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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
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第5話 出会い in 夜の王都

すみません更新遅れました。

少し見直しが必要になったのでちょっと時間かかってしまった……


 ドアを開ける。


「おぉー」


 ガチャりと取っ手を回す音が響いた後、視界に映ったのはこれから俺が使うことになるマイルーム。

 一般的な寮と同じくらい――俺の場合二人部屋として――の広さで住み心地も悪くなさそうだ。ベッド、机、椅子が二つずつ。その他生活に必要なものがある。キッチンは共同のようでこの寮のどこかにあるらしいのだが、あまり使われないみたいだ。学食あるしな。


「結構いい感じな部屋だな。うん、寮というのも悪くない」


 ひとまず持ってきた荷物を部屋に置き、一通りのやることを済ませた。持ってきた荷物は大した量じゃなかったので案外早く終わらせられた。


 ふと窓を見れば、部屋に入ってきた時は夕日が差し込んでいたのにいつの間にか真っ暗になっていた。


「……腹減ったなぁー。飯食うかぁ」


 そういえば昼間に串焼き食ったっきり何も腹に入れてない。そりゃあ腹減る訳だ。


 ということで腹ごしらえをするべく早速部屋を出た。


「……学食があるって話だけど……今はここの生徒がいっぱいいるだろうし。それに……」


 色々理由があるが今日は止めておこう。もし行くとしてもそれは明日からでもいいだろう。

 結論、外で食う。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆





「お待たせしましたー。こちらがご注文の品になりまーす」


 可愛らしい笑顔で料理を運んできたのはこの店のウエイトレス。年の頃も俺と大して変わらないと思われる少女は、さっきから精力的に働いている。

 接客が良い店はやはりどこの世界でも良いと思う。


 俺が今いるのは、一般市民や冒険者が多くいて様々な声が飛び交う喧騒に満ちた酒場、そのカウンター席。

 誤解のないように言っておくが酒を飲みに来た訳じゃない。酒場でも酒以外のものはある。

 それに情報も集まる場所でもあり、結構有用なところなのだ。


 頼んだのは肉を使った料理とサラダ。美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐりさらに空腹を際立たせている。

 ウエイトレスの娘から目を離し運ばれてきた料理に手をつけた。


「ん、うま。――飯も美味いし接客もいい。適当に入った割にいい場所見つけたかも」

「そうだろ、ここはいいぞぉ。酒はうめぇし飯もうめえ。加えて可愛い子もいるんだから最高だぁ」

「――!」


 ひとり言に返事が返ってくるとは思ってなかったので、飯を口に頬張ったまま驚いて声のした方を向くと、俺に話しかけてきたのは隣の席に座っている酔っているのか顔を赤らめたオッサンだった。

 醺然としていてニヤニヤと嫌らしくない笑みを浮かべている。


「……今、俺に言ったのか?」


 瞠目する俺の質問に怪訝そうな顔を浮かべると、オッサンは酒を一度煽る。


「当たりめぇだろぉ、何言ってんだ」

「いや…………もしかして、かなり酔ってる?」

「ああぁ? 酔ってる? この俺が酔ってるだとぉ?」


 あ、なんか怒らせちゃった感じ?


「――ハァーッハッハッハッハッ! この大酒豪、テイス・ベーンが酔ってる訳ないだろう! ハハハハっ!」

「どう見ても酔ってんだろ。つーか大富豪みたいに言うな」


 疑いの余地がないほど酔っている。何故そこまで自信満々に言えるのか…………あっ酔ってるからか。


「……まあいいか。そっちが問題ないなら気楽で済む」

「そうだそうだぁ、ちっせぇこと気にしてんじゃねぇよ」


 そう言ってまた酒を飲む。


「おいおい、あんま飲み過ぎると体に良くないぞ?」

「ハッハー! なんだ心配してくれてんのかぁ? 大丈夫大丈夫! 酒は俺の栄養みてぇなもんなんだからよ!」


 俺の背中をバシバシと叩き、ガハハハハと大声で笑うベーン。

 思ったより強い背中の衝撃にむせる。


「ゴホッゴホッ! ……力強えって」

「お? 悪ぃ悪ぃ! ……にしてもオメェこの辺じゃ見ねぇ顔だなぁ。外のモンか?」

「まあそうかな。今日王都に来たばっかりなんだ。暫くここに住むことになってな、新生活が始まったところなんだよ」

「へぇ! んじゃあこの店にもまた来んだろ? 俺はここの常連だから、また会うかもしんねぇなぁ」

「やっぱりか、そんな感じしたよ。俺はキョウヤ・ハザマだ。そん時あったらよろしくな、ベーンのおっさん」


 その後もベーンと色々と話をしながら飯を食べたが、結局、終始ベーンは酔っていることを認めなかった。絶対酔ってるのに。

 思いの外楽しい時間を過ごした俺は、夜も深くなりそうなのでここらで切り上げることにした。


 だが、ベーンに別れの挨拶を済ませ代金を支払う時、不可解な物を見つけた。


「? ……なんだ、これ」


 財布を開けると、硬貨と一緒に目に入ってきたのは身に覚えのないペンダント。

 先端が四つの星のような形状で中央部分には光り輝く美しい宝石が埋め込まれていた。その周りを囲む星型の部分は貴金属で出来ていて、発する光沢は眩いくらい。そして何より注目すべきなのは、何を表しているのかわからない、それでいてどこか引き込まれる精緻の極みと言っても差し支えないような複雑に彫られた模様。中央の石と絶妙な一体感を生み出しており、俺は無意識に感嘆の息を漏らしていた。


「あの……どうかなさいましたか?」


 店員が財布を開いたまま固まっていた俺を不審に思ったようで、怪訝そうな顔で訊ねてくる。


「――い、いや何でもない。気にしないでくれ」


 店員の声で正気に戻った俺は少々慌て気味に支払いを済ませると、大金を運んでいる時の心境(運んだことはないけど)のような警戒心が働き、足早に店を後にすることとなった。



 とりあえず今の状況を整理するために、俺はこの近辺で一番高い建物の屋根に座り込んでいた。勝手に登っているがここは日本じゃないのでそれを咎める法律はない。少し場所を借りるだけ。

 気持ちのいい夜風が困惑した頭を落ち着かせる。

 徐ろに財布から問題のブツを取り出し眼前に垂らすと、それをじっと眺め呟く。


「…………俺こんなん知らないんだが……何コレ?」


 マジでわからない。

 こんなもの手に取ったこともなければ見たこともない。あと盗んでもいない。

 …………何で俺の財布の中なんかに入ってたんだろう。


「……それにしても綺麗なペンダントだなぁこれ。めちゃくちゃ高い奴だろ」


 美しい宝石と意匠を凝らした模様を持つペンダントは、見るだけでその価値を推し量れる珠玉の逸品であるが、それ故持ち主の見当も容易についてしまう。

 即ち貴族。

 または有力商会の商会長のような貴族以外の地位を持つ者の所有物だということも考えられるが、可能性としては前者の方が高い。

 さて、どうするか。


「警士にでも渡そうか……? ――だがそうなればこっちが疑われるかもしれない……いや、十中八九そうだろうな」


 警士とは所謂前の世界でいう警官のような存在だ。犯罪を取り締まり犯罪者を逮捕する、それが彼らの仕事だ。

 前の世界のように徹底して犯罪者を捕まえるために大々的に捜査することはあまりない。大体は現行犯とか重罪を犯した犯人を主に動いていて、窃盗や街中の喧嘩くらいの暴行事件にはほぼ関与しない。

 この辺の差異は恐らく文明レベルによる意識の違いなんだろう。


 普段あまり関わる機会はないが、関われば厄介なことになるのは何となくわかる。

 冤罪なんかもお構い無しのような乱暴な捜査をしている、という話も聞くし、ましてや今回の場合は被害者が貴族の可能性があるんだ。俺自身のことも相まって悪い方向に転がる未来しか見えない。

 となると俺がするべきことは……。


「個人的に探してこっそり返す、か。きっと今頃困っているだろうし。この国の貴族は比較的横暴じゃないといわれているようだが……念には念を入れないとな」


 希望的観測は良くない。

 全員が全員良い人だとは限らないのだから、こういう己の身を守る警戒心は常に持って然るべきだと思う。


 なんか厄介事に巻き込まれた感が否めないが俺が持っててもどうしようもないのだ。金は稼げはいいから売る必要もないし、そもそもネコババする気も皆無だし。


 闇夜を照らす街灯や店明かりが目立つ街並みを黙然と見下ろし、遠い喧騒を耳に入れながら考えを巡らす。

 だいたいどうしてこうなったのか。

 ……思い当たる節は――――あるっちゃある。

 多分昼間のアレだ。アレが今の自体を作り出した原因だろう。

 財布がスられた時が唯一俺の手から離れた時であり、何かを入れられるチャンスでもあった。

 そして、その“何か”がこのペンダントだとしたら……。


 それに本気で警戒していなかったとはいえ、奴は俺から財布をスることが出来るほどなのだからその腕前は相当なものだ。

 俺の前にいくつかやっていたとしても不思議ではない。

 その後、スリの成果をちょうど俺の財布の中にまとめて入れたとしたらこの状況にも辻褄が合う。


「……大体こんなところか。だが……そうなるとアイツらをぶっ飛ばした後放置したのは不味かったかもな。このペンダントの持ち主について尋問出来たのに……」


 こんなことならあの時財布の中身を確認しておけばよかった。後悔しても後の祭りなのは変わらないが。

 面倒臭いことこの上ないが仕方ない、持ち主を探してみよう。特に貴族を中心に。

 方針を固め「よしっ」という声と共に立ち上がる。

 まだまだ人々は騒がしく通りを往来し途絶えることはないが、明日は俺の転入初日だ、あまり遅くまでふらふらしていいもんじゃない。


 そんな訳で、明日どうしようか〜、と頭を悩ませ徐ろに通りを見やったその時。


「……おいおい、もうちょい自分の立場気にしようぜ」


 思わず呆れ声を出してしまった俺が見た光景は、貴族だと判断出来る上物の服を着た一人の少女が、護衛も付けずに人の賑わうとおりから外れる道に入って行った、というものだった。


「……なんでこんな時間に一人彷徨いているのかは知らんが、絶対良くないだろ。……外の世界が見たくて飛び出した箱入り娘ってとこかあ?」


 勘弁してくれ。これ以上の厄介事はもうゴメンだ。

 あまり人と関わりたくなかった俺は見なかったことにして、学園に帰ろうと早々にこの場から立ち去った――否、立ち去ろうとした。


 柄の悪そうな男五人がひそひそと相談らしきことをしていると思ったら、そのまま女の子が入って行った脇道へと姿を消したのを見てしまった。


「…………ああもう! どうしてこんなにも俺の目の前にトラブルが転がってんだよ!」


 自らの運の無さに半ば慨嘆して頭を抱える。

 出来れば見ないまま帰路に付きたかった光景だ。ここまで見てしまったらその先の未来も容易に想像がつくし、それをわかった上で見ない振りを続けるというのも寝覚めが悪い。


「はぁ〜、はた迷惑な貴族のお嬢さまだなぁ」


 大きな嘆息をして頭の後ろをかくと、詠唱破棄による身体強化魔法――ブーストを発動。

 夜の街を楽しんでいる皆さんを驚かせないよう、屋根伝いを隠密に移動して問題の脇道に入る。


 ……今日こんな道ばっか通ってんな。


 そんな感慨に浸りつつも奥に奥にと進んで行けば、件の少女を見つけた。

 ……関わりあいになりたくない方達とご一緒だったが。

 だがしかし。万が一にも、彼らが世間を知らないお嬢さまを優しく諭して家に帰してあげようとしている可能性も否定出来ないのだ!

 …………天文学的確率で低い可能性だが。

 そんなことを思っていると、彼らの会話が聞こえてきた。


「おーい、そこのお嬢ちゃん。夜遅くにこんなとこにいたら危ないぜ?」

「……だから何?」


 声のした方向に振り向くと、ぶすっとした不機嫌そうな顔をして傲然とした調子で答えるお嬢さま。

 そういう態度良くないって。勿論お嬢さまの方ね。


「いやー一人でこんなところにいたら危ないと思ってなぁ。ほら、危ない奴らがいるかもしんないだろ?」

「そうそう! だから危険なことになる前に俺達が安全なところに連れてってあげようってワケ」


 おや、これはもしかすると……?


「……別にそんなこと頼んでないわ。私用事あるから」

「まあまあそんなこと言わずにさあ……俺らと一緒に来いよ」


 まさかまさかの天文学的確率が……?


「おいおい、行っちゃうのかぁ?」

「つれないこと言うなよ。いいじゃんいいじゃん、こっちは親切心からやってんだよ?」

「そんなこと頼んでないって言ってるでしょ。私に関わらないで」


 男達を侮蔑を込めた目で一瞥した後、足早に去ろうとするお嬢さま。


「……チッ、もういい。おいお前ら、さっさとやっちまうぞ」

「ヒッヒッヒ。なあ、拉致った後好きにしていいんだろ? こりゃかなりの上玉だぜ?」

「当たり前じゃねえか、コイツまわして俺らに舐めた口きいたことを存分に後悔させてやるさ」


 まあ、当たる訳ないよな。

 うん、わかってた。


 男達を素っ気ない態度であしらい先に進もうと歩き出したお嬢さまの前に、男の仲間が立ち塞がり進行を邪魔していつの間にかお嬢さまを囲っている。

 相手によって態度は変えないと事態の悪化を招く――――今のように。

 あの娘の親御さんに是非言いたい。

 ……教育しっかりして……。


 全く、本当に面倒だ、やりたくない帰りたい寝たい。

 ……いくら嘆いてもここまで来たら行くしかないのだが。

「行きたくないなぁ〜」という見事に後ろ向きな気持ちを胸に、俺は彼らに努めて明るい調子で話しかけた。


「おーい変態共。女の子一人に何してんだ? 恥ずかしくないのか? ――今ので怒ったならさっさとかかってこい変態五人衆」


 明るいどころか、投げやりな口調になった。

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