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第三十三話

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「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 ……まあ、ね。

 わかってましたよ。フリにしかなんねーだろうって。

 事実、俺の後ろには棺が四つ並んでいる。

 中途半端に生き返らせてもらうのはもう決定事項なんだけど。

 その前にどうしても片付けなきゃいけない問題がある。

 クルルとクラリスの仲が、俺のせいでこじれ気味。

 どっちを選ぶかでいったら今の俺にとってはクルル一択で、けどクラリスに魅力がないわけではない。もっと知っていけば或いは、とも思うけど……。

 大事なのは、俺にとってはまずクルルであるという事実だ。

 皇女が言うのだから、後宮や何人とでも結ばれるという話は真実だろう。

 俺がクラリスと結ばれるのならば、二股どころの騒ぎじゃない。

 だとしたら、クルルとクラリスがそれを踏まえて仲良くなってもらう、という手もある。

 でもなあ、どっちが一番かで揉めるんだよなあ。

 俺の倫理観だと二股は気が向かない。俺の住んでいた世界じゃアウトな予感。

 それに繰り返すけど、俺にとってはまずクルルだ。

 クラリスとのえっちはかなりよかったし、抱いたから情もある。

 けど、って話だよ。要するに。

 結論出さなかったのは間違いなくよくなかった。

 全滅にしても二人がそれぞれに動いて、意図せずお互いの邪魔をしてしまい、あっという間に……という流れだったから。

 悩んでいたら天井から稲光が。

 見上げれば当然のように女神が顔を出す。


「なあ女神……ってひど! クマがひどい!」


 目の下に濃いクマが出来ていた。


「二周目いくしかないやん……コミュ全然マックスに出来なかったから、二周目いくしかないやん……そんなときに呼び出しくらったらこんなテンションになるやん」

「知らねえよ。ちょ、仕事して! ちゃんと仕事して!」


 咳払いをしてから、女神に尋ねる。


「この世界って二股ありなの?」

「まータカユキの世界に比べるとゆるいかなー。普通の農民とか、街の人間がやるとー噂になったりぃ? もめ事になる場合もあるみたいですけどー。権力者とかタカユキくらいの強者レベルだと、むしろふつー」

「語尾を伸ばすな! だらけるな! 鼻から提灯が出てる!」

「はっ!?」


 ぱちんと弾ける女神の鼻提灯。


「揉めるのいやなら女神レーザーで都合よく記憶けしちゃう?」

「……それはちょっとなあ」


 ズルじゃん。もうそれズルじゃん。


「だったら二人とよく話し合ったら? タカユキのえっち履歴を動画に保存してるんだけど、二人ともまんざらじゃない感じだし萌えて燃えてだし実用性高くて女神もお世話になっているというか」

「おい、おい! 凄いこと言ってるぞお前! たぶん言っちゃいけないことも含めて言い過ぎだぞ、だいじょうぶか!」

「……ぐう」

「おい!」

「はっ!?」


 またもや弾ける鼻提灯。


「皇女がタカユキに惚れる理由とか掘り下げて確かめてみたらいいんじゃね。ウサギ娘はほの字だし。タカユキがどう納得するかなんじゃね。じゃあ続きやるからあばよーばよーばよーぱよえーん」


 消えやがった。最後不思議な呪文みたいなの唱えて消えやがった。

 ……まあ、でもそうか。そうな。

 パーティーの親睦が大事かもしれんな。


「よし」


 俺は意気込みを新たに、みんなを生き返らせてもらった。


 ◆


「わた……わたくしがタカユキ様に身体を許した理由、ですか?」


 個別に部屋を取って、一日ゆっくり休みを取ることにした俺たち。

 今はクラリスの部屋(宿で一番豪華)にお邪魔している。


「ああ……考えてみれば、俺は君のことをよく知らない」

「……確かに、そうですね」


 天蓋付きのベッドは騎士たちが運び入れたもので、それに腰掛ける彼女はナイトローブ姿だった。うっすらと透けた布地の内側に悩ましくも美しい肢体が見える。

 けど、今日用事があるのはそっちじゃない。


「わたくし達の王国……スフレ王国の長く続いた悩み、それは……両親の産んだ子が二人とも女子だったことにあります」

「城にいる妹と……君だけ?」

「弟は早死にしてしまいまして……ですから、婿を取る予定でした。両親が亡くなるまでは、周囲にある共和国や帝国の男性からお見合いの提案をいくつもいただいていたのです」


 長くなるのでどうぞこちらへ、と招かれて、彼女の隣に腰掛けた。


「王家の威信を保ちながら……強く、あれ。わたくしの周囲の者はいつもそう言います。当然、自由な恋愛なんて許されませんでした」

「……ほう」

「父王に叩き込まれた剣術、母から受け継いだ王家に伝わる錬金術。それらに見合う婿を、となると……なかなか相手もおりませんで。叩きのめしてはお帰りになっていただくばかりで」


 実は強キャラなのね。それはむしろ、第一印象通りっていう気もする。


「でも……助けていただいた時、はじめて……普通の女の子扱いしていただいて。俺が護る、なんて言われたの初めてで。それが、わたくしにはすごく……すごく、嬉しかったのです」


 だから暴走しちゃいました、と。

 悲しそうに笑う彼女を放っておけない気持ちばかり、膨らんでいく。


「急に出てきて、かき回すようなことをして。クルルもよく仕えてくれたのに、申し訳ないことをしました。けれど……けれど」


 顔はかろうじて取り繕っているのに、膝の上においた両手は震えていた。よく見れば気づく程度でしかないところに、彼女の強さと悲劇があった。


「わたくしにとっても……タカユキ様しかいないのです」


 ぽた、ぽた、と雫が落ちていく。

 簡単で、けれど重たい理由となることを承知で、俺は彼女の涙を拭った。


「そっか」


 泣き止むまで続け……ひと息ついた彼女が「すみません」と言うから、自然と伸びた手で彼女の手を握る。

 指を絡めて、包みこむ。


「クルルのことは嫌い?」

「むしろ、好きです。大事な……仲間です」

「それを聞いてほっとした」


 手を離すと寂しそうな顔で「あ」とこぼす。

 そんな皇女の頭を片手で撫でてから、笑って告げる。


「少ししたら、俺の部屋で待っててくれる?」

「……はい」


 どんな想像をしたのかはわからないけれど、今はそれに答えることはせず。

 俺は皇女の部屋を出た。


 ◆


「なあクルル」

「やだ」


 部屋に入って声を掛けた時の返事がこれだ。


「どうせあれでしょ? クラリス様の話を聞いて、そっちの方が大事だから……私のことなんて、もうどうでもいいとか。そういうこというんでしょ? だってさっきの戦闘、役立たずだったもん……」


 お前も大概ネガティブだね。


「俺にとって特別大事なお前にそんなこと言うか。ばあか」

「いった」


 デコピンをかましたら、上目遣いで何か言いたげに見つめてくる。


「……とくべつ、だいじ?」

「おう」

「……ほんと?」

「ここだけの話だぞ」

「……クラリス様にもそういうの?」

「おばか」


 もう一回デコピンを……する代わりに頭を撫でる。

 クラリスは指に触れるたびに踊るような手触りの良さがあって。

 クルルは撫でると心地よいふかふか感がある。

 違う感触だ。


「クルルはクラリスのこと嫌いか?」

「そんなこと、ない……重用してくれて、助けていただいたこともたくさん、あるよ」

「ぎこちないのは、じゃあ……俺のせいだ」


 まあ、強いて言うほどのことでもないけど。

 認識を合わせておきたかった。

 いろいろ言いたそうに口を開いては閉じて、それで結局しぼりだしたクルルの答えは「そう、かも」で。


「なんとかするって言ったもん」

「……確かにな」

「でも……じゃあ、今のタカユキの気持ちは?」


 脳裏に過ぎったのは、クルルの涙と……クラリスの涙だった。


「それは――」


 言おうとした唇を指で止められた。


「……いわないで」


 クルルの顔は泣きそうで、けれど……


「わかっちゃったから……ごめん。やっぱりまだ、聞きたくない」


 鼻をすん、と啜ると、長く息を吐き出す。


「流されちゃうし、困ってる人を放っておけないし、えっちだし。そういう勇者なんだよね、タカユキは」


 じゃあ、さ。


「えっちなことするのは、私とクラリス様だけにして。女の子を恋愛で好きになるのは、その二人だけ。タカユキの大事な右腕は私、タカユキの居場所を作るのはクラリス様。いい?」

「クルル、でも――」

「でも! タカユキの一番の味方は私。タカユキがもし勇者じゃ無くなっちゃっても、なにしても……私だけは絶対に見捨てない。だって、呪いの面倒をみてくれるのはタカユキじゃなきゃだめなんだもの」


 お願いだから、と囁きながらクルルが俺の腕の中に飛び込んできた。 

 抱き締めている間、クルルは嗚咽を我慢せず。しがみついてくる力が弱まるまで、だいぶかかった。


「はあ……もう。いい。わかった」


 ばか、と一度だけ俺の胸板を叩いてから離れる。


「クラリス様と、はなす」

「部屋に……呼んである。クルルにも来て欲しい」

「……ほんと、ばか。なんでタカユキに惚れちゃったんだろう」


 クルルは困ったように笑って言うのだ。

 目元も鼻も赤くなってはいたけれど。


 ◆


 二人は顔を合わせて、なんともいえない笑顔で見つめ合った後、両手を繋いだ。


「勇者って、モテるんですね」

「歴史の常とのことです」

「確かに……私とクラリス様だけで済んでいる内はマシなのかも。これで済まない予感がするかな」

「……ごめんなさい」

「……いいです。早いか遅いかの違いとか、言い出してもしょうがないし。でも」


 すう、と息を吸いこんだクルルが突然声を潜めた。


「クラリス様で限界っていうかギリなので、タカユキに悪ささせたくないです。ぶっちゃけクラリス様はどうですか?」

「わたくしは……その。殿方の本性はそういうものだと伺っているので、なんとも。ただ……クルルだから気にならないのであって、そうでない場合は、ちょっと想像が」

「きっとむかつきます。許せなくなります。八つ裂きを命じるレベルで」

「そんなにですか?」

「そんなにです」


 ……話の方向性が、なんというか。

 予想してない、というか、怖い方向に流れてない? あれ?


「なので、クラリス様の薬と私の魔法で、タカユキのあれに呪いをかけません?」

「と、いいますと?」

「タカユキと私とクラリス様以外の体液に濡れたら、タカユキは死んじゃう呪いです」


 重たすぎじゃない?

 ねえそれ、重たすぎじゃない?


「さすがに死ぬのは……」

「やりすぎですかね」

「爆発した方がよくありません?」


 なんのこだわり?

 ねえそれなんのこだわり?

 あと結果的に死ぬよね。

 男のあれが爆発したらほぼ間違いなく男死ぬよね。


「ああ……いいかも」

「なら、すぐにやってしまいましょうか。体液の採取が必要なのですが」

「ということなら」


 すっきりした笑顔でクルルが俺に言うのだ。


「タカユキ、脱いで」

「わたくしたちがお手伝いいたしますので、体液を出していただけますか?」


 ケンカせずにまとまってくれたのは嬉しい。

 それはね。本当に嬉しい。結果的に二人と付き合っていくことになったのも、まあ二人が納得しているのならいいとも。

 だが、どうだろう。


「し、信頼して呪いはなしっていう方向性は?」

「ないよね」

「ありません」


 二人の断言とは。


「……その心は?」

「だってタカユキ押しに弱いもん」

「近年まれに見る押しの弱さかと」


 くっ……否定できない!


「じゃあ……えいっ」

「おわっ!?」


 クルルに飛びつかれてベッドに倒れ込んだ。

 いそいそとズボンを脱がされて、ぽろんと出る。


「失礼いたします」


 かがみ込んで、クルルと二人で顔を寄せられると……その、元気出ちゃう。


「ちょ、ま、あ、あっ!」


 結論を言うと……二人には敵いませんでした!

 おお勇者よ。

 なにが呪われてしまうとは情けない。

 ……教会で解いてもらえたりしないのかな。

 今度こっそり聞いてみよう。




 つづく。

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