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第十四話

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「で……なんでルカルーはついてきているんだ?」


 森の中を進みながら隣を見ると、ルカルーはしれっとした顔で俺たちについてきていた。


「仕返しする。全裸と行動するのは気が引けるけど、そうしなきゃ気が済まない」

「……なるほど」


 そうなのだ。

 あれからしばらくして疲れた顔で戻ってきたクルルと話し、エルサレンって街が当面の最終目的地になった。繰り返す、あくまで最終目的地だ。

 まず勇者の祠に行くことになった。

 じゃないと、クルルがパンツをくれるまで俺は全裸で過ごさなきゃならない。

 どうやら……クルルは魔法で俺の姿を直視しないで済むようにごまかしているっぽいからな。

 それにしたって罪悪感はないのか! このウサギなし! ルカルーにくわせるぞ!

 なんて訴えたら「わかった、わかりました! 準備して持ってきた男用下着はこれ一着だけだから、気をつけてね」とトランクスをくれました。

 まあ、ないよりはマシだ。

 やっと全裸からパン一に戻れてほっとしたな。

 村に立ち寄って、ルカルーが村人たちに謝るのを見守り、一路クルルが知る勇者の祠へ。

 女神のショーツをぶんぶんぶん回しながら進んでいたら、盗賊が現われた。


「ふっ……ここから先へは通さない。荷物と食料を置かない限り、貴様らに待つのは……死!」


 すかさず俺の背中に隠れるクルルと、俺の横で首を傾げるルカルー。


「こいつやっちゃっていいか?」

「待て待て。話を聞いてやろう」


 ルカルーに任せると血なまぐさいことになりそうなので黙ってもらうとして。


「すまんが、お前に渡すものはない。旅に必要なんだ。ここは俺に免じて立ち去ってくれないか」

「断る。そしてくらえ! この俺の必殺技! 永遠の氷の魔法!」


 右手をしゅば! と俺たちにつきつけている。


「びゅおおおおお! ぶわあああああ! ぐおおおおお!」

「……ん?」


 何か効果音らしきものを口ずさみ始めましたけど。


「ん? ん? なに? 今のなに?」

「どうだあああああああ! この俺の必殺技の威力は! あと数秒で、お前らは死ぬ! さああ! 荷物を置いていけ!」


 どや顔で言われたところ、非常に申し訳ないんだが……その。


「なあクルル、あいつの言っていることは本当か?」

「ただのハッタリだよ。まぎれもない。あいつこじらせてるだけだと思う」

「……そうか」


 やっぱり……ちょっと可哀想なヤツだったか。


「な、なんだその目は! やめろ! 盗賊学校時代の悪夢を思い出しちゃうだろー!」


 俺とクルルのみならずルカルーまでも哀れな者を見る目をしていたようだ。


「うわああああああああああああん!」


 泣きながら盗賊は逃げ出した。


「虚しい勝利だったな」

「そうだね……」

「ルカルー、食い損ねた。ウサギ食う」

「ぴぃっ」


 すかさずクルルにダイブするルカルーの首根っこを危ういところでキャッチ。


「お前は食欲をどうにかなさい」


 やれやれ……。


 ◆


 村からだいたい一時間ほどは歩いただろう。

 途中で整備された道から外れて、あぜ道を進んで……やっと辿り着いたのは、小高い丘をくりぬいて出来た祠だった。

 辿り着いた瞬間、祠の石が光り輝いて――眩しくて思わず目を閉じた。

 瞼越しの光が落ち着いた頃になって、目を開けてみるとそこにいたのは。


「……やんなっちゃうよな、まったくもう」


 疲れ果てたオッサンだった。


「誰なのこの人」


 腹は出まくりで、妙に若々しくてかっこいい衣装がぱつんぱつんだ。

 上着のジャケットの前を閉じられてないから、胸毛とかが丸見えで大層みっともない。


「さ、さあ……魔力を感じるし、祠の前に出現したならかつての勇者、とか?」

「いかにも……おれは昔の勇者だよ。はああ」


 あらゆる幸せはとっくの昔に逃げまくり、不幸を駄々流しにするようなため息ですね。


「え、ええと。勇者の装備をくれるって聞いて来たんだが。頼めるか」

「ええ? やだよ。これ脱いだら全裸になっちゃうもん。幽霊でも寒いんだよ?」

「え、幽霊なの!?」

「足下みてごらんよ」


 言われるままに足を見たら、確かにジャケットのズボンから先にあるべき足首がなかった。


「全裸のオッサンの幽霊とか悪夢じゃん? だから諦めてよ」

「そんな事言われても」


 俺も全裸はどちらかといえば微妙にいやなんだけど。

 慣れてきた自分がいるから余計困る。


「魔王を倒すために必要なんです」


 詭弁です。


「いいから服をよこしなさい」

「ちょ、え? 物理? 幽霊相手に物理できちゃう? あ、あ、あーっ!」


 気合いで触れたら掴めたので、問答無用で脱がしました。

 こんな経験、もう二度としたくないです……。


「うらめしやー」

「速やかに成仏してください」


 衣服を抱えた俺は両手を合わせて、顔を背けている女子二人に声をかけた。「いくぞ」


 ◆


 道中のことだった。


「やっと服が手に入ったのに、なんで着ないの?」


 クルルの疑問は当然だった。

 だから俺は真顔で言い返す。


「あのオッサンの脱ぎたての服を着たいか?」

「……祟られそうだからちょっといやかも」

「だろ?」


 そういうことだよ!

 祠を離れてエルサレンを向かう道中、川を見つけたので二人に休憩を申し出た。

 クルルをヨダレを垂らしながら見つめるルカルーも、それにびくびく震えているクルルも気がかりだけど、俺はまず服を着たい。

 人として当然の欲求だと思う。

 男の裸とか、たった一人じゃ女子向けのサービスにもなりゃしないし。男としてはただただ見苦しいだろ? って何目線なんだ……うっ、頭が。


「ふう……」


 妙にぎっしゅな匂いはクルルに石鹸を貸してもらって擦り洗いして何とか落とせた。

 そのへんの木に干して横になる。

 すかさずクルルがすり寄ってきて「ちょちょちょちょ、話の流れでついてきちゃったけど、私が食べものじゃないってわからせてよ! 怖いんですけど!」と訴えてきた。

 ああもう、しょうがないな。


「ルカルー。いいか? このクルルってのは、確かにウサギの耳が生えて尻尾も生えて発情もする子で、その上もしかすると俺を全裸にしておきながら全裸に見えない魔法をこっそり使うひどいヤツでもあるのだが」

「おいこら」

「食べものじゃない。食べちゃだめ。ね? 仲間でしょ。仲良くして」

「……がう」

「わかった? わかったら握手して」


 俺を物凄い形相で睨むクルルの手と、そばに寄ってきてヨダレを垂らすルカルーの手を組み合わせた。


「よし、そうしたら宣誓だ。我々は仲間、食べたりしません。はい復唱」

「我々は仲間、食べたりしません。タカユキあとで覚えてろ」

「我々は仲間、代わりの肉をくれる限り食べたりしません。だから肉よこせ」


 うん。ちっとも仲良しになれなそう!


「よし、仲良し!」

「とてもそうは思えないんですけど! 条件つきなんですけど、お肉なんて持ってないんですけど!」

「しょうがねえな……ルカルー、狩りでもしてきたらどうだ? 溢れる食欲もそれで少しは癒えるだろ」


 ぐるる、と喉を鳴らしたルカルーはその場でクルルに向かってクラウチングスタートの姿勢に。


「え、え、え、なにそれ、なにその今すぐ私にまっしぐら的な姿勢は! なんでこっち向いてるの、なんでこっち向いてるの-!」

「さん、にい、いち、がうー!!」

「いやああああああ!」


 クルルと全力で追いかけっこをし始めたので、俺は横になって寝ることにした。

 だめだこりゃ。


 ◆


 まあ本気で食べたりしないだろうと思っていたんだが、起きた時クルルは死んだ魚のような目をして俺のそばで倒れ伏していた。

 肌にあちこち甘噛みの痕が残っている。びくんびくんと震えている理由は考えたくもない。

 気づけば真夜中。

 そばでたき火をおこして、鳥の丸焼きをがつがつ貪るルカルーは生存能力が高そうだ。


「食うか」


 俺が起きたことに気づくと、木の枝に刺した丸焼きを一本差し出してくれた。


「もらうよ。服着てからな」

「わかった」


 ルカルーの返事に頷いてから、立ち上がって木の枝へ。

 匂いは……よし、大丈夫だ。

 それにしても勇者の服ね。

 何年物なんだろうな。

 勇者の汗がしみついた服……ちょっと微妙だ。ありがたみ半減だな。

 考えたら負けだ。オッサンのお古とかいう事実もだ。

 少なくとも全裸じゃなくなった。

 これは人間にとってささやかな一歩だとしても、俺にとっては大いなる一歩だ!!!!!

 ……いろんな意味で頭が痛くなってきた。


「タカユキ-。タカユキーっ!」


 お空が眩く光り輝いた。後光を背負った女神が俺たちを見下ろしている。


「お前らいつまでのんびりしてるの。ねえ。魔王を倒してもらわなきゃ困るんですけど」

「だから手始めに、ルカルーを魔物にした美少女を追いかける気だよ」

「……え。そうなの?」

「お前さ。女神なんだからそのへん把握しとけよ」


 ぴりりりり。ぴりりりり。


「あ、あ、ちょっと待って」

「おい、なんだよ……おい! なんだそのいたっ切れ、耳に当てて何してんだよ」


 女神が取り出したのは妙に記憶を刺激する手のひらサイズのいたっ切れだった。


「もしもし? あ、もう配達きちゃってる? ごめんなさい! すぐ出ます」

「誰と話してるんだ、おい!」

「ごめんタカユキ、ピザきちゃった。そういうことだから! 旅がんばってねー!」


 光が消える前に俺は叫んだ。


「もっとマシなこと言っていけーっ!!!」




 つづく。

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