幕間 闇に溶ける悪意
時は少し遡り、狭間京鵺がエストクル魔法学園に向かっている頃。
王都の裏側――治外区のとある小道。
そこらは普段貧しい者や後ろ暗い者、裏稼業を生業としている者達がいる筈なのだが、今日は少し趣が異なっていた。
閑散としている。誰一人として姿を確認することが出来ない――ある者達を除いては。
理由は京鵺が巻き込まれた先の騒ぎで間違いないであろう。こういう所に住む者は皆、警戒心の高い傾向があるため、関わりを持たぬよう立ち去るのが当たり前なのである。誰しも我が身がかわいいものなのだ。
そんな誰の目もない一種の無法地帯の場に、京鵺に襲い掛かり撃退された男達と、その傍に黒いローブ姿の人物がさながら幽霊のようにひっそりと佇んでいた。
ローブを目深に被っているため、その顔を窺い知ることは出来ない。ただ、ローブでは隠しきれない体格を見れば辛うじて男のそれであるというのはわかる。
彼は路上に倒れ伏している四人の男達を悠然と眺めると、内一人――スリ師の元へゆっくりと近づいて行った。
スリ師を見下ろす。ローブの男からはどこか苛立った雰囲気が感じられた。
「与えられた仕事も満足にこなせないとは、話にならないな。ゴミだと思っていたがどうやらゴミ以下だったようだ。使えないにもほどがある、これも、そこに転がっているのも……」
ちらりと後ろに倒れている三人に目をやる。彼らを見る目は明らかな侮蔑が込められており、言葉通り“ゴミ”を見ているようなものであった。しかしそれもすぐのことで、興味を失ったようにスリ師の方に目を移ししゃがみ込む。
そして何かを探すように懐をまさぐり始めた。
「………………」
暫くして全て探し終えたローブの男は「チッ」と舌打ちが響かせ立ち上がった。
「異常事態…………」
呟かれた一言は、終始冷静であった彼の僅かばかりの焦燥が見え隠れしていた。彼も予期していなかったことが起きたのだ。
やがて落ち着きを完全に取り戻すと、ローブの男は冷然とした眼差しをスリ師に向けており、さらに剣呑さも滲み出ていた。
ゆっくりとした動作でローブの中に手を入れると、その手に握られていたのは見るだけで切れ味が鋭いとわかる長剣。鈍い光を煌めかせ剣先を揺らめかす。
「使えない者には死、あるのみ」
一閃。
首元から噴水のような勢いで飛び散る血。斬られたことでビクビクと体を震わせるスリ師。
そのどちらもローブの男は無機質な目で眺めていた。さも当然のように。
続けて背後の三人の首も切り裂き血の噴水を生み出す。
「――報告しなければ」
音もせずその場を立ち去るローブの男。
そこに残されたのは三人の死体と血の海。
「…………黒髪」
小さな呟きは、男が消えた幽径の闇へと静かに溶け込んでいった。




