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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
32/39

第16話 “四峰”VS“魔人”

風雲急を告げる第16話。


現状持てる力の全てを注いだ話です。

初期の文と比べると幾分マシになったのかなぁ(遠い目)

あ、楽しんで頂ければ幸いです。

 今日もまた、少女は夜の街に繰り出していた。

 焦燥が少女の心に募っていく。

 余裕はだんだんと失われていた。この事態は自分の愚かな失態によるものだというのが、『責任』という形をもって彼女をさらに追い詰めていた。

 何度あの時を悔やんだかわからない。

 何度神に祈ったかわからない。

 しかし状況は一向に好転しなかった。寧ろ時間が経てば経つほど悪くなる一方だ。


 そして今日も今までと同じく、少女の望みが叶うことはなかった。

 ただ少女にとある一つの疑念を抱かせただけだった。情報を集めさせている実家の者が少女にもたらしたものは、彼女の願いを成就させるのに繋がるものではあった。しかし同時に、そう簡単には認められないような――認めたくない類のものでもあった。


 帰り道、その終点。

 少女は連日通っている自らの身長など優に越す巨大な門扉が口を開くのを黙って見ていた。

 諸々の手続きを済ませると、少女は明かりの乏しい門の先へと進んで行く。

 そこはこの国で唯一の魔法使いを育成する学園。今は昼間の賑やかさとは打って変わって、暗く人気は全く感じられない。

 そんな夜の校地に漂う闇を少女は無遠慮に掻き分けていく。しかし足取りは鉛のように重く、連日強いられている緊張による疲労が少女の背中を押し潰さんとばかりにのしかかっている。


「…………」


 少女の願いが叶う時は果たして来るのだろうか。

 その問い掛けに答えられる者は――――まだ、現れてはいない。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇




 京鵺は学園にいた。

 今晩の空は雲がほとんどの面積を占めており、闇が深く視界状況は良くない。しかし学舎や学生寮など主要施設付近には随所に魔石灯が設置されている。そのためもし夜に外へ出ても出歩くのに困らないくらいには明るい。

 京鵺は正門を通った後、魔石灯によって照らされた道を歩いていた。

 ふう、と溜息が出た。


 京鵺は『コイン・トス』を出た後も様々な場所へ足を運び、情報を得ようとしていた。ところが『コイン・トス』の店主よりもたらされた情報以外で役に立ちそうなものには巡り合わなかった。

 よって今夜問題解決のため駆けずり回った京鵺だったが、結局得た収穫といえば、“アークライト家の謎の動き”ということだけであった。

 最初の一軒がアタリであとは全てハズレだった。

 その行動自体が無駄骨であったという訳ではないが、どうしてもうら悲しい気持ちになるのは避けようがない事実であるのも確かである。


(少し静かなところで夜風に当たってから寝ようかな)


 騒がしい所にずっと居たためか、まだ少し興奮している。これでは恐らく寝付けないだろうと思い、京鵺は精神を落ち着かせようと魔石灯の光が届かない方へ道を逸れた。


 暫時歩を連ねた先に京鵺は一つの魔石灯の優しい青光りで照らされ、スポットライトのように円光が映し出された一角を見つけた。

 特に理由もなくそこへ向かう。

 魔石灯に寄り掛かり青光を浴びていると、京鵺は今日の成果について考えを巡らし始めた。


「手に入った有力な情報は一つだけ、か。……一体、あいつは何をしているんだ」


 アークライト公爵家。

 国内最高の権力と実力を兼ね備えた“四峰”と称される四大貴族のうちの一家。

 そんな偉大なる家の長女、ルシア・アークライトは実家の力を使い『何か』を行っている。それがアークライト家の意向なのか、それともルシア個人の意向なのか。京鵺が持つ情報だけではまだ判断がつけられない。


「それに……」


 京鵺が徐に制服のポケットから取り出したのは一つのペンダント。京鵺が王都に来訪したその日に、京鵺がスられた財布を取り返したところなぜか入っていた代物だ。


「お前のこともよくわからなかったな……」


 和光がペンダントを照らし出す。

 ダイヤのような四つ先端が付いた星型の形状。その中心部には一際目を惹く大粒の美しい宝石。極めつけにその宝石を縁取る精緻な彫刻。

 およそ一般庶民である京鵺には一生お目にかかる機会すらない逸品だ。

 京鵺自身、どうしたものかと扱いに頭を悩ませている品でもある。

 ――――そして……。


 ジャリ、と。

 唐突に、土を踏み鳴らす音が京鵺の鼓膜に届いた。


(気ィ抜き過ぎたッ!?)


 バッと服が音を立てるほどの勢いで音のした方向へ振り向く。


「え」


 目の前の光景に京鵺は絶句した。

 どうしてだ、何故こんな所にいるのか。

 理解し得ない疑問が湧き水の如く京鵺の頭を埋め尽くす。

 漆黒の瞳が動揺によって揺れ動く。


 ――視線の先。

 そこに少女はいた。


 真っ赤な髪を夜風に靡かせながら。


 真っ赤な双眼を激情に燃やしながら。


 エストクル最強の炎使いと称される家系の血を引く少女――ルシア・アークライトは、世界最強の魔法使いの弟子である狭間京鵺と対峙した。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




「どうして……どうしてアンタがそれを持ってんのよッ!!」


 憤怒に彩られた糾弾が夜の学園に木霊する。

 何故ルシアがこんな時間にここにいるのか。

 何故ルシアがこんなにも怒りを露わにしているのか。

 わからないことだらけだったが、ただ一つわかっていることがある。

 それは非難の矛先は自分に向いているのだということ。

 いきなり突きつけられた現実に俺は戸惑いを隠せなかった。だってそうだろう。俺はルシアにこんなにも怒らせるような真似をした覚えはないんだから。


「…………は……?」


 だから、ルシアの苛烈な問い掛けにすぐに答えることができなかった。


「……そう。答えるつもりはないってことね」

「は、ぁ?」


 待て。そう考えるのは早計過ぎやしないか。

 ルシアは俺の内心の焦りに気づくことなく怨嗟の籠った目で睨みつけ、俺との距離を一歩、また一歩と詰める。

 ルシアの迫力に圧され、俺は冷や汗を浮かべながら無意識に彼女の歩みに合わせて後ずさる。訳もわからず責め立てられている状況に堪らず俺は声を張り上げた。


「っ! ――待てッ! お前は何か勘違いしてるッ! 一回頭冷やせ!」

「……勘違いなんてしてないわ。アンタが犯人なのはうちの者達の働きで調べは付いてる。それに、アンタが今手にしてるそのペンダント……それが何よりの証拠よ」


 チラリと手に持ったそれに視界に入れる。

 いつの間にか財布の中に入っていた謎のペンダント。これが何よりの証拠だと……?


「――っ! まさか……このペンダントの持ち主は……!」

「返してもらうわよ」


 ルシアが何かを呟く様子を見にした瞬間、全身に危険を知らせる寒気が身体中を駆け抜けた。

 ルシアの手元に火花が散る。


「待っ――――」


 大爆炎。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇




 荒れ狂う真紅の炎の奔流が辺りを容赦なく呑み込む。

 周囲一帯が一瞬にして紅く染まり強烈な熱を放つ灼熱地獄と化した。そして同時に轟く大爆音。

 この全ての事象はたった一人の人間が生み出したものだ。

 圧倒的。そう表現する他ない一撃。


 これが“四峰”。

 これがルシア・アークライト。


 こんな攻撃をマトモに受ければそれは死と同義である。激情に駆られて放った炎は、普段ならば絶対に撃たない筈であった。だがルシアは撃った。それも一切の躊躇いなく。

 こんなことになったのは彼女の焦りと余裕のなさに帰結する。

 そして、それらはルシアに人を殺してしまったという意識を巧妙に隠蔽していた。


 ルシアの見つめる先。

 未だ勢い衰えない高熱の火炎が激しく揺らめいていた。だが次の瞬間、一箇所炎が盛り上がったと思うと何かが猛烈な勢いで飛び出してきた。


「――!!」


 ルシアは驚愕に瞠目する。

 その飛び出した影が意味するところ――それは狭間京鵺の生存。

 京鵺はあの苛烈な攻撃の中生きていたのだ。しかし無傷とまではいかなかった。肌に多少の火傷や所々が焼け焦げた制服。京鵺の力をもってしてでもその火炎は防ぎ切れなかったのだ。

 “四峰”の名は伊達ではない。


 京鵺は攻撃を免れるとすぐさま逃亡を図った。会話は不可能であると断じたのだ。

 咄嗟に発現させた身体強化魔法で闇に閉ざされた学園を駆ける。

 しかしそれを見逃すルシアではなかった。


「“不可視の鎧、理を昇華せよ――身体強化ブースト”」


 こちらもまた身体強化魔法。

 途端に常人の走れる限界速度を突破。先行する京鵺に追随する。


「チッ、やっぱりか。使えねえ筈、ある訳ねえよなッ!」


 首だけを後ろに捻り、追走してくるルシアを視界に留める。次いで、目を見張る。目に映ったのは怒り、怨嗟の感情。そして……僅かな悲しみで歪められた少女の相貌だった。

 京鵺は口惜しげに歯ぎしりする。

 悲しいほどにすれ違いが起こっている。なんとかしたいと思う。されども今のルシアに話は通じず、それを踏まえた上でこの状況を打破しうる策など思いつく筈もない。


「いい加減止まりなさいっ!」


 高速で走るルシアの周囲にいくつもの炎弾が現出する。一拍後、それらは瞬く間に京鵺の下へと殺到した。


「ッッ! だったらお望み通りっ、止まってやるさ!」


 身を翻し脚をブレーキ代わりにした擦過音が鳴り響く。土埃を巻き上げながら急停止した京鵺は灼熱の弾丸に正対すると、腕を思いっきり引き、上から下へ強化された拳を地面に叩き付けた。衝撃が撒き散らされると同時に生み出されたのは、京鵺の身を隠すほどに地面から噴き出す大量の水。


 “水障”。


 遠距離魔法を使えない京鵺が編み出した、実戦レベルで使える『2』系統水属性の魔法ナンバーマジック。打ち付けた拳を起点に障壁となる水を創り出し己の身を守る。

 京鵺がなんとかして身体に纏う類以外の魔法は発現できないかと試行錯誤した結果が――この『伝導』である。

 これによって実戦でも運用可能なくらいには攻撃範囲が広がった。それでも近距離の域を出ないものではあったが。


 そんなこの世界に来てからの一つの修行の成果が、圧倒的火力と物量を誇るルシアの攻撃を見事に防ぎ切った――とはならなかった。

 確かに炎弾の防御には成功していた。だが全てとはいかなかった。京鵺を守護する水璧が全弾を防ぎ切る前に蒸発してしまったのだ。京鵺の魔法もなかなか強力だが、ルシアの魔法の方が幾分勝っていた。


 火は水に弱い。

 だが強過ぎる火の前には水であろうともただの蒸気と成り下がる。

 それが現実に起きたということは、ルシアの極端に突出した火属性における超高適性の暴力が成せる業に他ならない。

 身を守っていた“水障”が蒸発し、視界を遮るものが何もなくなった京鵺の目に映ったのは――襲い来る数弾の烈火。


「くぅッ!」


 京鵺は片膝立ちの状態から大力を振るい、横へ吹っ飛ぶように側宙し紙一重で炎撃を回避。次いで回転する視界に飛び込んできたのは、京鵺に手を伸ばしているルシアの姿。


(追撃っ!?)


 着地した瞬間、明らかにおかしいくらいの熱が着地地点に拡がる。

 思考より先に身体が動いた。反射的に自分の身を後方へ投げる。と、刹那の時を経て地中から炎柱が強勢を伴い噴き出した。

 火気が迸る凄絶な光景を前に炯々とした火の色に照らし出される京鵺の顔。発せられる熱風に顔を顰める。

 安全を図り、距離を取るため再び駆け出す。


(どうする! このままじゃただ体力を消耗するだけだ。ここを乗り切るためには、一体どうしたら……!)


 吹き荒ぶ強風を切り疾駆しながら頭を働かせる。

 現状京鵺とルシアの間には容易に覆られそうもない誤解が存在している。対話による説得は無理。ならばこの場を離脱することが先決だ。ところがそれにも問題が付き纏う。

 相手は“四峰”で実力のほどは疑いようもない。加えて遠距離攻撃を間断なく放ってくる。

 対して京鵺はというと、“最強”に育てられた故実力は折り紙つきだが遠距離攻撃が使えない。さらに悪いことに今ルシアに向けて攻撃してしまったら、彼女に対する敵対行動、完全にルシアの敵となる。


 早々に行き詰まってしまった京鵺だったが、不意にその黒眼に己が手に握り締めていたペンダントが留まる。

 一瞬の思考。


 ……これしかない。


 そう思った京鵺はとある場所へ向かうため、進行方向を転じた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇




 エストクル魔法学園はあまりにも広過ぎる敷地面積を誇る。様々な環境での魔法の扱いを生徒に学んでもらいたいというのが主な理由だ。

 しかし広過ぎる敷地も夜となれば、ほぼ全てが黒一色となる。

 そんな中、異変が一つ。

 鳥瞰すると暗闇の中に断続的に紅く光るものが散見している。やがて轟音もその一帯を震わせる。

 発生源付近にいるのは黒い影と紅い影。黒い影に紅い影が追随する形で、両者共に高速で移動している。

 真夜中の追走劇。

 しかしそれは黒い影――京鵺が唐突に立ち止まったことで幕を引いた。京鵺に攻撃を放っていた紅い影ことルシアもまた同様に足を止めた。


「……とうとう観念したってワケ?」


 対する京鵺は彼女の言葉を受けてゆっくりと半身に振り返る。だが、そこに諦観はない。攻撃の意思も見られない。あるのは無表情。ただ、それだけ。


「観念していたら……どうする?」

「大人しくそのペンダントを渡しなさい。そうすれば命は見逃してあげるわ」

「……命は、ね」


 炎撃が止み、余計に冷たく感じる風が二人の間を吹き抜ける。

 両者の思いは決して交わらない。


 なんとしてでも取り戻す。

 こんな風に戦いたくない。


 各々が秘めるそれは、強固たる意志と和平の願望。


 交錯する視線。

 無言の静寂。

 やがて膠着した状態は静かに動き出す。一石を投じたのは京鵺だった。虚空を見上げ徐に口を開く。


「火はさ、燃えやすい物があると簡単に燃え広がるよな」

「何を言ってるの……?」


 突如言い出した戯言たわごととも取れる京鵺の発言にルシアはその紅眼を訝しげに細める。対する京鵺はその様子を無言で睥睨する。


「…………」


 暫しの睨み合いを経て、頭の中にとある一つの可能性が浮上する。と同時にルシアに動揺が走る。

 そんなルシアを無感情を貼り付けた顔で視界に捉えながら京鵺は言葉を続ける。


「気づいたか? ここは森の中だ。そして――」


 薄らと影を窺わせる笑みを浮かべる。


「火の大好物がいっぱいだ」


(っっ!! 誘導され(・ ・ ・ ・)()!)


 口惜しさにその美しい貌を歪ませる。

 即座に周囲に目を配ると、視認し得たのは深く生い茂った草木の数々。ここは学園内にある森林地帯。迂闊に火を放てばあっという間に燃え広がるだろうことは、まさに火を見るよりも明らかだ。

 これでルシアは得意の炎を使えなくなった。


「つまり、アンタは火が使えないここで私を倒すってこと?」

「いや。そうじゃない」

「?」

「ルシア。俺はお前とは敵対しない」

「ハッ、敵対しないですって? ここまでのことをして、私を騙したっていうのに? 笑わせないで」

「…………そうか」


 取り付く島もない明確な拒絶に、京鵺は悲しげに眉尻を下げる。


「じゃあ――」


 京鵺が手に持ったペンダントを軽く上に投げる。数秒宙を舞い、ルシアの視線がそれに集中する。再び京鵺の掌に落ちたその時、俊敏な動きでルシアに向かってペンダントを投擲した。


「なっ!?」


 超速度を受け取ったペンダントは直線を描くようにルシアの頭の真横を通り過ぎた。風圧が頬を撫でる。飛び出さんばかりに目を見開いたルシアは、堪らず背後を振り向いた。

 ペンダントは暗闇に隠れてしまい、残念ながらその姿を判別することは叶わなかった。アレはルシアにとって何物にも変えがたい大事な品だ。もう二度と手放す訳にはいかない。

 早く取りに行かなければと反射的に動こうとする脚に、理性が待ったをかける。


(そうだっ! アイツは!?)


 全ての元凶を野放しになんてできない。

 そう思い至ったルシアはすぐさま正面を確認する。


「くっ……!」


 だが眼前に広がる光景が伝える結果に歯を軋ませる。悔しさが滲んだ声は静謐なる森の中へ溶け込んでいく。


 ルシアの目の前にはもう、黒髪の少年の姿は跡形もなく消えていた。



 逃走を許してしまった。されど一番大切な物は取り戻すことができた。今はそれだけで十分。

 ルシアはやや離れた所にあったペンダントを拾い上げ大事そうに手で包み込む。その手を胸に押し当てて瞑目すること暫し。再度瞼を開け決意を秘めた美しく輝く紅眼を覗かせると、ひとまず最優先事項である『ペンダントの奪還』という目的を達成した旨を報告するため、一度家に戻らなければとこれからのことを考え始める。


 戻る準備をするために、ルシアは寮へと歩みを進めた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇




「あ〜あ。明日からどうすっかなあ……」


 学園内のどこか。

 黒髪の少年は一人、大木の根本に座り込み、やっと出てきた月を眺めていた。


 少年の独り言に、答えてくれる者は誰もいない。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 昨夜、俺は寮に行けばルシアと鉢合わせする可能性を考慮して身を潜めていた森で野宿をした。ルシアとの間に生じた軋轢に輾転反側していて寝不足気味であるのは否めなかったが。


 早朝にコッソリ寮の自室に戻ってスペアの制服に着替えた俺は恐る恐る学園に登校していた。既に俺がルシアのペンダントを盗んだ犯人だと広がっているのなら、学園長には悪いがここから立ち去る気でいた。だが予想に反して学園はいつも通り穏やかなままだった。

 何も変わらない日常が俺を迎えていた。

 ……いや、何もじゃないか。一つだけ、昨日までと違うところがある。


 俺の隣の席は、空席になっていた。



 放課後、俺は学園長に呼び出しを受けていた。

 多分昨夜のことだ。一応朝に大まかに事情を話していたが、委細を聞くためにもう一度俺を呼んだのだろう。

 俺の正面に腰を掛けている学園長は神妙な面持ちで口を開いた。


「昨日の夜、君はここの敷地内でルシア・アークライトと戦闘を行った。それについては当時巡回していた守衛にも話は聞いている」

「はい」

「そして今日、彼女は学園を休んだ」

「そう、ですね」

「これはきっと君との間にあった件を知らせるために家に戻ったのだろう」

「…………」


 そこまで言って学園長は一度間を置いた。


「先刻、アークライト家から使いの者が来た」


 やはり、俺は犯罪者と見なされたのか。

 少しの間だったが楽しい時間を過ごしていた相手だ。その相手にここまで突き落とされると、少し……キツい。


「彼の家からの連絡はこうだ。――『ルシア・アークライトは、こちらには戻って来(・ ・ ・ ・)ていない(・ ・ ・ ・)』」

「…………え?」


 頭が混乱している。


 なに……。……なんなんだ。とてつもなく……嫌な予感がする。

 加速度的に上がっている心臓の音がうるさくて仕方がない。

 動揺している俺に学園長は静かに告げる。

 予感が、当たる。


「昨夜学園を出た後、我が校の生徒、ルシア・アークライトは――」







「行方不明となった」

要らないとは思いますが一応補足。


文中の場面の切り替えなどで使用する記号について。


◆◆◆◆◆◆◆◆


↑これの後は京鵺視点。


◆◇◆◇◆◇◆◇


↑これの後は三人称。


気づいてた人もいると思いますが、今話は場面の切り替わりが激しいので念のため。


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