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第十六話

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 村へと移動する道中、俺はずっと考えていた。

 最初の頃こそ、クルルは勇者に対して憧れや敬意を示す態度を見せていた。だが一線を越えてからはどうだ。付き合えば付き合うほどに俺に対する態度がいい加減になってきてないか?

 それとも憧れや敬意がなくなるほど、俺ってだめ?

 むう……。


「おいそこの三人組。有り金置いてきな」


 顔をあげたら、盗賊がいた。

 見た目にひょろそうな男だ。武器らしい武器ももっていない。

 これが屈強な盗賊ないし、一目でわかる強そうな魔物ならいいのに。

 倒せばクルルも俺のことを見直すに違いないのだが……何度見てもひょろそうな男だ。


「……なあ、クルル。質問があるんだが」


 なにかな、と尋ねる彼女に質問せずにはいられなかった。


「普通、魔王に狙われる国なら出るのは魔物なのでは。盗賊ばかり出てきますけど」

「あれ、話さなかったっけ? スフレ王国は魔王の手により情勢が悪化して、こういう輩が出てくるようになってるの。魔王の影響のせいかな」

「……だったら魔物でよくないか?」

「それは向こうの都合でしょ、私に言われても困るかな」


 まあ確かに。

 気の抜けている俺とクルルをよそに、ルカルーだけが両手の爪を伸ばして歯を剥く。


「がるるる……」


 そのうなり声に俺は想わず言わずにはいられませんでした。


「なあ、盗賊さん。こいつ割とガチだから、逃げた方がいいと思いますよ」

「そうそう。さすがに盗賊とはいえ殺生はどうかと思いますし」


 即座に乗っかるクルル。

 盗賊は不敵な笑みを浮かべながら毛皮の服の懐に手を入れた。


「ふっ……魔物使いのこの俺に狼娘が御せない、とでも!?」

「お、おおっ。なんだ、なにが出るんだ!」


 やばいのでは? と思いながら、俺はパンツをいつでも出せるように構える。


「いけ! とってこーい!」


 盗賊が取り出したのは骨で、「がうー!」投げて走りだすのはルカルーで、あきれかえるのは俺とクルルで。


「さあ、仲間が一人減ったぞ! 恐れ入ったろう! 恐れ入ったら有り金をよこせ!」

「……タカユキ、やっちゃって」


 クルルに頷いてパンツから大剣を取り出した。


「な、なにをする気だ!?」


 狼狽する盗賊。俺たちよりよっぽど困ってますよね。

 まあ……申し訳ないけどさくっと片付けちまおう。


「お前を倒す気だよ!」

「あーー!!!」


 大剣で打ち上げた。

 悲しくなるくらい、一撃で片付いたなあ。

 フルスイングでお空に飛ばしてやりましたよ。

 俺が怪力なのか、パンツの力が凄いのか。

 そんなシリアスな悩みに耽ろうとするよりも、


「はっはっはっはっ」


 骨をくわえて戻ってきて、目をきらきらさせるルカルーの可愛さにひたりたい所存。

 とりあえず、しばらく骨遊びしました。

 やっぱり犬科なんだな。ほっとしたよ。


 ◆


 村についたな。なんの感慨もなく村についた。

 ヤルホリーとかいう村だ。

 宿の手配をするというクルルに任せる気なのかな。


「狩りにいってくる」


 村の入り口につくなり早々に離脱したルカルーの後を追うように、外壁の周囲を眺めた。


「あれ。タカユキは宿にこないの?」


 少し不安げなクルルが声を掛けてきた。


「……少しやりたいことがあるから、後で追いかける。お前の荷物はどうする?」

「持ってっちゃうかな。宿の場所は大丈夫?」

「おう」


 交代で運んできた荷物をクルルに渡して外へ出た。

 石を積み重ねて出来た壁のそばに、五メートルはありそうな巨大な樹が見える。

 歩み寄って、パンツをかぶり大剣を出して、ぎりぎり届く木の枝を切り落とした。


「さて……」


 こいつを加工したいんだ。

 何ができるのかはできてからのお楽しみ。

 ……で、あともう一つ用意するべきか悩むんだが、どうするべきか。

 大剣じゃ大きすぎて、ちょっと難しい。

 武器の形を変えられたり出来ないもんか……色々試行錯誤してみたがだめだった。

 違う武器が欲しければ違うパンツを手に入れろ、ということかな。

 例えばクルルに紐パンを履かせれば違う武器が手に入ったりしないのだろうか? それとも人物に武器の形状は依存するんだろうか。

 そもそも縞パンにしても出会ったときからずっと同じパンツなわけもないだろうから、となるとクルルのパンツは必ずこの大剣になると見てもいいかもしれない。


「にしても。ここにパンツがあるってことは、あいつは今ノーパンなのか? だいたい、パンツにしてもドロワーズとかじゃないんだな……うっ」


 パンツの形状に思いを馳せたら頭痛がしてきた。

 なんていうか、俺の元いた世界のパンツに近いよなあ、と。思えば思うほどに頭痛が増していくので考えるのはよそう。もっと楽しいことを考えよう。

 クルルがノーパンか。ちょっとわくわくするな。

 なんて……しみじみクロッチを眺めている場合じゃないですね。


「もう少しうまく加工できないか試してみるか」


 大剣の重さを感じない利点を活かして、地面に突き刺し肩でおさえながら、枝を動かす形で削ってみる。

 切れ味が妙にいいので、自分を傷つけないことを特に気をつけながら一時間、挑戦を続けた。


「よし」


 耳かきが出来た。これは案外、手間取らなかったんだよ。

 問題はもう一つの方だ。

 ブラシを作ろうと試行錯誤したんだけど、さすがに無理だったな。

 もっと取り回しが楽な武器が出るパンツが手に入らないと無理だ。

 ルカルーからパンツをもらえないかな。

 ちょっと考えてみよう。ブラシは……まあ覚えていたらくらいのつもりでいいか。

 まずは耳かき。何はなくとも耳かきだ。

 よし。やるか。


 ◆


 夕方になって野ウサギをぶら下げてきたルカルーが宿に来てクルルが震え上がるなどの事件もあったが、それはそれ。

 固いが風味抜群のパンとチーズ、塩漬け肉にぶどう酒!

 食堂で晩飯をさんざん楽しんで、風呂まで浴びてさっぱり。

 後はもう寝るだけ、という状況で真っ先に寝落ちしたルカルーに続いて、いそいそとどこかに出かけようとしたクルルに声を掛ける。


「なあ、クルル。ちょっと思いついたことがあるんだけど」

「なに? 今じゃなきゃだめ?」


 執拗に唇を撫でてもじもじしているあたり、トイレか、あるいはすっきりするためにどこかへ行きたいに違いない。


「おしっこかうんちでもないなら、騙されたと思って来てみろって」

「さ、さいあく! 女子に言うことじゃないよ!」

「まあまあ。いいから俺の膝枕で横になってみ」

「ええ……嫌な予感しかしないんだけど?」

「いいから、ほら」


 ばんばん膝を叩いたら渋々、しかも警戒心ばりばりで及び腰になりながら近寄ってきた。


「突然押し倒して襲ったりしない?」

「しない」

「膝枕した身体を寝転がして、俺のをくわえろとか言ったりもしない?」

「お前のその想像力はなんなの。しないよ」

「……ほんとにほんと?」


 半目で引き気味の顔に笑って手招き。


「少しでも気に入らなかったらやめるから。な?」

「……うん」


 やっとそばにきた。

 ベッドの上で足を伸ばしている俺の膝に恐る恐るクルルが頭をのっけてくる。

 彼女の頭を撫でて、ウサミミに触れた。


「ふぁっ」


 びっくりした声をあげてから、あわてて口元を両手でおさえるクルルと目が合う。

 仰向けで寝転がるクルルの顔は一目見てわかるレベルで強ばっていた。

 やれやれ。マジで信用ないんだな。

 まあ、クルルが誘ったからといってやりたいだけ何度もやりまくったから、しょうがないっちゃしょうがないか。

 ここは一つ、頑張ってみますかね。

 決意を新たにしながら、耳かきを取り出して「そ、それなに? なにするの?」不安がるクルルのウサミミを撫でた。


「ぁ――」


 ぴく。


「あ……あっ」


 ふるるっ。ぴくんぴくん。

 身もだえするクルルのウサミミは熱かった。

 ただ、気になることが。

 クルルがしきりに足でベッドを叩くんですけど。

 ……まずった? そう思って手を止めると、途端に身体を起こされて涙目で睨まれた。


「なななななな、何をするの!」


 両手でウサミミを庇うように覆っている。


「いや、気持ちよさそうだったから。責めてみればすっきりするのかと」

「……う、ううう」


 どうしよう、気持ちよかったけど、でも落ちつかなさがやばいよ、と。

 そばにいるんだから小声だろうが丸聞こえなのに、クルルはさんざん悩んで――……俺の膝に戻った。


「つ、強くしないでよ?」

「お、おう」

「掴んだりしてもだめ」

「……おう」

「触れるときは優しくして」

「……わかった」


 真っ赤な顔をして、涙目で上目遣いに見られると、ちょっと、その……おっきしそう。

 いかん、いかん。


「いくぞ」

「……うん」


 かり、と耳かきの先端で根元のあたりを撫でる。

 清潔にしているのだろうクルルのウサミミはどこまでも綺麗で、だから俺が自分でやる耳掃除と違ってろくに垢などでてこないのだが。


「ん……ふっ、ぁ……やっ……んっ」


 喘ぎながら目を潤ませているクルルを見ていると、効果覿面過ぎて今更やめられない。

 ど、どうしよう。どうしよう!

 すげえ興奮する!

 ウサミミの背に手のひらをあてがい、そっと指先で撫でるだけでクルルの腰がはねた。

 唇を開いて「は――……ぁ、はぁ、はあ……」色っぽい声を出しながら荒く呼吸する。

 なんだ、これ。

 やっていることはただの耳かきなのに! ただの耳かきなのに!


「もっとぉ」


 手を止めた俺の肘の布地を震える指先で摘まんで、くいくいっと引っ張ってくる。


 さあ、どうする?




 つづく。

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