第十五話
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「あーあ。タカユキが全裸じゃなくなっちゃった」
野営明けの朝、開口一番にそう言ったクルルを睨む。
「お前、魔法で俺が全裸に見えないようにしてたろ。俺に気づかれないようにこっそりと」
「さー? 呪文を唱えているところをまるで見てない気づいてないタカユキの指摘なんてぇー。全然怖くないって言うかぁー」
いらっときたので、起き上がったクルルのそばにいき、ウサミミの穴に指をつっこんだ。
「ゃっ、あっ、あっ」
「白状しろ。本当はどうなんだ」
くちゅくちゅ。
「となえて、さらに、あっ、きょくりょくみないように、あっ、あっ」
顔中真っ赤にしてびくびく身体を痙攣させるクルルのウサミミから指を引き抜いた。
「はあ……はあ……」
恍惚、といった表情だった。
もしかしたら下手にえろい接触するよりも、よっぽどきてるんじゃないか?
いわゆる……あれだ。
弱点。もう少し性的な言い方をすると、性感帯。
お約束でいけばあれか。
言葉責めとかも出来たりするんだろうか。
今度おいたしたら試してみよう……ふふふ。
「勇者が悪い顔してる」
「タカユキは変態だからしょうがないよ……」
まんざらでもない顔で俯いているクルル。
一度は関係を拒んでおきながら、その表情。
もしやミミ、相当いいのでは? 相当たまらなかったのでは?
ふむ……。
「エルサレンって街に行く前に、ちょっとやりたいことがあるんだが……いいか?」
「それなら少し歩いてからでもいい?」
「なんでだよ」
妙な返しだったから、クルルに尋ねると彼女はウサミミの付け根をもじもじと撫でながらそっぽを向いた。
「途中にある村で一泊しない? ベッドじゃないから身体が痛くて」
「……お前なにその。微妙な都会育ちアピール。今更やめて。だいたい、それを言い出したら、裸足で歩いている俺はなんなの。ばかなの?」
「そ、それは申し訳ないと思ってますけども!」
ならもう少し優しさが欲しい所存。
「ち、ちがうもん! 決してお風呂入りたいとか、今すぐ移動しないとなんだかもう我慢できなくなっちゃいそうとか、そんなことないもん!」
「たまにその思考がダダ漏れになるのなんとかならないの。筆頭魔法使いっていうなら、少しは知性アピールしたらどうなの。この万年発情ウサギ娘!」
「な、言うに事欠いて一番人が気にしていることをなんで言うかな! パンツがないと何も出来ない変態勇者に言われたくないかな!」
言い合いでじゃれ合う俺たちの顔を交互に見ると、ルカルーはクルルの背後に回ってぎゅっと抱き締めた。
「ぴぃ!?」
「二人とも、移動するなら早くする。じゃないと……」
「じゃ、じゃないと?」
ぎぎぎ、とこわばりながらふり返るクルルにルカルーは半目で呟いた。
「めんどくさいからウサギ食う」
「ちょー!!! やめてよして今すぐ離して! 一方的に私だけが不利益を被ってますけどー!!!」
身じろぎして、それでも足りずにもがいているくせに、ルカルーのハグから逃れられないクルルを見ていたら、なんだかどうでもよくなってきた。
「悪い、ルカルーが言う通りだな。クルルに絡んでる場合でもないか。こんなところで話していてもなんだし、クルルの言う村に行こう」
「それでいい」
尻尾をたてて大仰に頷くルカルー、なぜか軽くクルルの首に鼻を押しつけた。
「あ、あああ、あの。これは、いったい?」
「ふん、ふん……ん。なんでもない」
「は、はあ……」
やっとルカルーのハグがとかれた。
離してもらってすかさず離れるクルルをルカルーは目を大きく見開いて、じーっと見つめている。
「おおおお、落ち着かないんですけれども」
「気にするな。方角をいえ、いくぞ」
ルカルーの言葉だけじゃ不安なのだろう。
しっかり俺のそばに歩み寄って、さらにルカルーと距離を取ってからクルルは手を地面に伸ばした。
「ちょっと待ってね」
「お。お、魔法使うのか?」
「……たまには出来るところを見せておかないと不安」
その不安、キャラ立ちとかパーティーのポジションとか、そういう問題ですよね。
誰より便利なことが出来るやつが、一番手に入りやすいであろうものに悩むとか……大変だな。
「タカユキ目がむかつく」
「いいから頑張りなさい。ルカルーが見ているぞ」
「ううっ」
それが一番落ち着かないんですけど、とぼやいてからクルルは呟いた。
「ミーゼ・レト」
ぼんやりと光るクルルの腕。
その光は指先へと伝わって、地面に到達するとそのまま一点に向かって伸びていった。
まるでゲームの道案内システム……くそ、また頭痛がする。
「あっち」
「行くぞ、勇者」
「あ、ああ……」
今度女神が出てきたら、そして俺が覚えていたら文句の一つでも言ってやろう。
……これまで言うの忘れてる時点で、あんまり望み薄ですけどね。はは。
先頭を歩くルカルーは尻尾も頭も伸ばして、気を張っている。
対するクルルは唇を指先で撫でてたまに「はあ……」と妙に色っぽい息を吐いている。
その後ろで俺はクルルのパンツと女神のパンツを入れたポケットに手を入れて、布地の感触を確かめていた。
大丈夫か? このパーティー。
まともなのルカルーだけとか。新規メンバーが一番まともとかどうなの。
クルルを弄りつつも、俺は俺で勇者としての立ち位置に悩む。
マジでクルルのことなんにもいえないな。似たもの同士じゃんか、俺たち。
やれやれ。
まあいい。村についたら適当な木を探そう。
二人の女子の背中を眺めながら、俺はここらで立ち位置を確かなものにするプランを考えていた。
勇者らしく、気高くいこうじゃないか。
それにしても……パンツをにぎにぎしながら考えることじゃないな!
つづく。