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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
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第13話 学生達の休日 デート(?)編

「そこの黒と赤の髪をした御二方、ウチの商品見ていきません?」


 俺とルシアが露店の商品の見物に興じていた時、どこからか呼び込みの声が掛かった。

 買い物といっても既に半ば冷やかしと化しており、特に断る理由もなかったのでそのお店に行くことにした。

 因みに俺を“魔人”と認識していながら今みたいに呼び込みを行うのは商人としては特段珍しいことではない。商人にとってみれば“魔人”であろうとなかろうと客であることに変わりはなく、自分達に利益を提供してくれる存在だからなのだそうだ。客を選別している暇があったら一つでも物を売るのが重要らしい。

 その話を聞いた時は商魂逞しいなと思ったものだ。自分としては物を買う時不都合が起きなくていいと思っているので、全くもって不満なんてないのだが。


 話を戻そう。

 俺達を呼び込んだのは、小粒の石やネックレス、ブレスレットといった装飾品が陳列されている、丁寧な物腰で接客する女性の店主の店だった。


「ようこそ。こちらではお客様を美しく彩る装具を取り扱っております。きっとお客様にお似合いの物がありましょう。どうぞゆっくりとご覧になられてください」

「へえ、なんか色々あるわね。ちょっと見ていこうかしら」

「いいんじゃないか? 他に行きたい所がある訳じゃないし」


 何か琴線に触れるものでもあったのか、陳列されている種類豊かな商品の数々に興味を持った様子のルシア。

 というかここにおいてある物って女性用の物が多い気がする。何故俺も一緒に呼ばれたのだろうか。男である俺には必要ない品々を眺めながらそんなことを考えていると、出し抜けに店主から声が掛けられた。


「ほら、そちらのお客様もご自身の恋人にピッタリなものを見繕ってはいかがですか?」

「「はい?」」


 店主の言葉が理解できなかった俺とルシアは揃ってマヌケな声を上げた。

 今なんて言った? 恋人? それは俺に対してだよな……。

 ……………………あっ。


「えっ、ちょっ何言ってんのっ!? コイツが彼氏!? そんな訳ないじゃない、誤解よ誤解ッ!」

「あら、そうでしたか。てっきりお二人でデートしているものだと……。これはこれは、失礼致しました」


 顔を赤らめながら激しく否定するルシアの剣幕に対して、一向に臆する様子もなくゆったりとした口調で謝罪する女店主。ルシアのあの勢いにこの対応……この人は大物かもしれない……。

 というかその気はないにしてもあんな強く否定されるとは、男としてちょっとショックかも。

 そしてそのルシアは、「全く、ありえない話よね」と言いながら赤みの抜けた顔をこちらへ向け、じーっと俺を見つめると、


「うん、やっぱないわね、絶対ない」


 そう宣った。

 ヒドいヤツだ。


「お前、本人を前にして言う台詞じゃないぞ、それ」

「何よ――あっもしかして期待してたの?」

「いやしてないけど」

「……別に私も期待してた訳じゃないけど、即答されるとそれはそれで頭にくるわね」

「……面倒臭いヤツってよく言われない?」


 ルシアを煽る意図はなかったのだがどうやらこの発言が彼女に火をつけてしまったらしく、罵倒に近い文句を聞くハメになった。

 あー店主さんが余計なことを言うからこんなことに……。いや、人のせいにするのはよそう。発端は店主さんだとしてもルシアに火をつけたのは俺の失言が原因なんだから。


「――大体人が親切にしてあげてるのに関わるなはないと思うんだけど」


 うーわ、あの時のことまで持ち出してきたよ。

 実際事情があったとはいえ身勝手な振る舞いだったとは思っている。でも俺だって色々と考えた結果なんだぞ。

 しかしあの件に関しては俺に非があると思っているので、強く反論できないのが痛いところだ。


「あの、お客様? この状況を作り出してしまった私が言うのもなんですが、女性のご機嫌を取るのも男の甲斐性ですよ?」


 俺達の様子に見かねたのか店主さんが俺に耳打ちしてきた。

 確かにそうだな。そろそろ怒りを鎮めてもらわないといつ終わるかわからないし。

 ……仕方ない。


「ルシア、お前の言ってることはもっともだ、反省するよ。だから機嫌直してくれないか、なんか気に入った物があれば買ってあげるから」

「――えっ、そ、そう? んーなんでも好きなの買ってくれるんだったら、許してあげなくもないわよ?」


 そう言って見る見るうちにご機嫌になっていくルシア。

 ふぅ、助かった。これで俺の精神は安泰だ。


「金の方は気にしなくてもいいからな、それなりに持ってるつもりだ」

「はーい」


 ワクワクとした感じで興奮気味に商品を手に取ったり凝視したりして吟味しているルシアを見ながら、手持ち無沙汰になってしまった俺はなんとなく周囲を見渡してみる。すると目に映ったのは、またしても何かを買わされそうになっているアリスの姿。その傍らにはラウラもいて、アリスの攻防を傍観している。多分だが、ラウラはあれを見て楽しんでいる気がする。まあちゃんと助けるとは思うが。


「キャっ!」


 どうやらアリスが通行人とぶつかってしまったらしい。人が多い場所なのでよくあることなのだが……。


「あれ? 今の声って……アリス?」

「ああ、ちょっと行ってくる」


 ルシアにそう告げると、俺はアリスの方へ向かって行く。


「おっと、悪いなアンタ」


 途中で男にぶつかり謝罪する。対する男はコクリと頷きそのまま人混みに紛れていった。

 俺がルシアといた店とアリスとラウラがいる店はそんなに離れている訳じゃないので、二人の元にすぐに着いた。


「よっ二人共。アリスは災難だったな」

「いっいえ……私が不注意だっただけです」

「いやいや、そうじゃなくてさ。ほら、コレ」


 アリスの眼前に俺のじゃない財布を掲げる。


「えっ!? な、なんでキョウヤさんが……?」

「ッ! …………無い。アリスの財(・ ・ ・ ・ ・)布が(・ ・)


 状況を理解できないまま驚きに顔を染めるアリスに対して、俺がアリスの財布を持っている理由に思い至った様子のラウラはすぐさまアリスの方を見て財布がないことを確認し愕然とする。

 とりあえず返却しようと思いアリスに財布を渡す。


「ありがとうございます……。でもどうしてキョウヤさんが?」

「簡単なことだ。さっきアリス、通行人にぶつかっただろ? あれはアリスの不注意だった訳じゃなく、意図的に起きたことだ」

「意図的、ですか?」

「ああ。ぶつかったのはアリスの財布を盗むため。さっきの男はスリ師で間違いないだろうが、腕はそこまでじゃない。何せ自分がスられたことに気づいてないんだからな」


 俺がやったことは簡単。スリ師と同じ手口でスリ返しただけだ。

 今頃は自分の獲物が紛失しているのが発覚して慌てているんじゃないだろうか。そんな奴のことは知ったこっちゃないのだが。


「あ、そうだったんですか……。あの、本当にありがとうございますっ!」

「私からもありがとう。キョウヤがいなかったら今頃途方に暮れてたと思う」

「別に大したことじゃない。それにたまたま現場を見てただけだしな」


 そう、偶然犯行現場を目にしたからこそ取り返せたのだ。アリス達から目を離していればもうどうしようもなかっただろうな。何せこの人口密度だ、注視していなければ人一人なんて一瞬で見失ってしまうだろう。


「ただアリスはもっと周囲に気を配った方がいい。人通りが多いとこういう被害も増えるからな」

「はい、心に留めておきます……」


 しゅんとして項垂れるアリス。

 俺としてはこのことに関してグチグチ言うつもりはないのでわかってくれればそれでいい。知り合いが被害に遭うのはあまり気分の良いものじゃないしな。


「じゃあ俺はこれで。あっちにお嬢様を待たせてるんでな」


 少し暗くなってしまったので場を明るくするため、肩を竦めておどけてみせる。実際待たせているのは事実だし。

 二人にまた後でと言い残しルシアがいるお店へと戻る。

 すると何故か感嘆の声によって迎えられた。


「キョウヤって意外とすごいのね。ちょっとびっくりしたかも」

「なんだ見てたのか」

「人影に隠れて取り返したところは見えなかったけどね。あの二人の様子とアンタが財布を持ち出したところが見えたから想像はつくわ。……それにしても鮮やかな手口だったわねー。それで稼いだことでもあったの?」

「馬鹿を言え、ンな訳ねぇだろ。手先が器用なだけだ」

「冗談よ冗談」


 全く。あんな奴と同列に扱われたくないな。冗談なのはわかってたけどさ。

 それにしても王都に来てからスリに縁があるもんだなぁ。そんな縁なんざ即刻切ってやりたいがね。


「それで? 欲しいモンは決まったのか?」

「そうね、これにしようかしら」


 そう言ってルシアが手に取ったのは綺麗な透明の石が付いたブレスレットだった。


「そちらの商品は他とは少々毛色の異なるものでございますね。そのブレスレットはご自身の魔力を込められることで色を変化させる特殊な商品でございます。そして身に付けている人に幸運を呼ぶと言われております故、貴女様にももしかしたら良いことが舞い込んでくるやもしれませんね」

「ふーん…………良いことねぇ……」


 魔力を込めて色が変化するブレスレットね。魔道具の一種かそれに準ずる何かか? 大概の魔道具は高価で容易には手を出せない代物が多いのだが、これはそうでもなさそうだな。いや決して安くはないのだが、ルシアに買ってやると言った手前、やっぱり買えませんでしたなんてことになったら恥もいいところだ。

 ここは男の沽券に関わる重要な局面、間違える訳にはいかない。


「いいんじゃないか。自分の魔力を込めるってことは、そのブレスレットは世界で一つしかないものになる訳だし、特別な一品にもなると思う」

「――……そうね。じゃあこれにするわ」


 という訳で購入決定。女店主に代金を渡す。

 ていうかこの人に上手く乗せられた気がする。俺達最初は買う気なんてさらさらなかったのに、気がつけば俺は金を払いこの店主はきっちり儲けている。

 まさか全て手のひらの上!?

 ……いや流石に考え過ぎだな。不確定な要素も多かったし。

 それに安くはない買い物だったが、美少女の嬉しそうな笑顔を拝めただけでも大枚を叩いた価値はあったというもの。

 想定以上に懐が痛む結果となったものの、残金はまだ残っている。どのくらい持つかわからんが。

 …………後で時間が空いたら、ちょっくら稼いでくるかぁ。


 とまあ俺は自身の懐事情などおくびにも出さすに、ルシアが魔力を込めるのを見守っている。

 ルシアは優しくブレスレットを包み込み、魔力の注入を開始する。指の隙間から淡い赤色の光が漏れ出ている様を静かに眺めて暫時、ルシアはゆっくりと指を開いていった。


「ほう……これが」


 思わず感嘆の息が漏れるほどに美しいそれは、内で炎が燃え盛っているかのようなルシアの髪色と同じ鮮やかな紅色だった。

 きっとルシアにすごく似合うと思う。これは選んで正解だな。


「うん、いいじゃないいじゃない! 気に入ったわ!」


 本人もご満悦の様子。

 貴族様がこんな平民がメイン層の市場の商品に満足してくれるのかと懸念していたが大丈夫だったようだ。

 やはりこの国の貴族は他所とは多少違うのか。

 おっ、ルシアが早速ブレスレットを付けるみたいだ。


「どう?」

「ああ、似合ってるよ」


 俺の感想に満足したのか若干抑えきれていない笑みを見せる。気に入ってくれたようで何よりだ。

 俺はニマニマしているルシアを連れて店から離れた。

 それからは皆と合流したりして、特にトラブルもなく日が暮れるまで共に過ごした。

 結構疲れたものの、この日は俺にとって久しぶりの、なかなかに充実した一日となったのだった。

この話でやっと折り返し地点です。

これからの道筋は考えているのですが、そこに繋げるのが意外と難しくて四苦八苦してます。

GWにもうすぐ突入するので、その時まとまった時間をとって書き上げたいなぁって考えてます。


……あわよくばストックを貯めてやるのだ……!


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