第20話 『倒す』と『斃す』の違い
夏の三日間連続投稿!
あと2、3話で終わると言ったな、あれは嘘だ。
迸る紫電。
舞う血飛沫。
漏れ出る苦悶の声。
次々と襲い来る敵をいなし続ける俺は、息を切らすことなく淡々と敵の数を減らしていく。
今もまた敵の斬り掛かりを僅かな動作で避けると、通り抜けざまにナイフで首元を掻っ切る。
俺がナイフを使う時は、敵を倒すよりも殺すことに重きを置いている時だ。基本的に打撃よりも斬撃の方が殺傷能力に長けているからだ。
だがしかし、別段ナイフだけに固執している訳じゃない。時には俺が最も得意とする武術による攻撃も行う。ナイフと格闘の双方を織り交ぜた戦法が今の状態での戦い方だ。
ナイフで首を貫くと背後から隙だと思ったらしい敵の横薙ぎを体を屈め回避。躱されるとは思わなかったのか驚きの表情を見せる男。俺はすぐさま体勢を崩した男に低姿勢で接近し、ガラ空きの胴体へ地を滑るような軌道で振り上げた拳を叩き込む。
上方に吹き飛ぶ敵を横目に次の標的を見定める。
視認し得たのは前方、右方、左方の三方向から突撃して来る敵の姿。ほぼ同時に浴びせられる三つの鋭利な刺突を後ろに九十度近くまで仰け反り対処。強化された筋力をふんだんに使いその体勢のまま身体を捻り、脚を旋風の如く振り回す。
俺を中心に薙ぎ払われる賊徒。
俺は攻撃の余勢を使い宙空で回転、難なく着地した。
息つく暇もなく接近してくる敵二人。剣だと俺に利用されてしまうのを懸念したのか、今度は両方とも素手だ。
殴り掛かる両名を時には躱し、時には軌道を逸らしたりして攻撃を防ぐ。
振りかぶった腕を避けた途端に俺が避けた場所に拳が飛んでくる。逆に俺が攻勢に転じようとすると蹴撃による思わぬ箇所を攻めてくる。
少し厄介だな。こいつ等はもともと格闘の方が得意なのだろう。嫌なとこを突いてくる。
攻めあぐねているのなら魔法使えばいいじゃないかという話だが、折角同じ土俵で闘えるのだ。拳でケリをつけたい。
首魁は未だ静観の構えのようだし、先程の会話で無闇にルシアへ危害を加えるような奴じゃないと分かったので問題ないだろう。
それになんだか楽しくなってきた。
どうやら自分で思っている以上に気分が高揚しているらしい。
二人がかりによる連続殴打を躱し続ける。
それにしても速いな。俺の動きについてこられるとなると……。
目まぐるしく変化する攻防の中、一瞬生じた隙をつき一人に回し蹴りを食らわせた。ところが敵は直撃の瞬刻、ギリギリ腕を蹴撃の軌道上へと滑り込ませていた。
身体強化された脚力で腕の骨を粉砕する……筈だったのだが、得られた手応えは芳しくない。
「チッ、やっぱそうか!」
舌打ちをしながら追撃を受ける前に後方へ退き、距離を作った。
改めて俺が蹴りつけた敵の腕を見ると、手応えでほぼ予想していた通り腕は無事だった。骨が砕けることなくきちんと腕の形を残している。
普通は無傷で済む筈がない。となればコイツ――いやコイツ等は俺と同じく“身体強化”で身体能力を向上させているのだろう。
確かに向こうに魔法使いが一人もいないという道理はない。
腐っても王都最大の犯罪組織だということか。
敵が普通の人間ばかりだったので少し油断していたかもしれない。
相手が有象無象じゃなくなったものの、幸い他の仲間は近づくことができないでいる。最低限周囲に注意を払いつつ、目の前の相手に集中できそうだ。
とはいえ、そろそろケリをつけたいところだな。
ちょっと真剣にやろうか。
「おい、魔人野郎。そろそろくたばれよ」
「そうそう、どうせオレらには勝てねえんだから」
向こうが若干優勢に見えるこの状況に余裕が出てきたのか、勝利を半ば確信しているような発言をする二人。
対する俺も不敵な笑みを浮かべて言う。
「勝てねえかどうかはやってみないとわかんないだろ。ていうか俺が勝つからお前等の方がサッサとくたばれ」
「……首領と話してる時も思ったが、本当にムカつく奴だなお前は。口の利き方ってやつを教えてやんよ」
「後悔してももう遅いぜ、クソ野郎!」
わざと煽ってる俺が言うのもなんだけど、こいつ等煽り耐性低いな。もうちょっと冷静に努めたほうがいいと思う。
まあそれを言ったら火に油で確実に激昂するから言わないけど。
と、そんな埒もないことを考えていると、二人が目の前まで接近していた。
俺は虚をつくために駆けてくる二人へ敢えてこちらからも接近を試みた。
案の定、今まで敵の突撃には受け身だった俺の意表を突く攻めの姿勢に怯んだ様子を見せた。
動きに乱れを生じさせた俺は、まずは向かって右側の男の顔面目掛けて拳を飛ばす。風切り音が聞こえるほどの速度は男の危機感を煽ったらしい。咄嗟に腕を交差させて顔面への直撃を防ぐ構えを取った。
そして次の瞬間、俺はガラ空きのボディへ渾身の一発をお見舞いした。
フェイントである。
「ぐぅっ!?」
呻き声を上げ、沈み込んだ身体へ俺は容赦なく膝蹴りでダメ押しをする。強化されていても無防備の身体に打ち込んだ一撃は相当のダメージだろう。衝撃によって吹き飛ばされた男の身体は既にピクリとも動かない。
俺が倒したかと思った時、横から濃い殺気を纏った拳が迫り来るのを刹那の瞬間視界に捉えた。
「――――!」
身体が反射的に動く。
頭を下げつつ相手に相対すると共に、標的を見失い伸びきった腕を掴む。
「うおっ!?」
勢いを殺さず流れに逆らわないように。
俺は円弧の軌道を描く流麗な一本背負いを決めた。
しかしながらそれだけで終わるつもりは毛頭ない。
殺すか、戦闘不能に陥るまで攻撃の手を緩めてはいけないのだ。
なので俺は即座に床に叩きつけられた男へ拳を振り下ろした。
「ごふッ! グッ……!」
むせ返る男は憎らしげに俺を見つめた。
「……残念だったな、俺の勝ちだ。力だけじゃなく技術も磨いておくべきだったな」
このダメージだと暫くは動くこともままならないだろう。
足を持ち上げる。
その時点で俺が何をしようとしているのかすぐに察したらしい男。
周囲の賊徒もはっとした様子で慌てて駆け出してくるが、もう遅い。
「おいっ、まっ待て! 頼むッ、命だけは――」
見苦しい命乞いは途中で途絶えた。
足をどかせば、床は破壊され、先程まで奴の頭があった場所からは赤い液体が溢れ出ている。
生きているかなんて、言うまでもない。
周囲を瞥見すれば、駆け出していた賊徒もその動きを止めている。
彼等の表情から見て取れるのは、畏怖。
彼我の圧倒的実力差を感じたのだ。
一人また一人と後ずさっていく。
これで誰か一人でも逃走を図れば、それは一気に全員へ伝染し、戦意は完全に喪失するだろう。
そんな危うい均衡の中、蔓延する緊張を吹き飛ばすかのような大声が轟いた。
「オメェら、怯んでんじゃねえぞ! いくら強くても所詮は一人だ! 包囲して四方から攻撃すりゃあ、タダじゃ済まねぇ筈だ!」
首魁が怖気づいていた部下達を鼓舞する。
さっきまで個々に攻撃してきていたために、所々に作り出される空白地帯や敵のバラバラの動きを読み上手くいなすことができていた。ところが一斉に攻め掛かられてしまえばその手は使えない。
まあ、多対一の場合は当然想定されうる事態だし、別段そのことに慌てる必要はない。
普通ならここで詰みだが、俺は魔法使いだ。
数の力をひっくり返す力を秘めたものがこの世界の魔法なのである。
はっきり言って、魔法の使えない有象無象など敵じゃない。
首魁によって戦意を取り戻した賊徒は、俺から一定の距離を保ちつつ周囲に散開する。
展開の完了と同時に、
「行けえッ!!」
「キョウヤ逃げて!」
ルシアの悲鳴のような声も虚しく、発せられた突撃の合図の共に、周囲の賊徒は喊声を上げて猛進してきた。
無数の剣がその凶悪な刃を光らせ迫る。
「はぁ……めんどくせ」
うなじに手を掛けながらそんなことを漏らし。
自身に剣を振り上げる輩をギロりと睨めつけると、俺は静かに魔法名を口にした。
「“雷脚”」
バチッと。
電気が弾ける音。
そして――地を打つ轟音。
それだけで、今見ている光景が正反対のものとなった。
「「ぐあああああああ!!??」」
床に強烈な踏みつけを行えば、足を縦横無尽に駆け巡る紫電が俺を中心に、波紋の如く広がっていった。
床を伝い賊の体を駆け抜けた電撃は、人の意識を刈り取るには十分過ぎる威力を誇っている。
それが俺の周囲一帯を無差別に。
幾重にも重なった喉から絞り出すような絶叫が、ビリビリと倉庫内の空気を震わせた。
ついさっきまで大勢の人間が立っていたその場所は、今や足下にその全員が死に体となって倒れ伏しているという様相を呈している。
「……てめえ……何、しやがった……」
「あ?」
声のした方へ振り向くと、慄然とした様子で首魁の揺れ動く双眸が俺を見つめていた。
傍にルシアの姿はなく、どこに行ったと内心少し焦ったものの、奥の方の柱に縛られているのが目に留まり安心する。
「何……? ハッ、見た通りだろ。雑魚を一撃でのしてやったんだよ」
「ざっけんなよ……!? 何だあの速度は……。魔法を使うにはもっと時間が掛かる筈だろうが……!」
押し殺したような声で突っかかってくる首魁。
目の前の理不尽が信じられないようだ。
「詠唱は魔法行使に必ずしも必須であるとは限らない。滑りを良くする潤滑油と一緒さ。滑りが悪くても動かない訳じゃないが、滑りが良い方が色々楽だろう? 使った方が簡単に事を成せる、ただそれだけの話だ」
「クッソが…………信じたくねえが、ありゃあ――完全簡約詠唱じゃねぇか。何で一介の生徒がそんな高等技術持ってやがる……」
首魁が悔しげに顔を歪ませる。
本当は詠唱破棄を習得しているので無詠唱で発動できるんだがね。
これも全て師匠のおかげである。人格に難アリなところを除けば、あの人は本当に尊敬できる人物なのだ。
「さて……じゃあそろそろ、その一介の生徒とケリをつけようか。早くお前の後ろにいる女の子を助けてやらないと可哀想だ」
首魁から少し離れた後方の柱に拘束されているルシアに、もう少し待っていろ、と視線を送る。
ルシアは何かを言いかけて。
そのまま何も言わずゆっくりと頷いた。
「……アレはこちらもそれなりのリスクを背負って手に入れた商品だ。そう易々と持ってかれるわけにゃ行かねェんだよ」
首魁が佩剣を抜刀する。
「そうかい。んじゃ、俺は易々と取り返してやろうかね。ルシアも、ペンダントも」
俺は両手に一本ずつナイフを持つ。
視線はお互い己の相手に固定されている。
首魁との間に流れる空気はまさに一触即発の状態だ。直に均衡は崩れるだろう。
そして、その時はすぐ訪れた。
~今回の経緯~
ここ数日は移動が多くなってくるな〜。
あっそうだ! 移動時間中に書けるじゃないか!
よし書こう(ウキウキ)
あれ……15000字超えちゃった……(;・д・)
どうしよう……
……よし、分けるか。
という感じですはい。
……はい。




