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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
27/39

第11話 それぞれの思い

さあ、前回の後書きの答えですよ~


……だからどうしたというツッコミは無しでお願いします。

 ジェイド・ホップバーンが狭間京鵺はざまきょうやを朝の教室で初めて見た時、最初に感じたことは至極単純。

『普通のヤツだなぁ』――これである。

 京鵺の外見的特徴を鑑みれば多少の警戒心を抱くのがこの世界での大多数の反応なのだが、ジェイドに至ってはそのようなことはなかった。

 これはジェイドの楽天的な性格によるものが大きいのだろう。


 京鵺が転入生として紹介される前に、転入生が来るという話は既に生徒間で噂されていた。真偽の方は不明なものが多かったが転入生が来るということに関してはどの噂のなかにもあった。

 ジェイドもそれらの噂を聞いていた身としてどこか浮つくような心情であり、噂の一つに“魔人”であるというものがあると知るとなお一層興味を惹かれた。

 “魔人”と呼ばれる者を見たことがあるのは少なく、ジェイドもその内の一人だ。


「えーこの度、転入生としてこの学園に入ることになりましたキョウヤ・ハザマです。種族はきちんと“人間”ですのでご心配なく。これからよろしくお願いします」


 そしてジェイドは彼等を見たことのある内に入ったが、実際京鵺を見て思ったのだ。


 忌避されるような恐ろしい外見なんてしていないじゃないかと。

 自分達と何ら変わらない、普通の、人族の少年じゃないかと。


 目の前で先生に紹介されている少年を見て憤りにも似た感情を抱いた。

 それは一体何に対するものだったのか。

 彼のような人達を嘲弄する世の中だろうか。

 噂に乗せられて恐ろしい想像を勝手にしていた自分自身だろうか。


 そんなジェイドが見つめる先にいる少年は、先の紹介で多少の皮肉を込めた発言をした。ただ、ジェイドにはそれが己の境遇を受け入れて――いや諦めているように見えてなんだか悲しくなった。

 次々と移り変わる感情を胸の内に秘めながらも、その目は京鵺をずっと追っていた。

 京鵺の席は気難しそうで近寄り難いルシアの隣だ。上手くやっていけるのか不安に思ったが、何やらコソコソと話しているようなので大丈夫そうである。


 と思ったのも束の間、デルフィーヌが早速彼等のもとへ向かったのだ。

 マズいっ、と思ってももう遅い。

 ルシアとデルフィーヌの仲が良くないのは周知の事実だ。それはジェイドも例外ではない。そんな状況を見かねて以前ジェイドは彼女等が口論しているところに仲裁に入ったのだが、それはもう見事に撃退された。

 それ以来ジェイドは彼女等に声をかけづらく感じている。別に嫌いではない。ただ、話しかけても結果はさして変わらないだろうと思っているのと若干の苦手意識があるからだ。


 そんな事情もあり話しかけるのを躊躇している内に、どうやら京鵺が場を収めたようだ。

 そして次の休み時間、ジェイドは京鵺と話してみようと思い周りを見回してみたが、クラスのどこにも黒髪の少年は確認できなかった。それにルシアもいないことに気づいた。

 二人でどこかに行ったのだろうか?

 疑問に思いつつ京鵺達を探そうと教室から出ても二人の姿は見えない。またダメだったかと落胆しつつその辺にいる生徒に話を聞いてみると、二人の目撃情報はあっさりと見つかった。

 “魔人”に“四峰”だ。

 有象無象の関心を惹く種となるには十分である。

 Sクラスからさほど離れていないところにあるあまり人が通らない一角に足を運べば、ジェイドの探し人達はすぐに見つかった。というか、彼等の声が聞こえたのだ。

 わざわざこんな所にまで来て話すくらいなのだから、人前では言いづらい話題なのかと勝手に推測しつつ、好奇心には勝てずジェイドは二人の会話に聞き耳を立てた。


「でも……あいつはきっとまた言うわ。もしかしたら口だけで終わらないかもしれない……」


「――――ルシアは優しいな」


「――――取り繕わなくったっていいさ。ルシアは人を思いやる優しい心を持ってる。

 ――でもさ、だからこそ」


「俺と関わらない方がいい」


 ジェイドはただ無言で聞いていた。

 あんな風に喋るルシアに驚かされたのもあったし、その後の京鵺の言葉に形容し難い心境に陥ったのもある。

 だが……一番の理由は、そう言わざるを得ない京鵺の境遇を思っていたことだった。

 このままではいけない。そう思いつつも、今の言葉を聞いて動けない自分がいる。

 情けない自分に溜息が出そうになり――京鵺とルシアの会話を盗み聞きしている状況を思い出し溜息をすんでのところで飲み込む。

 二人の会話がこれで打ち切られのだということに思い至ると、ジェイドは早足で気づかれないように、そっとその場を後にした。



 その日の午前中、ジェイドはついぞ京鵺と話すことは叶わなかった。声をかけようとしても京鵺の言葉が頭をよぎって留まらせてしまったのだ。

 らしくねえなぁ、と思う。

 普段ならばこんなウジウジ悩むような性格ではないのだ。それなのにこんなことになっているのは、相手が普通の人とは違うからなのだろうか。


 単純に狭間京鵺という人間と話をしたい。

 これはジェイドの偽らざる願望である。

 しかしそんな簡単である筈のことがなかなかできず、もどかしさがジェイドの胸中を満たしていきながら午後の実技の授業が始まった。

 内容は模擬戦。

 ジェイドはやはり座学より身体を動かす実技の方が性格的に合っている。それは自身も感じているので楽しみにしているのもいつものことだ。ただ今日は楽しみの方向が違っていた。

 何しろ様々な憶測が立てられている噂の転入生こと狭間京鵺の実力を知る機会が、期せずしてやって来たのだ。

 京鵺がデルフィーヌに勝負を吹っかけられたのだが、ジェイドは止めることなく静観の構えを取ることにした。

 デルフィーヌの心証が悪い上に実力的にも不利だと思われたが、如何せん京鵺の実力のほどは謎だ。好奇心が勝るのも当然だった。


「――始めっ!」


 模擬戦が開始された。

 どのような魔法を使うのだろうか、と思考していたジェイドの頭に衝撃が走った。


(おいおい、マジか? いきなり接近戦かよ!)


 魔法使い同士の戦闘では先に魔法を放ち相手を牽制することが多い。その常識を京鵺はさも普通であるかのように打ち破り、躊躇いなくデルフィーヌに向かって行く。

 驚きに包まれたジェイドを置いて戦況は変わる。

 デルフィーヌが無数の“水弾アクアバレット”を宙空に顕現する。

 手数の増えたデルフィーヌに余裕が生まれ、対する京鵺はスピードを緩めることなく疾駆していき――


「“身体強化ブースト”」


 ジェイドは先ほどの衝撃など比にならないくらいの光景を目にした。

 最高の簡約詠唱。

 魔法名のみによる魔法の発現。


「……はは。こりゃあ…………とんでもねぇな……」


 思わず漏れる感嘆の声。

 予想以上だ。

 ここまでの絶技を成せる者が自分と同じクラスに来た。

 それを知覚したジェイドは興奮に包まれた。

 周囲から驚愕の声が聞こえてくるが、ジェイドの耳には届かない。見惚れるように、じっとこの超高レベルの技術を用いた戦いを見つめる。


 京鵺の魔法が発現してからは一瞬の出来事だった。

 デルフィーヌの背後に高速移動した京鵺は相手を転倒させ勝負を決めた。

 “四峰”相手ですら本気を出さずに勝った京鵺は圧巻の一言だ。

 ジェイドは素直にそう思った。


「ジェイド。あの転入生、どう思う?」

「アルフか。いやすげぇよ、いいモン見させてもらったな」

「同意だ。なかなかお目にかかれるものではないからな。……それにしても外見といい実力といい、驚かされることばかりだ。――なあジェイド? …………む、いない……」


 先の戦闘を思い出しながら感心していたアルフに反応する者はすでに傍らからは消えていた。模擬戦から戻って来た京鵺の所に誰よりも早く駆けつけていたのだ。

 その様子に「全く……」と言いつつ、アルフはその顔に微かな安堵の笑みを浮かべた。

 今日はなんだかジェイドの様子に違和感を感じていたのだ。普通なら気づかないくらいの差異だが、付き合いの長いアルフには十分なものだった。

 だがその心配も杞憂に終わったようだ。

 実際模擬戦を見てジェイドの心の内に燻っていたモノなぞ簡単に吹き飛んでしまった。ようやく発揮されたジェイドの親しみやすさは京鵺を困惑させているが、当のジェイドは気にした風もない。そしてそんなジェイドの姿を見て、今まで様子をうかがっていた者達が次々と続く。

 ぎこちなかったクラスの雰囲気が変わった瞬間だった。


 だがジェイドは忘れていた。京鵺がルシアに言い放った言葉を。


「うれしい…………けどさ、やっぱり俺のことは放っておいてくれないかな」


 朝の教室の中、困ったような笑みで京鵺は言う。

 ジェイドはそうだったと気づくと同時に、俺等でもその主張は変わらないのか、となんだか寂しく思った。


(ここままじゃダメだ、また戻っちまう……。キョウヤにもなんか事情があるんだろうけど……どうにかなんねぇのか……?)


 しかしこのまま京鵺の言に従ってしまったら昨日の模擬戦以前の状態に戻ってしまう。それはジェイドにとっても、彼以外の三人にとっても看過できるものではなかった。


「……理由を聞いても構わないか?」


 女子二人が思いもよらない京鵺の考えを聞いて半ば呆然とする中、神妙な面持ちになったアルフが問う。


「理由は――――俺が、“魔人”だからさ。皆に迷惑は掛けたくないんだ」

「そんな……」

「……私は、別に気にしない」


 アリスとラウラが各々の反応を静かに見ていた京鵺はゆっくりと首を横に振った。


「俺が気にするんだ。勝手で悪いとは思ってる、けど――」

「お前は本当にそれでいいのかよ」

「え?」


 突然の問い掛けに戸惑う京鵺へジェイドはさらに告げる。


「少なくともここにいる奴らはお前のことを嫌ってないぜ? 俺はキョウヤと仲良くなりたいと思ってるし、尚且つ昨日今日でお前は良いヤツだってわかったしな」

「…………」


 黙り込む京鵺。

 何やら思案している様子だったが、ジェイドにその内容を察することはできない。しかし、説得に成功したとも思えないのだ。

 暫しの沈黙を経て京鵺は口を開く――――ことはなかった。


 ゴッと頭を殴る打撃音が響く。


「いッ!?」


 殴られたのは京鵺。

 殴ったのは――握り締めた片手を上げて佇む紅髪の少女だった。


「さっきから聞いてれば陰気な会話しちゃってさ。なんか腹立つのよね」

「…………ルシア?」

「フンッ、何よ、呆けたツラしちゃって。もう一発殴られたいの?」

「はっ? いや待て待て、そんな訳ないだろ。――つーか何のようだよ?」


 ルシアの横暴な物言いを非難するようにジト目になりながら京鵺はルシアに問う。

 対する返答は京鵺を唖然とさせるものとなる。


「昨日の返事をしてなかったから」

「返事?」

「昨日言い逃げしたじゃない、俺に関わるなーとか。あれから考えてみたの、それで気づいたのよ」

「……何に?」


 何やら良からぬことを言いそうだと京鵺は不安に思ったが、残念ながらその不安は見事に的中する。


「私がアンタの言葉に従わなくちゃいけない道理はないわ! 私は私の好きなようにするだけよ。そこにアンタが介入する余地はないの、わかった?」


「勝った!」と言わんばかりの得意げな顔をして、面食らった様子の京鵺を眺めるルシア。……何に勝ったのかは判然としないが。

 そしてジェイドもまた、このハチャメチャさで先ほどまでの雰囲気を壊してくれたルシアの宣言にこれ幸いと乗っかっていく。


「そちらのお嬢さまの言う通りだな、キョウヤ。お前も色々な考えがあって言ったことだろうが俺には納得できねぇからな。やりたいようにやるぜ、俺は」

「僕もそうするとしよう。如何せん君の学園での立場は悪いのだ、放っておくという選択肢はあるまい」

「私もですっ。キョウヤさんがずっと一人ぼっちなのは、本人が望んでいようとも心苦しいですから」

「決まり。キョウヤ残念」


 次々と京鵺の考えに対する否定の数々に京鵺はもう何が何だかわからなくなった。

 目の前にいるクラスメイトは自分の考えに賛同してくれない。それどころか積極的に自分に関わろうとしている。

 そのことを理解するのには暫くの時間を要した。理解した頭でさらに思考してみるものの、彼等を説得するのは不可能に思えてきた。


 現実とは得てして思い通りにならないものだ。

 京鵺は心の内でそっと溜息を吐く。

 京鵺自身どうしてこうなったのか全くわからないのだが、結果として京鵺が一人で学園生活を送ることはできなくなった訳だ。それが良い方向に転がることを願いながら、京鵺はわざとらしく嘆息してみせる。


「わかったよ。そっちがそのつもりなら俺にはもう何もできないからな、好きにしてくれ」


 降参だ、と肩を竦め疲れたような笑顔で告げる京鵺。それを見て顔を綻ばせるクラスメイト達。

 京鵺が根負けした形に終わった朝の攻防は、言ってしまえば友達になるかならないかということに焦点が当てられた、文字に起こせば滑稽さが滲み出るような出来事であった。しかしそれも京鵺を蔑視しない良きクラスメイトに出会えた幸運あってのものだろう。本来ならば京鵺と関わりを持とうとする者などいなかったかもしれないのだから。

 そういう訳で今後の学園生活の予定を百八十度変更することになった京鵺に、ジェイドから思いつきの提案が出された。


「んじゃ、無事問題も解決したし皆で街に出ようぜ。明日って休校日だろ?」


 ジェイドの提案に一も二もなく賛成する一同。特にジェイド等と親交のあった訳ではなかったルシアは、若干躊躇いがちだったが。

 反対意見など出る筈もなく決まった明日の王都散策。京鵺も王都に来て日も浅くまだ全然見て回れていないため、その提案に否やはなかった。

 因みに休校日とは、月に何日かある学園の各所設備を点検したり、生徒と教師の休養などを兼ね備えた完全な休日である。この日は在籍している生徒等は一日中自由時間となる。無論学外へ出ても構わないし、自宅へ帰るのも門限を守れば問題ない。

 それ故休日は学外へ出る生徒が多く、ジェイドの提案は出るべくして出たものだった。


「それだったらこの私がキョウヤを案内してあげるわよ?」

「おっ、そっか、キョウヤまだこの辺りのこと知らないんだっけ。……えーとじゃあ……ルシア、さんが案内するってことで?」

「……別に呼び捨てでいいわ。私も大体呼び捨てだし」

「そうか? じゃあそうする」

「あれ? そのやり取りって普通転入して来た俺がやるもんじゃないか? なんでジェイドとルシアがそんな風に……」


 確かにもっともな疑問である。

 ただ、その疑問はラウラによって氷解した。


「簡単なこと。全然喋ったことないから。ジェイドも、私達も」

「……ふーん?」

「言動と雰囲気が近寄り難いのが原因」


 それを聞いて京鵺は納得した。

 確かにそんな感じがルシアにはあるかもしれない。実際口調もキツめであるし、普段の態度もツンとしているところが要因の一つであるだろう。

 と、そんな考察をしていた京鵺に、ジェイドがふと頭に浮かんだ疑問をぶつけた。


「そういえば、昨日キョウヤとルシアは最初っから話とかしてたよな、なんでだ?」

「あーそうだなぁ」


(別段隠すことでもないし……いいか?)


 そう考えた京鵺は一応確認の意味も込めてチラッとルシアを見る。アイコンタクトから、特に駄目という訳でもないようなので一昨日王都で偶然会っていたのだと話した。


 そんなこんなで会話は弾み、始業のベルが鳴るまでそれは続けられた。

 その様子を窺っていた周囲の者達も京鵺に対する認識を少しずつ改めていく。忌々しげに見ている者達もいたが、着実にこのクラスの雰囲気は良くなっていた。

ジェイドの話を書いている途中、自分は何をやっているんだと気づく筆者。

構成なんてね、あるようでないんですよ。それはきっとこれからも変わらないのではないでしょうか。


ついでに言うと、次の話は予想以上に筆が進んでヒャッハーした結果、文字数が一万近くになりました。

書き始めた当初、いつもみたいに五千字くらいにくらいにまとめるぞーって思ってた自分に言ってやりたい。

「お前には無理だ」と。

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