、むーっ!」


 顔を真っ赤にして身悶えする魔王。

 けれど、無理矢理にも。


「むぁ、ぷあっ、ぁ、ぇぅ――」


 その隙間から差し入れて、蹂躙しつくす。

 がくがくと腕の中で痙攣する魔王が俺の腕を掴み、幼女の腕に戻ったそれできゅっと握って……へな、と力が抜けた時、唇を離した。


「ぁ、ぅっ……んっ」


 微かに痙攣する魔王の瞳には、ペロリの時同様、確かに記号が浮かんでいた。

 そいつはハートの形をしていたよ。ハートの……うっ。


「俺の命に従え、魔王」

「……うん」

「軍を退け、人々と和平を結べ」

「…………わかった」


 きゅ、と俺の身体にしがみついて離れない魔王に背後で女子二人の「ゆ、ゆゆゆゆ」「ゆーっ」という謎のうめき声が聞こえるが、ともかく。


「愛の勝利ですね★」


 コハナのまとめは物は言い様過ぎて強引だと思ったし。


「ずるい……」


 恨みがましいペロリの対処は今から頭が痛いし。


「口づけ、か……またしたいかも」

「「えっ」」


 ナコの呟きに女子二人が反応していて頭痛は増すばかり。


「あれしたら、ああなるのか。なら……ルカルーもしてもらおうかな」

「「ええっ」」


 ルカルーが爆弾発言をするからもう逃げ場はない。


「いやあ、あの女神の苦手なハーレムがコハナの狙い通り作れましたぁ★」


 コハナ……お前……。

 微妙な面持ちでいる俺のそばで、魔王が周囲の魔物に命じる。「おとなしくかえれ」

 それだけであちこちに出てきた魔物もうろたえながらも球体の中へと戻っていく。

 文字通り大団円だ。一つのクライマックスを俺たちはいま、確かに乗り越えたのだ。


「人間世界で世話になる。面倒をみろよ、勇者」


 べしべしと俺の足にしがみついて言い始める魔王に、


「おにーちゃんはペロリの! おまえなんかにやらない!」


 ペロリが対抗意識を向けて、女子二人があわてて輪に入ろうとする。

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ仲間達を見守って俺は感慨に耽っていたのだが。


「ところで勇者……清々しい顔をしているところ、言っておくことがある」

「なんだ?」


 何気なく魔王に尋ねると、彼女は笑顔で言うのだ。


「我は魔界の中でもそこそこの魔王だ。実はその上にすごい魔王がたくさんいるぞ?」

「……嘘やん。魔界から出てくるのいっちゃん強い魔王いうたやん」

「でもいるし。我が倒されたと知ったら、またくると思うぞ? それはどうするんだ?」


 思わず仲間達を見る俺です。

 みんなして笑顔でさっと顔を逸らしました。


「まだまだ旅は続きそうですね。あれですあれ、俺たちの旅はまだまだ続く! って言って走りだしたら終わりますよ?」


 コハナの笑顔が怖いので、それはやめておこうと思う俺です。


「まあ、頭が痛いけど……そうだな」


 髪の毛を撫でて、周囲を見渡した。

 人に戻った狼たちの中にはルカルーによく似たイケメンがいる。ルカルーが「お兄様」と駆け出すところを見ると、この国の王さまか王子さまってところか。となれば……帝国の復興はなんとかなるのかな。いや、一石二鳥ではいかないだろう。色々と問題は山積みだ。


「俺たちの旅どころか、世界はまだまだ続くって感じだな」

「いい顔で言ってるところ悪いけど……ねえタカユキ?」

「忘れておいででしょうか?」


 あれ。クルルとクラリスが左右から俺の腕を抱き締めてくる。

 離さねえぞ、という強固な意志を感じるんですが、あれ?


「子供がいますよ」

「とつきとおか。私たちには楽しみと苦しみが待っているわけで」

「それっぽいこと言って元の世界に戻ったりしないでくださいますよね?」

「それだけは絶対阻止するからね!」


 燃えているのは二人だけじゃない。


「ねえ……村にも帰れないし。あれだけ愛してくれたんなら、この後の人生もきみが面倒みてよ」

「もちろんペロリも!」


 ナコの言葉にペロリが叫ぶ。


「や、あの。帝国生まれの二人はせめてこっちに残った方が」

「ほ、ほら。ただの一般人ではありませんし」


 あわてて必死に人員増加を避けようとする女子二人に、


「それなら問題ない」

「「えっ」」


 割って入ったのはルカルーだった。


「兄様がいらっしゃればもう大丈夫だ。さすがに前回と同じ轍は踏まない。魔界に通じる穴対策ももっと強化する」

「踏み込まれたら割れちゃう結界とかになりそうデス★ けど、それはそれとして……もちろんコハナもついていきますよ? なにせクラリス様との契約がございますので」


 コハナも混ざる。とほほ、と項垂れる女子二人はそっとしておくとして。


「やれやれ」


 本気でまだまだ、俺の人生は続いていくようだ。

 でも、今日くらいはいいよな。


「しょうがねえから酒呑むぞーっ!」

「「「「「「 おーっ! 」」」」」」


 拳を振り上げたらみんなが続いてくれた。

 一つの旅が終わり、次の旅がはじまる。

 でもまあ、少しくらいは休もう。

 まずは……国を立て直す必要があるし。

 クルルとクラリスの腹もその内でかくなって、旅どころじゃなくなるだろうし。

 その間はどうするかな。まあ、酒でも飲んでゆっくり考えるか!

 何せ、目標を達成したのだから!




 つづく。

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