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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第一章 運命の出会い編
4/39

第3話 決める未来

更新が遅くなって申し訳ありません。

ちょっとリアルの方がバタついていて執筆時間が取れませんでした。


それでは3話目、どうぞ。



『女神だ』と思った。


 俺の前に天女の如く現れた姿はそう形容するに相応しいものだった。こんなにも美しい人は今まで見たことがない。

 容姿を抜きにしても俺はこの人を女神と思っただろう。何せ絶体絶命大ピンチで今にも喰われそうだったところを助けてもらったのだから。

 そして、俺にそう言わしめる要因がもう一つ。

 角熊を斃したときに見せたあの光だ。光は線に、線は角熊を容易く屠った。

 あんな光景など生まれて此の方見たことない。

 無手の状態でなおかつ遠距離からの攻撃なんて普通なら不可能だろう――そう、普通なら。

 だが俺が目撃したのは普通ではないものだった。

 光を生み出し集束させ、任意の場所へ発射する。こんな芸当ただの人間にできるわけがない。

 ていうか光を生み出すことは人体の構造上ありえないはずだし、もちろんそんな器官あるわけがない。なのだが……。


 光で相手を攻撃する、無から生み出す神秘、明らかに科学技術ではないもの。これら全てを満たすものを俺は知っている。

 恐らく、それは、


「…………魔法」


 口からこぼれたその単語は地球の、特に日本の創作物に関していえばありふれたものだ。空想上の存在であり、誰もが一度は憧れたことのあるだろうそれは、ここ、異世界では意味合いが百八十度変わってくる。

 生きている間――もうすぐ死にそうだが――にまさか見ることができる日が来るなんて、夢にも思わなかった。そもそも魔法とかのオカルトチックなもの全般を信じてすらいなかったから、驚きは人一倍だ。

 信じていないといっても魔法の出てくる物語を今まで一度も読んだことはない、なんて言うつもりはないがそれでも話は話、現実は現実だ。

 小さい頃にはあればいいなぁとか思っていたかもしれないがいずれ大人になる。俺はまだ中学生だが割り切ることが出来る程度には大人だ。

 あっでも修二は魔法使いたいとか割と本気でほざいていたか。

『厨二病って男子なら誰でも通る道なんだよ。フッ分かるだろ?』

 これは修二のセリフ。

 なんか達観した面持ちで言ってきたのでイラッとしたのを思い出した。

 分からねぇよ。今でも分かんねぇわ。

 一時期あいつがおかしなことを言っていたときがあったが、あれは厨二病真っ只中だったのか、それとも狙ってやっていたか。どちらも有り得る。


 っと、話が逸れた。

 現状、今死にそう。それは角熊から助けられても変わらない。あと魔法を見た一驚からか痛みは感じていない。

 まあとりあえずはあの人だ。味方だとは思うが……。


「あ、あの……あな……たは?」


 思っていたより声が出しづらく、途切れ途切れになってしまった。この怪我だしそれも仕方ないか。


「ああ、喋るな喋るな。死ぬから。とりあえず黙っときなさい」

「え…………」


 あれ? 黙れって言われた。

 ていうか死ぬから喋るなって言われても別に俺、喋らなくても死んでしまいますよ? 見て判らないのでしょうか女神様は。意外とおっちょこちょい?


「あとは私に任せればいいから。安心しなさいな。痛くしないから」


 えっちょっと待って。何をするつもりだ?

『痛くしないから』とか言われると逆に不安になるんですけど。


 安心しろと言い不安にさせるという離れ技を成し遂げたこの美人は角熊のときと同様、俺に手をかざした。

 …………かざした?

 えっあれっ? 安心しろって何、まさかすぐに死なせてあげるとかそんな感じのこと? 痛くしないって、痛みを感じる暇もなく逝かせてあげるよってことですか? いやいやちょっと待って!


「いやっあの、はやま……」


 制止の言葉を遮るように掌に光が集まり出すと、光はそのまま俺に降り掛かった。

 死ぬ! 止め刺される!


 ………………あれ? 死んで……ない。痛くないどころかなんか、暖かい?

 それに安らぎを感じる。柔らかい何かに包まれているような、そんな心地良さ。

 あ……眠くなってきたかも。瞼がすごく重……い。そんな場……合じゃ……ないの……に。……でも……悪く…………な…………。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆





 夢を見た。

 いつもと変わらない、美鈴や紅巴、修二なんかと話したり、授業を受けたり、先生に稽古してもらったりしていた、そんな日常。

 特に何か起こるわけでもなく変わり映えしない、それでいてとても充実していた日々。

 なんだって失ってから気づく――それが幸せだということに。

 俺が当たり前だと思っていたものは唐突に終わりを告げ、当たり前ではなくなった。幕を下ろしたのは俺自身。あの少年を助けるという決断をしたのも俺自身だ。後悔はいっぱいあるが、だからといってあの決断が間違えていたとは決して思わない。

 残された人たちには悪いと思っているが、もうどうしようもないんだ。いくら戻りたいと思っても、流れる時は不可逆的なもので人間には絶対に干渉することはできない。それこそ神でない限りは。

 俺にはもう、気づかず通り過ぎていった幸福に後悔して、もう戻らないあの時間を思い返すことしかできない。

 もしかしたら夢はその冷酷な事実を俺に伝えたかったのかもしれない。


 夢の終わりはあの日のこと。

 それまで同じ行動をなぞっていたが一つだけ違うところがあった。

 それは意識が薄れてゆき、死ぬ直前(?)突如視界が切り替わったことだ。まあ真っ暗闇で何も見えなかったからそう思っただけかもしれないけど。

 しかしまあ結局、夢は意味不明で滅茶苦茶なことばっかりだし真剣に考えるのは馬鹿らしい。

 この夢の終わり方に意味があるのかないのか。誰にも分からないだろう。ただ何となく引っかかるというかなんというか、とにかく忘れることはないだろうなとは思った。


 そして――俺は夢から目が覚めた。





 眠りから覚めたとき俺が最初に目にしたものは薄く輝く光の膜。しかしそれは少しの間だけで、光は徐々に弱くなっていくとやがて消えてしまった。


「何なんださっきの膜は。ていうかここは――ベッド、の上か? ……えーっと、誰かが助けてくれたのか。と言ってもあの女の人だろうけど」


 体を起こし周囲を見回す。

 小さな部屋だ。俺が寝ているベッドの他にデスクと椅子が一つずつある程度で、他にめぼしいものは何も無い。恐らく寝るためだけの部屋なんだろう。また、壁や床を見るにこの建物はログハウスみたいなものだと判る。うっすらとした木の香りが俺の鼻腔をくすぐり何だか落ち着く。あまり現代日本では感じられない、自然に囲まれているような感じだ。

 そんなことを思いながらベッドのすぐ横の壁にある一つの大きな窓を覗くと、先が見えないほど密集した草木が生い茂っていた。

 先程自然に囲まれているような感じと言ったが訂正しよう。本当に自然に囲まれていた。

 ということはここは意識がなくなる前までいた森の中ってことかな。


「ふあぁ〜あ。なんか体がだるい。この感じ、もしかして結構寝てたのか?」


 欠伸をし、目をこすりながらそんなことを考える。

 そしておかしいことに気がついた。


「あれ……み、みぎ……て? 」


 何気なく動かしていた手は、バキバキに折られていたはずの右手だった。

 そのことを認識した瞬間、俺の頭は簡単に混乱状態になった。

 おかしい。あの腕の状態は全治数ヶ月はかかるくらいの大怪我だった。


「一体どうなってる? 怪我をしたこと自体は間違いないはず。でもその痕跡が全くない。うぅん……。 あっ右が治ってるってことはもしかして…………やっぱりか」


 掛けられていた薄地の布を勢いよくめくると、そこには何事もなかったかのように見える綺麗な左脚があった。

 無惨にも角熊にちぎられ、喰われてしまったのはしかとこの目で確認した。実際痛みも酷いもので、気絶してもおかしくないくらいだった。

 それなのに脚は違和感無く普通に動くし、接合したような跡も見受けられない。


「うーん、分かんねえ。もう何が何だかさっぱりだわ。誰か説明して……」


 自分の身に起こった摩訶不思議な出来事に許容オーバーになり、がっくりとうなだれる。

 思考放棄だ。考えるのヤメ。

 と、そんな俺に聞き覚えのある声がかけられた。


「起きたみたいね。ずぅっと眠ってるから死んだんじゃないかと思ったわよ。それで、体の方は大丈夫かしら?」


 ドアを開け、入ってきたのは俺を助けてくれた命の恩人である金髪美女だった。起きた俺の様子を確かめるような視線を向けながらそう問いかける。


「は、はい大丈夫だと思います。……あの、やっぱりあなたが俺の怪我を……?」

「ええ、そうよ。私が治した。上手くいっているでしょう」

「え、ええ、治療していただきありがとうございます。……その、ありがたいのですが、一体どうやって俺の怪我を?」

「ん? 魔法に決まってるじゃない。でなければどうやって喰われた脚を治すというのよ?」

「そ、そうですよね。魔法で、ね…………」


 魔法。

 可能性として考えていたが、実際に言われるとどこか現実味に欠ける気がする。

 ただ、まあそうはいっても実際に魔法で攻撃するところを見たわけだし、こうして重症だった怪我も完璧に治っているため、魔法が存在するというのは紛うことなき事実だろう。これらは現代科学、医療ではとてもじゃないが説明できるとは言えない。

 だがそれとは別に気になることがある。

 この女の人のことだ。

 いろいろと疑問に思うことがあるため、いくつか尋ねてみることにする。


「あの、ところであなたは何者なんですか? どうして俺を助けてくれたんですか?」

「人に名前を聞く時はまず自分から名乗るべきよ」

「あ、はい。えっと俺の名前は狭間京鵺です。姓が狭間で名が京鵺です」

「ふーん、ハザマキョウヤ……? あまり聞かない名前ね。どこの出身かしら?」


 ……この場合どう答えればいいんだろう。

 俺はこの世界の人間じゃない。そのため出身を訊かれても理解の得られる答えを示すことはできないのは間違いないのだが、かといって騙したり嘘を吐いたりするのは悪手だ。向こうにとって俺は正体不明の存在であり、信用ならない相手のはず。そんな状況で相手の不信を誘うような真似は立場を悪くするだけだ。

 うーん、考えてもどうしようもないか。なるようになるさ。


「……日本、という所です。知ってます、かね?」

「いや、聞いたこともないわね。辺境の小国か何かかしら?」

「いえ、そうじゃないです。俺の国は島国ですが大国でもありますから」

「……? 要領を得ないわね。何か隠してることがあるのならさっさと言いなさい」

「いやっ隠す気は無いです! ……ただ、信じてもらえるかわからなくて」

「話によるわね。何でもかんでも信じるというわけではないし」


 だよな。そりゃそうだ。

 しかしなぁ。話によると言われても俺の話自体が嘘の塊のようなものだからな。話しても受け入れてもらえなさそうな気がものすご〜くする。

 ……いや、考えても仕方ないんだったな。信じてもらえなかったらそのとき考えよう。

 別に問題の先送りというわけではないよ?

 さっきから女神様の視線が鋭いんだ。グサグサ刺さってる。早く言わなきゃ視線で殺されそうだ。


「えーとですね。その前に確認なんですがこの世界は魔法って当たり前のことですか?」

「当たり前でしょう。何を言ってるのかしら」

「確認ですっ確認。ふぅー……。えっと、信じられないかも知れませんが、俺は魔法のない世界から来ました」

「魔法のない……世界・ ・? 世界が他にあるというの? この世界だけじゃなく?」

「ええ、俺もここに来るまでは世界は一つだと思っていましたがそうではないようです。そして先程の“日本”もその世界の国です」

「……続けて」


 俺は、日本で普通の学生だったこと、途中で事故に遭って死んだこと、気がついたらこの世界にいたこと、この世界で化物に襲われたことを掻い摘んで話した。

 その間静かに聞いてくれていたが、爪狐に襲われ撃退したことを話すと待ったがかかった。


「あなた、ウングィスフォックスを生身で倒したというの? 話を聞く限り、あなたの国は平和で戦争なんてしていないというのにあなたは何故そこまで強いのかしら。あれは普通の人間が倒すのは難しい魔物よ」


 ウングィスフォックス――あの爪狐のことか。確かに強かったし、普通の人間だったら死んでいたかもしれない。だが俺はずっと武術を習い鍛えてきたんだ。そんじょそこらの奴には負けない自信はある。が、それは日本での話であってここでは通用するか判らなかった。

 やはり俺があいつに勝てたのは、武術の他に運が良かったというのもあるんだろうな。


「すみません、説明し忘れていました。俺は向こうで武術を習っていましたので、それなりに戦う力は持っています」

「なるほど、武術ね。でもそれだけじゃ生身でウングィスフォックスを倒すのは少々厳しいわ。あなた、運は強いみたいね」

「はい、俺もそう思います。ただ、運は運でも悪運の方ですが」


 苦笑しながら答える。

 俺の受け答えに彼女はとりあえず納得はしたという顔で続きを促す。

 そして俺は彼女に助けられるまでを語った。

 角熊との戦いはあまりいい思いはないので、顔に出ていたかもしれないが仕方ないのだ。結構プライド傷ついたし。


「――で、現在に至るというわけです」

「ふーん、まああなたのことは分かったわ。死んだというのも――少し待ってなさい。取ってくる物があるから」


 突然何か思い出したような素振りを見せると、そのまま部屋を出ていってしまった。

 何かあるのだろうか。取ってくる物があると言っていたが俺に関係するものか何かかね。


 ……あれ? そういえば、俺名乗ったけどあの人はまだ名乗ってないよな。

「先に名乗れ」という言葉に従った結果、俺が名乗るだけという。……なんだか上手く乗せられた気がするな。

 今の所、まだ俺の方からしか主だった情報を開示していない。だがそんなこと言ってもこちらとしてはしょうがない面もある。

 俺はこの異世界のことを何も知らないわけだし、一人で生きる術も持っていないのだから、信用してもらうことが第一だ。

 人間、信じてもらわなきゃ何も始まらないものだ。

 人の言で「信じる」。うん、何事も言葉からだよな。まあ今思いついただけだけど。

 偶然にも、思いつきにしては結構深そうな意味になって、自分で自分に感心していたとき、あの人が戻ってきた。

 ていうか全然気配が感じられないな。実は結構凄い人なんじゃないだろうか。

 なんて推察をしていると彼女が手にしている物に気がついた。


「あっ! 俺の服! ……うん?」


 着ていたはずの服が目の前に。となると、俺は今何を着ている?

 恐る恐る確認してみると肌色の服が。いや違かった、肌だね、紛れもない肌。

 結論、全裸でした。


「って、うおぉお!?」


 かるたの選手もびっくりのスピードで掛けられていた布を掴み、下半身を隠す。いや、多分さっきまでも隠れていたと思うが念のため。

 それにこの状況をよく考えてみて欲しい。物凄い美人の女性と裸の俺。少々思春期の男子には厳しいシチュエーションだ。恥ずかしい。


「何を今更恥ずかしがっているのよ。これ脱がせたときに見たんだから意味無いわよ」

「えっ!? あっそうか、意味無いか……じゃなくて!! 見たんですか!?」

「当たり前じゃない。まあ男としては自信を持っていいと思うわよ?」

「え、そうですか? ……だからそうじゃなくて!!」

「全く何が不満なのよ」

「何がと言われても……。これは同じ思春期男子しか分からないはず!」

「うるさいわねぇ、それに血が染み込みまくった服を着せながら寝かせるってわけにも行かないでしょ。少しは考えなさい」


 その言葉に頭に冷水を被せられたように急に冷静になった。

 血が大量に染み込んだ服。普通に考えれば異常なことだ。

 そのことに気づいた俺は黙り込んでしまう。


「この服、一応洗っておいたけどもう使い物になりゃしないわね。でもこれに染み込んだ血はあなたの出血量より明らかに多かった。どういうわけか知らないけど、あなたが死んだっていうのは本当みたいね」


 そう言われ、ベッドに投げかけられた衣服の中には、角熊――先の説明の中でクエルノベアーという名だと判明――に特攻してくれた学ランがあった。ボロボロになっており、既に服としての命は尽きていたが。

 そんな学ランを眺めながら、自分が一度死んだという事実を信じてもらえたことと、状況的にも死んだと断ぜられることに安心と切なさの入り混じった複雑な気持ちになった。


「……ええ、信じてもらえて良かったです。それにこの上着、わざわざ拾ってくれたんですね、ありがとうございます」

「別に近くに落ちていたから拾っただけよ。――で、どうしようかしらね、あなたのこと。違う世界から来た人間なんて会ったことないし。そうねぇ……うん決めた。とりあえず近くの町まで送っていくから、そこからは自分でなんとかしなさい」


 マジですかこの人。何も知らない十四の少年に一人で頑張れって言ってますよ。

 誰だよ女神なんて言った奴。……俺か。

 それにしても酷い。『自分の事は自分で何とかしろ』という姿勢に悪いと言うつもりは毛頭ないが、せめてどういう風に生きるべきかとかの情報を教えて欲しい。

 だが俺は今のところその言葉に従うつもりはない。さっきから考えていることがあるからだ。承諾してもらえるかはまだ分からないが、あの平和ボケしていた中で生きていた俺が、この危険に満ち溢れた異世界で生きていくには、今のままではすぐに死ぬのは分かりきっている。クエルノベアー戦がいい例だ。

 このままではいけないと思っている。

 無意識に握りしめていた拳には汗がにじんでいて、自分が緊張していることに気づいた。とはいえそれも仕方ないと思う。何せこれから俺が言うのは、自らの運命を左右する重要なことだからだ。

 緊張を押し殺しながら俺は、俺の決意を口にした。


「すみません、その前に一つ、聞いてもらってもいいですか。俺は正直この世界のことは何一つ分からないし、一人で生きていく力も持ち合わせていません。あなたが助けてくれなければ、俺はあの時に間違いなく死んでいたでしょう。でもあなたは魔法を使ってあの熊を倒し、俺の怪我を治してくれた命の恩人です。そんなあなたに折り入って頼みがあります」


 静寂の中、ゴクリと唾を飲む音がした。誰なのかは言うまでもなかった。

 この先を言うのが怖い。断られてしまったら怖い。

 そんな良くない想像ばかりが頭に浮かんできてしまう。

 でも言わなければ何も始まらないんだ。人の言で「信じる」だ。何事も言葉からってさっき思っていたじゃないか。自分を信じろ。

 俺は自分の恩人の目をしっかりと見つめ、言った。


「……俺を、あなたの弟子にしてください!!」


 彼女は眉をひそめ、俺を静かに見ていた。

俺はそんな彼女から目を逸らさずにじっと見つめ返す。

そうした長い沈黙の後、遂に彼女の口が開いた。


「…………私、弟子は取らない主義なのよ」


 待ち望んだ答えはしかし、俺の思いとは逆の、拒絶ともいえるものだった。

 今まで力んでいた身体が嘘のように全身から力が抜けてしまう。いきなりこんな提案を受けて承諾してくれる可能性は決して高くないと思っていたが…………そうか……駄目か…………。


「――でも、あの時の目は良かったわ。意地、とでもいうんでしょうね。嫌いじゃないわよ、ああいうの」

「え……?」


 いきなり過ぎる話の展開についていけず、アホみたいに呆けてしまう。


「……それに、いい機会かもしれないしね」


 物憂げな表情をしながらそう呟く。

 どうしたのだろうか。もしかしたら、さっき弟子は取らない主義と言っていたのと関係があるのかもしれない。

 だが今はそのことよりも考えるべきことがある。


「あ、あのっ! それってつまり……」

「ええそうよ。あなたを私の弟子にしてあげるってこと。これからよろしく頼むわ、キョウヤ」

「はいっありがとうございます! これからよろしくお願いします……えっと」

「ああ、そういえば私の紹介がまだだったわね。私はグレイス・クレヴァリー、魔法使いよ。そうねぇ、私のことは師匠と呼びなさい」

「――――、っはい! 師匠!」


 こうして俺は、魔法使いの弟子となった。

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