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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
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第12話 学生達の休日 雑談編

流石に長過ぎたので分割しました。

 溢れ返るような雑踏に立ち上る熱気。

 客寄せをする店主や商品を見てあれやこれやと言葉を交わす客など無数の人達が作り出す喧騒が耳に届く。

 人が雲霞の如く押し寄せてくるように錯覚させる光景は、日本の東京を彷彿とさせるものだった。

 この地に来てから三度目の王都。

 やはり王都と言うからにはその人口密度は伊達ではないと体感する。とはいえ当然王都全域がこんな風に混み合っている訳じゃない。ここは露店や店舗などがひしめく通りであるため、ここで売っている商品を求めてやってくる商人や冒険者、市民などで人の往来は激しい。


「人が多いわね……」


 うんざりしている気持ちがよく伝わって来る声色で、この光景を見た感想を述べるルシア。それに頷くジェイド、アルフ、ラウラ、アリス。

 勿論俺も同じだ。

 というか前に来た時はここまで混んでいなかったと思うのだが。

 ついそう愚痴をこぼすと、アリスが律儀に答えを教えてくれた。


「今日は学園がお休みだからですよ。外に出てくる学生がお買い物をするためにこの辺りに来るので、それに目をつけた商人さん達が露店を開いたりするんです。しかも学生向けだけじゃなくて一般向けにもなかなか良いものが揃ってたりするので、それ目当ての人達も集まってきたりで……」

「まさに俺等がこの原因の一端を担ってるって訳か……」


 確かに学生っぽい人達がそこかしこに見られる。『っぽい』っていうのは学園の制服を着ておらず、外見から判断するしかないからだ。

 エストクル魔法学園は有名であるが故にそこに在籍するだけでそれなりのステータスとなるのだ。それはつまり、学園の生徒であるという理由で近づいてくる輩や、優秀な魔法使いの卵である学生を狙う輩などといった厄介事に巻き込まれる可能性が小さくないということを意味する。

 そこで学園側は外出時における制服の着用を制限し予防線を張った訳だ。あくまで禁止ではなく非推奨であるので着ても構わないのだが、もしもの時の被害は自己責任なのだそうだ。

 当然俺達もそういう事情に則り全員私服姿だ。

 とまあそんな感じで人混みを眺めつつ皆で両脇に並び立つ露天を見て回る。

 因みに俺の案内を買って出たルシアはというと――――


「お嬢ちゃん、これなんかどうだい? 今ならお買い得ですぜ。そっちのヤツと一緒に買えば安くするよ?」

「いやっいいわよ! 買う気ないから……いやだからもうホントに――」


 お店の人に捕まっていた。

 うーん、ルシアは必死に断ろうとしてるんだがあの手この手で買わせようとする店主からなかなか逃れられないようだ。頑張れ。

 関わりたくないのでそっと目をそらしてみたら、別のところでもいつの間にかアリスが同じような光景を繰り広げていた。頑張れ。


「ちょ、ちょっと……アンタなに目そらしてんのよ、助けなさいよ……」

「あ、ご苦労さん。別にいいだろ、買えば済む話じゃないか。貴族だろ?」

「あんないっぱいの肉食べられる訳ないじゃない!」


 そう、先ほど買う買わないと必死の攻防を繰り広げていたルシアだったが、その店は焼いた肉を売っている露店だったのだ。

 店主の目には一体どうやったらルシアがあれほど食べられると映ったのだろうか……。謎である。


「おーいキョウヤー。こっち来てみろよ、いっぱい武器売ってるぜー」

「ん? ああ今行く」


 大きめの武器屋の前で手を振っているジェイドとその横にアルフの姿が見えたので、ルシアがぶつけてくる文句を聞き流しながらとそこまで行ってみると、様々な武器が綺麗に並んでいる様相が目に映った。


「へぇ、結構揃ってるな」

「だろ? この剣とかいいと思うんだよなぁ」


 ジェイドが手に持った剣は所謂バスターソードと呼ばれる両刃の剣で、片手で扱うには少し重みがありそうな感じがした。


「それちゃんと使えるのか?」


 気になったので訊いてみた。


「当ったりめえよ、楽勝楽勝。日頃から鍛えてるからな、こんくらい魔法なしで振り回せなきゃ話になんねえって」


 ほう、ジェイドは鍛えてる系の魔法使いだったか。

 まあ見た目ゴツイからすぐわかるんだけどな。

 俺も同じく鍛えているが、世の魔法使いは鍛えない人が多いのが現状だ。

 魔法使いの領分は中遠距離戦。近距離戦は剣士の領分。

 そんな風潮が冒険者界隈に蔓延しているために魔法使いは自身を鍛えるということをしない。故に敵に接近を許したら終わりというパターンが多いのだ。


「流石だな、よくわかってるじゃないか。身体を鍛えるのは基本だからな」

「……なんか脳筋の会話に聞こえてきたんだけど」


 失礼なヤツだな。至極当然のことを話していただけなのに。


「なんだ、ルシアは鍛えてないのか?」

「えっ、鍛えてないけど…………ダメなの?」

「別にダメとは言わないが、適度に鍛えていた方がいいと思うぞ?」

「……なんで?」


 俺はルシアに魔法使いの接近戦における脆弱性を説いてあげた。

 話を聞いたルシアは消化不良といった感じで完全に飲み込めてはいないようだったが。


「興味深い話だな。是非ともご教授願いたいものだ」


 アルフが興味津々な顔で会話に混ざってきた。

 どうやらSクラスでもあまりこのことはメジャーではないらしい。


「なになに? なんの話?」

「わーっ! ちょっちょっとラウラちゃん、引き摺らないで〜」


 ラウラも面白そうな話題を察知してきたようで早速やって来た。その手に店主さんに商品を買わされそうになりワタワタしていたアリスの襟首を強引に掴みながら。


「で、なんの話?」

「その前にアリスを放してやれよ」

「……そうかも」


 たった今気づいたような素振りを見せた後、アリスを掴んでいた手を離す。

 当のアリスは「う~恥ずかしかったです……」などとベソをかいていた。

 こんな人通りの激しい所であんな風に引き摺られりゃあ、人の目を惹くには十分だからな。


「ラウラ、アリスはどうだったんだ?」

「あと少しで折れそうだった。あのまま行けば買わされてた」


 うん、予想通り。


「う~面目ないです……」


 しょんぼりして項垂れるアリス。

 毎回こんななのだろうか。すごく不安だ。


「それでさっきまで話してた内容だが、魔法使いは身体を鍛えるか否かってことだな」


 人数も増えてきたしいつまでも店の前を陣取っているのも迷惑なので、移動しながら先ほどの内容を簡単に説明しておく。


「キョウヤの話は何となくだけどわかったわ。でも、あんまり実感湧かないのよね。ほら、大体火の魔法撃てば終わっちゃうし」

「それは“四峰”だからだろ。他の奴らは違うんだからそういう訳にもいかないんだよ。それにほら、一昨日魔法撃って終わらせようとした“四峰”に勝っちゃっただろ?」

「あ……確かにそうね」

「あの時デルフィーヌが俺を近接型の魔法使いだと瞬時に判断して、多少なりとも接近戦の心得があれば結果は少し変わったかもしれないんだぞ」


 皆の反応は感心していたり納得顔をしていたりといった感じで、それなりに理解してくれたようだ。


「まあ、鍛える云々はただの素地作りなんだがな。――ジェイド、お前さっき魔法なしで振り回せなきゃ話にならんとか言ってたよな? ってことはやっぱり使えんのか、身体強化魔法?」

「おう、まあな。流石にキョウヤほどの簡約詠唱はムリだけど」


 ここで言う身体強化魔法とは、“身体強化”や“部分強化”などの人体の運動能力を引き上げる魔法のことを言う。

 俺がよく使う“身体強化ブースト”はBランク難度の魔法のため、魔法使いといえども誰でも使えるものじゃない。それなりに難易度が高い魔法なので、それが使えるジェイドは流石Sクラスと言うべきだろう。


「身体強化魔法はその名の通り自身の肉体に直接働きかける魔法だ。そして強化される運動能力は元の筋力が基底にある。だから鍛えれば魔法そのものの増強にも繋がるし、素の状態で身体を動かすことに慣れればその感覚は強化された時の動きに反映されるってワケ……なん、だが……」

「「「「………………」」」」


 どうやらこの関連性に気づいていたらしいジェイドを除いた四人が何故か黙って俺を見ている。

 …………なんか変なこと言ったか?

 …………もしかして調子乗って喋り過ぎたから、か……?

 すると、徐にアルフがこの気まずい沈黙を破ってくれた。


「詳しいな。強いだけではなく魔法にも精通しているのだな」

「え? あ、ああ、まあな……」

「魔法だけに頼るのは良くないんですね……。勉強になります」


 あれ? ただ感心していただけ?

 それならそれでいいか。調子に乗って高説垂れて不快にさせたのかと思ったが勘違いだったようだ。

 長い間悪感情に晒されていると思考が変にマイナスな方向に行ってイカンな。

 でもまあちょっと調子に乗って講義じみたものをしてしまった自覚はあるので、拗れない内にさっさと話をそらしてしまおう。


「ま、まあそんなことより今日ここに来たのは買い物のためだろ? いろんなモン売ってるんだから話ばっかりしてるのも良くないって」


 少し露骨過ぎやしないかと言ってみて気づいたが、特に異論もなく全員が俺の提案に賛同してくれたのでただの杞憂だったようだ。

 それからは各々好きなものを見たり買ったりしていた。

 俺は途中食べ物を買ったりしていたがそれ以外では特に買う物はなかった。

 ルシアに色々と案内してもらっていただけだったし、武器屋とか見ても手持ちの金じゃ足りないこともあるしな。

 しかしどういう形であれ、なかなかに楽しいものなのは違いない。


「…………あれ?」


 商品を見るのに夢中になっていると、さっきまで横にいたルシアの姿が見えないのに気づいた。

 気になる物でも探しにどこかへ行ったのだろうか?

 そんな風な疑問を感じつつ辺りを見回してみると、少し離れた所にある脇道の入口付近に今日一日で見慣れた紅の髪の毛が見えた。どうやら一緒にいる男と話しているらしい。

 男の身なりはそれなりに上等なものだったので推測だが、多分アークライト家の従者だろう。

 真剣な顔つきで何事か話している。この距離なので彼等が何を話しているのかまでは流石に聞き取ることはできないが、暫く観察した様子から、あまりいい話じゃなかったようだ。

 話は終わったらしくこちらの方向に向かってきた。

 俺は盗み見した後ろめたさから、すぐにルシアから顔を戻し商品を見ている体を装った。

 視線を外す直前に見えた焦燥感が感じられる顔が引っ掛かったが、戻ってきた時にはいつも通りの顔になっていた。

 ……あまり人の事情に首突っ込むのも良くないし、変に詮索するのは止めようか。


「おかえり。何か気になるものでもあったのか?」

「え、ええ。まあ、そんなトコ」


 ルシアがお茶を濁したことからも先ほどの件に言及するのは止した方が良さそうだ。

 俺はルシアが消えたことになんの疑いも感じていないような態度を取り、そのまま買い物を再開した。

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