第三十一話
31------>>
「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない」
っかしいなあ。
……どこで間違えたかな。
落ち着いて思い返してみよう。
まずその一。
王家を魔王の手の者が掌握しているのはもはや疑いようのない事実。
その警護のため、クラリスは一番強い俺たちパーティーが引き受けることになった。
クルルとクラリスが笑顔でばちばち火花を散らして非常に俺の胃に優しくない状況が完成。
その二。
城は奪還されたらしいので、魔王討伐か城の奪還か、という話になった。
背後から刺されたくない(というのは別として、クルル的にクラリスを追い払うための場所を確保する)ため、城の奪還を優先することに。
その三。
道中、勇者の祠に立ち寄って「うおおおおお!」「ああああああ!」咆吼をあげる獣じみたオッサンから甲冑を手に入れた。
パンツ同様非常に軽く、しかも勇者の装備とのことで頑丈なのでよし。
その四。
王都城下町の不穏な空気はクラリス帰還により浄化。
教会にも立ち寄って、あとはもう目前に城の奪還のみが控えている状況。
その五。
思い出して欲しい。俺たちのパーティーは基本、行き当たりばったり。
その上サイコロの出目で例えるなら最悪が出るのがお約束。
当然、待ち伏せられていたよね。
その六。
しかもクラリスの妹カナティアは魔王に操られたボスで、その誘惑に俺が真っ先に引っかかったよね。
結果、混乱してみんなをぶっとばし、自決したよね。
なるほど。
「だいたい俺のせいだな」
「生き返らせますか?」
「……でも、お高いんでしょう?」
神父にもみ手で尋ねたら、妙に鼻の高い神父は目を閉じて瞑想。
後、
「五人全部で25Gでいいよ」
衝撃の提示。
「やすっ!? え、こまる。急にそんな価格破壊困る! なにがあったの?」
「ただし中途半端にしか生き返らせることできないよ」
「なにそのトラップ! なに中途半端に生き返らせるって! なんだか良くないことが起きる、そんな予感がする!」
「どうする」
え、え、ええええ? やだ困る……。
「そ、そりゃあ、その……」
クルルの棺を開けて、革袋を取り出す。
道中倒した魔物や盗賊から奪ったお金は余裕で1万を越えていた。
「も、もっと多めに出すから普通に生き返らせることは出来る?」
「普通に支払うなら1億Gだよ」
「たか! 高すぎるよ! 間がありすぎて、差がありすぎて困る……なにその差……」
「皇女様がいるから、これでもおさえてる方だよ」
「ですよね」
確かに一国の皇女の年収はやばそうであります。
「どうする。25G? 1億G?」
「……じゃあ」
◆
「はっはっはっはっ」(ルカルー)
「あはははははは!」(ペロリ)
「おまたがむずむずするよう」(クルル)
「ここはどこ? わたしはだあれ?」(クラリス)
……どうしよう。
まずったかなあ。
どうしたらいいのかなあ。
獣座りで舌を出して荒い息を繰り返すルカルーは尻尾をぱたぱた振って俺のこと見てくるし。
ペロリは草を引き抜いて走り回っているし。
クルルは潤んだ瞳でもじもじしているし。
クラリスはネジの緩んだ笑顔できょとんとしているし。
だめだこりゃ。
「タカユキー。タカユキー」
「よっ、女神さま! 待ってました!」
空の稲光がこれほど嬉しかったことがあっただろうか? いや、ない!
「もーさ。いよいよ11月に入ってきて? オープニングと同じ場所来て、あっ、いっけない! 女神ネタバレしちゃった! とにかく、佳境に入ってきたの! なのにも関わらず、やめて? ほんと迷惑」
「その手に持っているモノを下ろせ! とりあえず!」
「やだよ、コントローラーは離さないよ!」
ぶんぶん振り回す黒い塊を下ろして、女神は咳払いをした。
「えー。中途半端に生き返らせた仲間を元に、戻す? 方法は、んー? 見えない。いっつもさー言ってんじゃん。字が小さいって」
あらぬ方向を見てだめ出しをするな! いつもついていけないんだからな、それ!
「えーっと。レベルをあげなさい。人間強度を高めるの。それか……それぞれにちゃあんと付き合ってあげれば元に戻るんじゃね? 的な?」
「適当だなおい!」
「じゃ、あばよ! さー、待っててあたしの明智くん!」
「誰だ明智って! おい! ……消えたよ、もう」
横を見た。
俺を見てきらきらお目々のルカルーと目が合った。
まあ……一人ずつ片付けていくか。
◆
骨を飛ばして拾ってくる遊びを腕があがらなくなるまでやったらルカルーは正気に戻ってくれた。
ペロリは鬼ごっこな。城下町の人にどん引きされたり、悲鳴をあげられるくらい全力で鬼ごっこをしたらいつの間にか戻っていた。
クルルはいかにも夜の案件なので後回し。
意外に手を焼いたのがクラリスだ。
「あなたはだあれ?」
「俺は勇者です。勇者タカユキ」
「勇者ってなにをするの?」
「……パンツを手に、魔物と戦います」
「なんでパンツが必要なの?」
まあ、簡単に言うとこんな調子で質問攻め。
なんにでも疑問を抱くし、
「パンツから戦う力を引き出す能力があるからですよ」
「まあ、すごい! 見せてくださいますか?」
きらきら笑顔で褒めてくるわ、きゃあきゃあ喜ぶわ。
育ちの良さが出まくりで、その上なにしても楽しんでくれる。
極めつけが、
「なんだか素敵です。勇者さまの一番おそばにいられたら、もっと素敵な体験ができそうです!」
「……え、と、それは?」
「あなたの大事に、なれませんか?」
「う、うん……」
クルルがいるにも関わらず、無邪気に好意を示されるんです。
「だめですか?」
「だめじゃない、んですが、その」
「わたくしのこと、嫌いですか?」
むにゅ。
抱きつかれて「わたしはこんなに好きになってしまったのに」とか言われると、ひたすら困る。
「け、検討します」
「はいっ。検討して下さいっ」
良い笑顔過ぎて、俺は思わず半目で聞いたよ。
「もしかしてクラリス、もうとっくに戻ってます?」
「ふふ。バレちゃいました」
そう言って離れるクラリスは、見た目ほど可愛いだけの存在じゃなさそうだ。
そりゃそうだよな。国を治める偉い女の子なんだから。
「じゃあ、まあ……そのへんの話はおいおいってことで」
「あ……」
残念がるクラリスに「ごめん」お詫びを入れて、クルルを抱き上げる。
「ひとまず一発やって戻してくるから、その後作戦会議な」
クラリスが何かを言おうとするよりも早く、俺は逃げ出すのだった。
◆
無事みんなが元に戻ったのはいいんだが……宿の空気が悪い。
「女の武器を使いすぎよね。クルル、あなたの呪いは随分都合がいいのではなくて?」
「クラリス様こそ、育ちの良さと頭の良さで自分の武器を活かしまくりですよね。どうせ、王族にしか許されないご禁制のお薬とか使ったんでしょー? ああいやだ、これだから権力もってるヤツはいやなんです」
「それが王族の振るまいと言うものよ。そして血筋は必然、勇者様の一番そばにいるべき存在でもあることに繋がるの。歴史がわたくしの味方です」
「それがなきゃタカユキのそばにいられないっていうのもどうかと思いますけど」
むしゃむしゃご飯を食べるペロリと、ケンカは食わない主義のルカルーは俺を見てくる。
困る。そこで見られても。
「あー。その。なんだ。俺がはっきりしないせいでケンカさせて申し訳ないんだが」
「本当だよ!」
「わたくしは構いませんわ、タカユキ様」
「あ、ずるっ」
もう一事が万事この調子。
そりゃあ魔物にやられてもおかしくないよな。
「仲良くしろとは言わないが、せめて城の奪還までは手を組めないか?」
「いや」
「いやです」
うーん。
「どっちもねんごろならいっそ、どっちが勇者を喜ばせるか対決でもしたらどうだ」
ルカルー。おいルカルー!
「……いいでしょう。受けてたちますわ、その勝負」
「王族が乗る勝負かよ、と思いますけどお。タカユキの一番そばにいた私に勝てるとは思いませんけどお」
「量ではありません。大事なのは質ではなくて? もっとも量をかさにきる輩に質を求めるのはあまりに酷かもしれませんが」
「ほっほう! あったまきた! いいですよ、受けて立ちますよ!」
……ああもう。
そりゃあさ?
そりゃあ……えろくてきもちいい体験が待っているのはわかります。
わかりますけど……同じくらいわかることがあるんです。
どっちがどうとか言わなきゃいけなくて。
そりゃあしこたまめんどくさくて。
きっとどっちもすげえ気持ちいいから決められなくて。
結局いがみあう理由が増えるだけなんだ。
しかもその理由を向けられる対象が二人だけでなく、俺になるんだ。
そうに違いないんだ……。
「なあ、まものをたおしにいかなくていいのか?」
ペロリの言葉が真理な。
やれやれ……。
つづく。




