第三話
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どうだろう。
可愛い女子から自分の脱ぎたてパンツをかぶってくれ、と言われたら。
どっきりかなって思わないか?
どこかにカメラがあるんじゃないか、って思わないか?
だがどこにもそんなものはなく、クルルはノーパン状態で顔を真っ赤にしながらほかほか縞パンを差し出している。
ならば……かぶるしかない。
「いいだろう」
大仰に頷いて、俺はパンツを受け取った。
そしてクルルのおまたに密着していた部分を自分の顔に向けた。
股布のところにしみが……
「み、見なくていい! 早くして!」
「わかった」
趣が大事だと思うのだが、仕方ない。
パンツを装着した。なんてことはなく、普通にかぶれた。
股布が鼻に当たる。息を吸いこんだら、甘い匂いとおしっ――
「ばかばかばか! どうしてそういうかぶり方なの! 頭の上につけなさいよ!」
容赦なくビンタをしてくるパンツの主の命に従い、俺は頭にかぶりなおした。
すごい残念感があるのだが……
「まあ、普通にかぶれたぞ」
「じゃあ、右手を前に伸ばして」
「……こうか?」
「唱えて。ぱんぱかぱんつ!」
「……正気か?」
白パン一丁の上、縞パンを頭にかぶって唱えるのがぱんぱかぱんつだなんて。
「いいから!」
「……ぱんぱかぱんつ」
唱えた瞬間、俺の右手が光り輝いた。
その光は俺の全身へと広がり、不意に弾けるようにして消えた。
そして俺の右手にしましま模様の大剣が現われたのだ。
「で、伝説は本当だったのね! その呪文で目覚める力! あなた……勇者よ!」
「……ほう」
部屋にある全身鏡には、紛う事なき変態(俺だ)が映っているのだが。
「世界が混沌とした闇に覆われし時、異世界から救いの主が現われる。その者、女子のパンツを手に世界を救うであろう」
「ひどい世界だな」
率直に言って、どうかと思う。
「でも、大男の身の丈ほどはある大剣を軽々と持っているわ!」
「……言われてみれば」
しましまの大剣はだいたい二メートルくらいありそうだ。
分厚い鉄の塊にファンシーなしましま模様。
これに世界を救う力があるとは到底思えないのだが。
「パンツでなきゃいけない必然性はどこに」
「じゃあ脱いでみたら?」
クルルに言われるままパンツを取ったら(未だほかほか)、大剣が先端から光になって消えてしまった。
「もう一度つけて呪文を唱えてみて」
「……ぱんぱかぱんつ」
あ、出た。いちいち唱えないとこれでないのか?
もっと自由自在に消せたりしないものか。えっと……消えろ!
「あ、あれ? 消えちゃった」
出ろ!
「出た……って、まって。呪文はどうなるのよ!」
「俺が知るか!」
「大事なのよ、そういう様式美は! 毎回唱えてよ!」
「お断りだよ! だいたいなあ、他にもっといい呪文ないのか?」
「伝承によればその呪文で、ぱんつから力を引き出す……はずなの」
いや、そういわれても。
「念じれば出るっぽいぞ」
「最初の一回だけなのかしら……納得いかないんだけど」
「まあそのへんはざっくりでいいんじゃないか? 要するに武器が出ることが大事なわけだからさ」
「……まあ、いいわ。とにかく私のパンツからはその剣が出るのね。さしずめ、ドラゴンスレイヤーといったところかしら。或いはただの鉄塊?」
クルルの説明を聞いた瞬間、ずきりと頭が痛んだ。
「うっ、頭が」
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
「なんだか妙に記憶を揺さぶられるフレーズだ。ひどい烙印を刻まれて嫁を寝取られて世界と戦う長い運命に巻き込まれるような」
「あなたのこと?」
「絶対違う。断じて違う。同じだと言おうものなら自死する。そうしなければならない、そんな気がする」
真顔の俺に「そ、そう」とぎこちなくクルルが頷く。
「とにかく、このことを報告すればあなたには勇者に見合った相応の待遇が待っているわ。なにせ、この国は未曾有の危機に陥っているのだもの」
「……危機って、なんだ?」
「住民が突如、服を脱いで獣になり人を襲うの。クラリス様は北の大地に住む魔王の呪いではないかと考えておいでよ」
「ふむ……なぜ脱ぐ必要が?」
「さあ、知らないわ。呪いの一部だとしか」
眉間に皺を寄せて、クルルは腕を組み合わせた。
その時、窓から一陣の風が吹いてクルルのスカートが捲れ上がった。
ふわ、と広がり緩やかに沈む裾。その内側は……
「無毛地帯に来てしまったのか、俺は」
「なにしたり顔でいっているの! この変態!」
股間を見られたことに腹を立てたクルルに頭をどつかれた。
だが不可抗力なんだ。許して欲しい。
つづく。