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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
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第10話 難儀なヤツ

2日遅れですが許してください。

これでもがんばったのです……

 突然であるが、この世界には人間以外の人種が存在する。

 全ての種族を挙げては枚挙にいとまがない。故にとりわけ代表的な種族を挙げてみると、『人族』、『獣人族』、『魔人族』の三種族の名が並ぶ。


『人族』は言わずもがな、普通の人間である。

 生来の筋力は飛び抜けて優れている訳でもなく、魔法の能力が格別に高い訳でもなし。そんな何かしら特別な種族的な特性がある訳でもない人族が誇れるのは、全種族一の個体数の多さだ。

 その数の多さ故に大陸にあまねく生活領域を広めており、生来の欲とその逞しさが相まって、国の君主は人族であることが多いのだ。

 大陸の実質的支配者。それが人族である。


『獣人族』は書いて字の通り獣の人、つまり獣の身体的特徴を兼ね備えた人間である。

 獣人族はおしなべて身体能力が高いという種族的な特性を持つ。多種多様な獣の特徴を有した種族であるものの、その一点だけは変わらない。不変の種族的優位アドバンテージといえる。

 対して魔法の方は特筆すべき点はない。しかしそれは魔法が使えないという訳ではなく、ただ単に適性が低いというだけだ。中には人族より魔法を上手く扱える者も当然いる。

 ただ、獣の姿を想起させる彼等の外見は一部の人族から軽んじられ、『亜人』という蔑称で蔑みの目を送られるという実情もある。


『魔人族』。

 彼等は先述した二つの種族、さらには他の種族とも違う。

 他種族との相違点は大きく二つ。

 一つは彼等が住まう地――魔大陸である。

 魔人族は人族や獣人族と共に暮らしてはいない。大陸によって隔てられているのも理由の一端を担っているが、その原因を作った人族を筆頭とした魔人族への嫌忌が主な理由だ。


 人族と魔人族は長らく対立関係を続けている。

 その発端は定かではないが、歴史上彼等が手を取り合ったことは一度もない。種族間の戦争はしょっちゅうで、古往今来大きな戦争から小競り合いまで含めると、その争いは間断なく行われている。

 大きな戦乱の場合は獣人族も参戦する。基本は人族のみで争っているのだが、苦戦を強いられると高いプライドをかなぐり捨てて獣人族に協力を仰ぐ。

 敵の敵は味方、という訳だ。


 しかし残念ながら大半の戦の勝者は魔人族だ。

 稀に人族側に勝利を許すこともあるがそれも辛勝だったりして、双方ともに痛手を被る場合がほとんどで人族側に利益が齎されることはあまりなかったりする。


 ここで疑問が出てくる。

 何故こんなにも魔人族の勝率が高いのか、と。

 二つ目の相違点にも繋がるそれは、ひとえに魔人族の方が魔法の能力が高いから、この一点に限る。

 魔人族は獣人族のように身体能力が高くない。その代わり魔法親和力が他種族と比べて圧倒的に高いのだ。それこそ数の優位を覆すほどには。


 元々繁殖能力が低いために個体数が少ない魔人族に圧倒的物量で攻め立ててくる人族では、普通にやりあっては魔人族側に勝てる要素は微塵もない。

 そこに魔法ナンバーマジックという要素が加わればどうなるか。

 簡単だ。戦況は面白いくらいにひっくり返る。

 それほどまでに“魔法”というものは、戦における勝利のための重要な鍵なのだ。


 そのような人の感情や事情が複雑に絡み合い、現在に続く魔人族対人族陣営の構図が成り立っている。


 そんな人々の多くは魔人族を忌み嫌い蔑む傾向にある。

 種族的に仲が悪いので当然といえば当然なのだが、自分達より上の強者を蔑視するような逞しさにおいて人族の右に出る者はいないのだろう。

 もし魔人族が人族領域に入ってきたとしたら、それはもう蜂の巣をつついたような大騒ぎになるだろうが。

 まあそれも本物の魔人族であれば、の話だ。


 さて、ここまで長々とこの世界の種族について語ってきた訳だが、つまるところ何が言いたいのかというと、魔人族蔑視の風評被害が同じ陣営の味方に降り注いでいるということだ。


 魔人族の外見的特徴はわかりやすいものとして、黒い頭髪と黒い双眸が挙げられるだろう。

 魔人族かどうかはこの二つの特徴をもって判断される場合が多い。判断の指標としてその外見的特徴が認められているのも、見た目で容易にわかるからだ。


 だがここで注視すべきなのは、黒い髪と黒(・ ・ ・ ・ ・)い眼を持っ(・ ・ ・ ・ ・)ていれば誰(・ ・ ・ ・ ・)であろうと魔(・ ・ ・ ・ ・)人族と見倣(・ ・ ・ ・ ・)される(・ ・ ・)という点だ。


 魔人族でなかろうと黒い髪や眼を持って生まれる者は多くはないが確かに存在する。

 彼等はただ魔人族と同じ特徴を持つというだけで、周囲に蔑まれ、嫌われ、厭われてしまう。


 無論、彼等を攻撃する側だって本気で魔人族だと思っている訳ではあるまい。自分達が住まう地に魔人族がいないために、度々起こる対魔人族の戦争で溜まった鬱憤をちょうど身近にいる魔人族にぶつけたいという非常に身勝手で人間らしい事情が原因だ。

 さらに言えば人間は他者を見下すきらいがある。それはもう性と言ってもいいかもしれない。

 そんな潜在的な感情を表出するのに“魔人”は恰好の的だ。


 そういう現状から、黒髪黒眼を持つ者は“魔人”という蔑称で問答無用で誹られる。

 “魔人”の弊害は至る所にある。

 彼等の悩みの種は尽きない。


 そしてそんな被差別者の中に含まれる、別の世界から来た一人の少年もまた、日本人の特徴でもあるその二点を持っている。

 少年の名は狭間京鵺はざまきょうや

 現在、エストクル魔法学園で例に漏れず肩身の狭い思いをしている、自由奔放な師匠を持つ苦労人である。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




「ほら、アイツだよ。例の転入生」

「あの黒髪黒眼って……」

「あの転入生、来て早々に第七位をぶっ飛ばしたらしい」

「野蛮ね」

「なんか難しそうなしてる。怖い」


 …………ふぅ。

 なんて言えばいいんだろう、えっと、なんというか……その…………帰りたい。

 部屋にいたい。

 引き篭もっていたい。

 ……いやダメなのはわかってるけどさ。

 うん、居づらさが増したね。

 めっちゃ見られてるし、めっちゃ噂されてる。


 人の口に戸は立てられぬ。

 まさしくその通りだ。

 実際に体験している身としては、噂の広まるスピード速くね? と苦言を呈したくなるものだが。


 だって昨日の今日だぞ? なんで皆知ってんだよ。

 つーか途中すごく面倒事の匂いがプンプンする単語が出てきたんだけど。考えたくないんだけど。

 第七位? 何それ。やめようよそういうの。


「……はあ〜〜〜」


 思わず長い溜息が出る。

 朝から疲れるわ。主に精神的に。

 そんな鬱屈した気分で自分の所属するSクラスの教室に向かう。

 ちなみにSクラスは一番上位のクラスだ。その下にABCDEと続く。


 なんでも年に一回学年末にクラスの再編を行うようで、その際実力をはかる試験があるそうだ。

 俺の場合は転入試験がその役割を果たしている感じで、そのままSクラスに所属することになった。

 転入試験やってないけどな!

 多少心苦しいものがあるがそのへんは目を瞑ってもらおう。

 こっちも仕事なんだ。


 そんな風に自分の所属するクラスについて色々と思考していると、いつの間にかクラスが目に見えるところまで来ていた。

 扉を開け中に入るとわかりやすく反応してきた者が一人。ジェイドだ。


「あっキョウヤ! おはよ」

「あ……ああ、おはよう」


 入ってきた俺を目ざとく見つけたジェイドがなんの躊躇もなくよく通る声で挨拶し、俺はそれに若干気後れしつつ応じる。手招きしていることから、こっちへ来いと言っているのだろう。

 ジェイドの近くには二人……いや三人の男女の姿があった。


「おいキョウヤ。今朝どこいたんだよ。部屋まで行ったけどいないみたいだったし」

「部屋まで行ったのか。悪かったな、早めに部屋を出たんだよ」

「なんで?」

「なんでって……昨日の食堂での状況思い出しゃわかんだろ」

「あーなるほど」


 俺が朝早く寮の部屋を出た理由。それは気楽に朝食を取るためだ。

 早い時間ならまだあまり人はいないので、動物園で見世物にされている動物のような心持ちで食事をしなくてもいい。

 現に今朝はほとんど人がいなかったのでストレスはなかった。


 余った時間は敷地内を把握するため散歩をしていた。広大な敷地面積を誇っているこのエストクル魔法学園だが、実際に歩いてみてわかった。広過ぎる。とてもじゃないが数時間で全てを回ることなどできやしない。それくらい広かった。


「んで、そこの三人は」


 ジェイドと共にいた三人に目を向ける。


「少し遅いが初めまして。僕の名前はアルフ・ウォルステンホルムだ。アルフと呼んでくれて構わない」

「……ラウラ・マイン。ラウラでいい」

「アっ、アリス・プルメリアっていいますっ。私のことは皆さんと同じように名前で結構です」


 三人から立て続けに紹介がなされる。

 最初に自己紹介をしたアルフという男子生徒は、一言で言えば知的。そんな印象を抱かせる容姿だ。

 シルバーの髪と眼鏡の奥から覗く厳しめの目つきが彼のキリッとした佇まいに本当によく似合っている。

 ラウラは猫の獣人の少女で肩口に届くか届かないかくらいの青っぽい色をした頭髪。その綺麗な青髪から可愛らしい獣耳がひょっこり出ていて、ゆらゆらと揺れる尻尾も確認できた。かなり小柄で俺との身長差はそれなりにあり、会話するのも必然見上げる形になってしまっている。さっきジェイドといるメンバーが二人だと思ったのは、人影に隠れてラウラが確認できなかったからだ。

 最後のアリスは若干一歩引いた感じの素直そうな少女だ。緊張してるのか、やや体を縮こまらせている。ラウラとは対照的に長めの栗色の髪の毛を腰近くまで伸ばしており、清楚さと子供らしさを併せ持った雰囲気を醸している。


「皆知ってると思うが一応。キョウヤ・ハザマだ。好きに呼んでもらって構わない。……まあ、よろしく……」


 あまり関わりあいになる人が増えるのは俺の望むところじゃないのだが……。

 俺の理想は“魔人”関連のこととかで周りから色々言われたりせずに、一人で悠々自適に過ごせることであって、不用意に友達を作ることじゃない。だからこそ昨日ルシアに突き放すようなことを言ったのだ。


「それで、俺に何か用?」

「ん? まあ用っつーかなんというか。さっきまでキョウヤのこと話してたからさ、ちょうど本人来たし一緒に話そうかなって思って」

「そういうことだ。昨日ジェイドがキョウヤと一緒に食堂にいるのを見たからな、気になったのだ」

「見てたのか」

「物の見事にキョウヤを中心に無人空間ができていたのをしっかりと」


 眼鏡をクイッと上げそんなことをのたまうアルフ。

 やっぱり目立つよな、あれ。


「私も見たかった」

「見なくていい」

「えっ、えっと、私も見たかった……です……?」

「…………無理して言わなくていいからな?」


 眠たそうに半目になっているラウラの無表情からは発言の意図が読みづらいが、なんとなく冗談だとわかった。そしてその冗談に頑張ってノッたアリスは健気だと思ったものの、視線をウロウロさせながら言ってもあまり冗談として機能してない。

 世の中には読まなくていい空気があるんだよ。


「んで、俺のこと話してたんだっけか。……俺なんかのことで話すこととかってあるのか?」

「ある。転入希望者を尽く落とす転入試験突破とかストランド家のムカつ――お嬢様を下したりとか、いろいろ」


 やっぱり昨日のはヤバかったか。穏便に済ませられれば一番良かったんだが、あの状況じゃどうしようもなかったしなぁ……。

 あとなにやら不穏な言葉の断片が聞こえた気がする。


「…………もしかして、俺って目立ってるか?」


 ゆっくりとした動きで腕を上げ、そしてビシッと親指を立てたサムズアップを見せるラウラ。

 グーじゃねえよ、ちくしょう。


「結構噂になってますよ。昨日寮に帰ってきた時点で色々な人達の話の種になってましたし」

「それも仕方のないことだ。キョウヤ、君のしたことを考えればな」

「ストランド家のご令嬢に関して言えば、俺のせいじゃないんだがな。あれは降りかかる火の粉を払っただけだ」

「……あれは傑作だった」

「ちょっ、ラウラちゃん!?」


 ラウラの暴言にわたわたしているアリスに笑みがこぼれそうになるが、それより彼女等以外の二人がラウラに同調しているようなのに少し疑問を覚えた。

 人の良いジェイドですら今の発言に嫌悪感を示した様子がない。ただただ苦笑するだけで何かを言う気配はない。


「ジェイド、いいのか? ラウラがあんなこと言ってるけど」


 ラウラを指さし、確認を取る。

 デルフィーヌはあんな態度でもこの国の最上位の貴族だ。平等を掲げるこの学園の内での発言だとしても、不味い気がしてならないのだが。


「あーまあ、アレだ。いろいろと鬱憤が溜まってるんだ、大目に見てやってくれよ」

「鬱憤? 一体なんの――――あぁ……なんとなくわかったかも」

「おっ察しがいいな、そういうこった。平民の俺達にとってみりゃ昨日の戦いは清々しい以外の何物でもなかったってわけよ」


 デルフィーヌは他者を見下す傾向が強い。

 平民なんかは当然の如く蔑み嘲笑の的としていたのだろう。なまじ権力があるから、この学園の『在籍する生徒は皆平等である』という校則にも真っ向から反発する姿勢を取れる。

 デルフィーヌの横暴な態度に苦汁を嘗めた生徒は数多くおり、内心では彼女の振る舞いを良く思っていないらしい。

 そんな事情があった故に先ほどのジェイドらの反応だったわけだ。


「まあそういう理由もあってキョウヤとこうして話せているのだよ。悪者を倒したヒーローに、いつまでも警戒心を抱いていては失礼だろう?」


 不敵な笑みを湛えたアルフはそう言い放った。

 皆も同意するように頷いている。

 デルフィーヌとの戦いは俺を侮蔑し嫌悪した結果から来たものだったが、それがこうして普通にクラスメイトと話せるようになるきっかけになるとは……いやはや皮肉なものだ。


「全く……そんな風に言われるなんて、すげー久しぶりな気がするなぁ」


 天井を仰ぎ見て大きく息をつく。

 まさか二日目でこんなにも俺を受け入れてくれる人達がいるなんて、本当に素晴らしい。

 ルシアといいコイツらといい、この学園には存外に良い人材が揃っているようだ。

 視線を正面を戻し、真っ直ぐ彼等を見つめる。

 俺を快く歓迎してくれる人達を。


「うれしい…………けどさ、やっぱり俺のことは放っておいてくれないかな」


 だからこそ、俺にも譲れないものがあるのだが。

最近の悩み:話が進まない。


今11話を執筆中なのですが……

どうしてこうなった……(゜д゜)


次話を見ていただければわかると思います。

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