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第十二話

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 ビスチェとレオタードが一体になったような嗜好性の高い服だけじゃない。

 二の腕から手首まで半透けのレースの布で覆っていた。レースに紐で繋がれたニーハイソックスとか……なんだろう。

 肉食。

 いや服装イコール肉食っていうんじゃなく、胸もないのにビスチェだったり、レオタードの食い込みがキレキレだったり……


「じゅるる……」

「……うーん」


 気絶したまま目覚めないクルルをヨダレを垂らしながら見つめるあたりが肉食。


「だれ、お前たち」

「ここに魔物がいるって村長に聞いてやってきた勇者だ」

「パン一でお前なにをいってるんだ」


 ごもっとも。


「だが事実だからしょうがない」

「ふうん……まあ、助かったからいい。それよりそこのウサギ喰らってもいいか?」

「やめてください」


 なんだろう。

 性的に、とかそういう妄想の余地がまるでないレベルで捕食されそうな気配しか感じない。


「仲間なんで。一応、そういうの困ります」

「……じゅるる」

「話聞いてくれたかな?」


 狼さんはウサギさんにご執心です。


「君、一人?」

「ナンパか」

「ち、ちげえから。っていうか口悪いなお前」

「ふん……ルカルーは口が悪い。男相手に売る媚びを持ち合わせてない」


 ふいっと顔を背けられる。

 ……なんだろう。つらい。

 耳も尻尾も、魔物だった頃の姿を見る限り狼。

 つまり犬科だろ?

 普通なつっこいもんじゃないの?

 なつく気配ゼロですけど。ゼロから始められる生活が始まる気配なんて微塵もないですけど。むしろ好感度的にマイナスな予感。

 いや、凹んでばかりもいられない。

 この世界の常識を知っているヤツは現在「な、なんか狙われている気がする」などとほざきつつも未だ夢の世界の住人。

 俺がなんとかせねばなるまい。


「お、お前、ルカルーってのか」

「そう言うお前は誰なんだ」


 ……ごもっとも。


「タカユキっていうんだ。勇者タカユキ」

「変な名前」


 それ俺のせいじゃねーから! って言いたい気持ちをぐっと飲み込む。

 おお、やれば出来るじゃないか! 俺すごい! きゃっほう!


「……ルカルー、怒らせてしまってすまない。それがなぜなのかを理解できないことも申し訳ない。どうか、俺に詫びる機会をくれないか」


 ふんっ、と鼻息を吐かれました。


「なんか魔物だった時かな? うっすらと男の胸が? 見えてもな、みたいな。そんなことを言われた気がするんだが?」


 ……おう。


「ルカルーの気のせいか?」


 ここで笑顔になるのがクルルなら、真顔なのがルカルーだった。

 そして真顔でいられる方がよっぽど怖い。

 本気でむかっときたのね。それくらい嫌だったのね。いっそコンプレックスだったとか? 掘り下げると火に油を注ぎそうだ。

 ここは素直に認めておこう。


「気のせいじゃありません」

「だったら言うことがある。ルカルーはそれを聞かない限り、どんな要求にも応えない。うさぎくう」


 ヨダレをぽたぽた垂らしながら、小屋の扉から一歩、また一歩とクルルに歩み寄る。

 気のせいだろうか。両目がぐるぐる回っているように見えるのは。

 両手の爪がじゃきん! という音と共に伸びた。

 鋭い爪は容易くクルルの柔肌を切り裂くだろう。

 こいつ本気だ。


「待て待て待て待て! 悪かった!」

「口ではなんとでも言える」

「くっ」


 確かにその通りだ。くそっ!

 何かいい手はないものか……悩みながらルカルーの胸を見た。

 ぺたんこだ。それ以上にとんでもなく華奢だ。

 だから鎖骨からビスチェに隠れる部分まで、幼くも怪しい線を描いている。

 のみならず、薄らと見える血管なんか……生命の儚さそのものって感じだ。

 歩くたびにビスチェの布地が揺れて、肌と隙間が出来て……思わず前屈みに。

 ん? 待てよ、前屈みだと?

 股間を見下ろしたら見事に屹立していた。ナニが、とはいわない。


「待て、ルカルー。済まない、あれは俺の照れ隠しだったんだ」

「いやガチのトーンだっただろ」

「勘違いだ!」


 実は大正解だが、ここは押し通す!


「その証拠に見ろ! 俺はお前の身体に欲情しているぞ!!!」


 集中線を浴びる気迫で叫ぶ。

 無駄に拳を握り、足を開いて背中を反らす。

 全力だ。

 全裸で全力で、欲情を叫ぶ。

 そんな勇者はありや、なしや。


「……あ、はい」


 どん引きだった。ないわって顔された。

 俺の股間を見るやルカルーの目が正気に戻り、割と本気で嫌そうな顔で言われた。

 悲しくない。

 ただより大きくなっただけだ。

 ……俺は駄目なヤツかもしれない。


「と、とにかく……ルカルー。聞きたいのは、お前が魔物になった理由だ」

「なぜそんなことを聞く」

「なぜもなにも……そこに魔王の呪いに繋がる何かが眠っていそうだからだ」


 そうなのだ。

 村が魔王の呪いにやられた。その根っこにルカルーの存在があった。

 村とルカルーの因果関係とか、呪いはどう広がるのか、そもそも呪いってなんだよとか、そういう大事なことを従者のクルルはなぜ説明しようとしないんだとか、っていうか一日とは言え何度もした上でお預けされて一緒に寝食を共にするのはなに、新手の拷問なの? とか。

 気になることや言いたいことは山ほどあるが、一つ一つ片付けていくしかない。なんてのは先日考えたばかりでもあるが、とにかく。


「なにも急に魔物になったわけではあるまい。理由を教えてくれないか?」

「それは……」


 口籠もったルカルーは、名残惜しそうにクルルを見つめた後、俺たちに背中を向けて言った。


「入れ。話してやる」


 妙にシリアスぶった顔だ。

 もう怒っている気配はない。

 よーしよし。

 方法に問題はあったかもしれないが、ゆっくり解決していこう。

 いずれは腹を見せてもらえる仲になれればいいな。

 なんて、はは。

 さて、どんな話が聞けるのやら。




 つづく。

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