プロローグ
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突然、顔に痛みを感じて目を開けた。
そこは石畳の往来のど真ん中だ。
周囲には石造りの家々が立ち並び、いわゆる猫や犬みたいな耳と尻尾の生えた人々が行き交う。
みんな、俺を迷惑そうによけていく。
それだけじゃない。
俺を見ている連中はみな、ちょっと引いた顔だ。
見ているヤツはまだ良い方で、露骨に俺から目を背けるヤツもいる。
それもそのはず。
「いってててて……え?」
俺はパンツ一丁だった。
念のため、白ブリーフじゃない。
いわゆるボクサー型の……ってそうじゃない。
あわてて身体を隠そうとして気づいた。
「あ、え?」
右手に白いパンツを握りしめていた。
白ブリーフなどではなく、それどころか男物ですらない。
蝶が飛ぶような黒いレース。
ちょうどへその下にくるであろう、センターについたリボンと真珠。
紛れもない、女性下着だった。
俗に言うショーツ。
パンティでもいい。
おパンツ様とあがめ奉ってもいい。
っていうか、そうじゃないだろ。
「……ええと」
そっと匂いをかいだら、あまったるい匂いがしました。
「そこな変態!」
「へ、へへへへへ、変態ちゃうし!」
あわててショーツを背中に隠した時にはもう、鼻先に剣を突きつけられていた。
剣の向こう側に見えたのは、獣のような耳と尻尾を生やした……控えめに言っても美少女だった。
日光に煌めく金の髪、青い瞳。
赤い外套の下には華奢な身体の線を浮き上がらせるような、タイトなトップス。
短いスカートから伸びる足は見とれるほどに細く、しなやかだ。
足の隙間から見える豊かな尻尾は、まるで怒っているかのように毛が逆立っていた。
それもそのはず、
「死にたくなくば、なぜ女性下着を手にして往来に突っ立っているのか説明してみよ」
彼女は間違いなく怒っていた。
そして、俺は答えようとして言葉に詰まった。
「ええと……」
説明しようとして……しかし言葉は出てこなかった。
何も思いつかないのだ。そもそもなんの情報も無い。
なにせ俺はパン一男。
しかも右手にはショーツを握りしめている。
誰がどう見てもアウトだった。
そんな俺だ。
彼女に負けず劣らず、俺もまた……説明を求めていた。
だからこそ困った。
説明出来ないし、このままでいればどうなるか。
「答えよ。死にたいのか」
鼻に剣先が当たるあたり、お察しである。
妙に尖っていて痛い。
放っておけば刺し殺されてしまいそうだ。
少し考えてから口を開く。
「その前に、一言いい?」
「申してみよ」
「……どんな説明だったら、俺は助かるのでしょうか」
「論外だ」
笑顔で尋ねた時には、剣の峰で思い切りこめかみを殴られていた。
口論することさえ許されず、俺はショーツを握りしめたまま気絶したのだった。
つづく。