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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
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第2話 その者、平和主義者につき

連続投稿2発目!

楽しんでいってください。そんなに話進んでないけど……

 人好きのする店主に魔法学園までの道順を教えてもらった俺は、相変わらず人の多いこの大通りを歩きながら、あっちこっち寄り道をしながら目的地に向かっていた。


 正直、最初は早く行った方がいいかなとか思ったけど、よくよく考えてみれば今日俺が来るのだって知らないだろうし、いつ行っても急な訪問になるってことは変わらないと思うので、「どうせなら楽しんで行こう!」という訳で早速王都を満喫することに決めた次第だ。


 にしても流石王都だな。何処どこ彼処かしこも活気に溢れている。

 往来する人々には人族だけでなく獣人族もいる。こんな風に獣人が普通にいるってやっぱりファンタジーだなって思う。

 また、武具をつけている者も数多く見受けられることからも、冒険者もここに滞在していたり本拠地として活動している者が多いんだろう。栄えてるから住みやすいしな。

 ギルドも他所とは比べ物にならないくらいの規模の筈。何故ならここがエストクル王国の冒険者ギルド本部があるからだ。是非とも後で行ってみなくては。


 しかしまあこんなにも人が密集していれば当然人とぶつかることもある訳で。

 俺が露店に広げられている種類の豊富な武器の数々を冷やかしに見ていた時だ。なるべく脇に避けていたつもりだったが軽く人にぶつかってしまった。


「あっ悪いな」

「…………」


 その灰色のローブで頭まで深く被った人物は、俺の謝罪に目もくれずにそのまま人混みの中に消えて行ってしまう。


「……そんな怒るか?」


 通行の邪魔をしてしまったことがそんなに不愉快だったのだろうか。そんな風に思いながらその人が消えて行った方を見つめる。無視され若干凹んでいた俺だったが、そんなこともあるさ、と気を持ち直す。

 だが――。


「――!」


 ……なるほど、そういうことか。


 状況を把握した俺は、とりあえず武器屋を後にしようとする。


「おい! 買っていかねぇのかよ、ガキ!」

「すまん、俺、今金持ってねぇんだわ」


 振り返って笑いながら手を挙げ、逃げるように店から離れる。


「冷やかしなら他所でやりやがれ!」


 ごもっとも。

 しかしお店側からすれば迷惑だろうが、客としては必要だと思うよ? 買う気が無くても品揃えとか価格が適正かどうかとか、色々とわかるからな。もちろん見ていて楽しいのもある。


「さて、そんじゃまっ、行くとしますか」


 腰に手を当てる。

 そこはさっきまで金が入っていた袋が付けられていた箇所だ。だが今はその袋は無い。

 つまりはそういうこと。


 スられた。


 どうやらあのぶつかった瞬間にやられたようだ。無視したのも当然だな、無駄に関われば財布をスったことがバレる恐れがあるからだ。

 かくいう俺も全く警戒していなかった訳じゃあない。人が多く、紛れるのに適しているからこそスられないようにしていのだが……。

 どうやらあちらさんの方が一枚上手だったようだ。

 これも流石王都と感嘆すべきか。王都となれば犯罪技術もアップするのかね。


 見事にやられてしまった俺だが別に焦る必要はない。

 スリ師が消えていった先は確認した。身体強化を発現させ視力を高めると、遠くに件の人物が見える。あっ脇道に逸れた。


 俺は見失わないようにすぐそばの脇道に入り人の目が無くなるところまで進むと、強化した肉体で左右にそびえ立つ石造りの建物の壁面を蹴り、赤瓦の屋根の上に上った。スリ師が消えていった脇道まで気づかれないように近づき、その姿を探す。


 ……どこに行った? ここら辺にいるのは間違いないんだが……。


 注意深く探していると、あのローブ姿の人物が少し離れたところにある狭い路地に入って行ったのを確認出来た。


「おっ、いたいた。……ああいう輩は狭いとこ好きだなー」


 師匠との二年間でこういう感じにトラブって犯人を追跡したことが何度もあったが、なんかよく知らんがそいつらも狭いとこ入っていた。

 ――あれか、念には念をということで一旦姿をくらまそうって魂胆か。

 犯罪者の習性になんとなく面白味を感じながら、追跡を続行する。

 屋根伝いに上から追随し、そのまま追い越したところで立ち止まる。

 ……もういいだろう。そろそろ俺の財布を返してもらわなければ。

 建物同士の間隙で作り出された小径の出口に音も無く降り立つ。


「――!?」


 スリ師は突如現れた俺にギョッとしたようですぐに立ち止まった。目には警戒の色が浮かんでいる。だがまもなく、俺が何者なのか気づいたようだ。

 まさかの被害者の登場に焦りを見せ始めているスリ師に、俺は気軽な調子で話しかける。


「なああんた、さっき俺の財布スったでしょ。悪いことは言わないから、早いところそれ返してくれないか?」

「――ちっ」


 俺の言葉に対する反応は…………逃走。

 少し悩んだ素振りを見せた後、舌打ちを響かせその身を翻すとスリ師は踵を返し出てきた道に戻っていった。そして途中にある分かれ道を突き進み、入り組んだ小径へと身を踊らせた。


 ……どうやら引き際を知らない愚か者のようだ。

 穏便に済ませようと思っていたが……財布渡してくれないんじゃ多少強引にでも取り戻すしかなくなるよな?

 俺は自然と口端が引き上がるのを感じながら、後を追うため陽光が遮られた薄暗い路地に足を踏み入れる。

 強化された聴覚で逃走の足音を聞き取り、スリ師がどちらに逃げたのかを見極める。

 俺は足音を頼りにどんどん距離を縮めていたが、途中でここがかなり奥、所謂街の裏側の部分であると気づいた。


「こんな入り組んだところじゃ思ったようにスピードを出せないな。そのお蔭で奴は助かってる訳だが…………これは誘い込まれたか?」


 愚か者であるが馬鹿ではないらしい。俺が追ってきた時点で普通に撒くのは難しいと判断したか。


「だとしても大した問題じゃないな。向こうのフィールドだからといって後れを取るほどヤワじゃない」


 向こうがどんなことをしてきても、俺にとってみれば些末な問題に過ぎない。そう思いつつ距離を詰め続けていけば、やがて迷路のような路地から幅五メートルほどの少し開けた道に出た。


「……ここは……」


 普段ならここに住む奴らが使っているだろう道には、警戒しているのか誰一人姿が見えない。閑散とした寂れた印象を持たせる。

 再びスリ師を探してみれば……いた。

 少し先に見えたスリ師はこちらの姿を認めるとまた路地へと入っていく。だが追いかけっこはもう終わりだ。いい加減にしてもらおう。

 道幅が広くなったことで動きが取りやすくなり、身体強化の俊足をもってしてその路地に入ろうとする。


「――!」


 突如現れる殺意を纏わせた剣。

 明らかにこちらを狙ったものだとわかる不意打ちを、俺は瞬時に飛び退くことで回避する。

 俺がじっと様子を窺っていると、そこから三人の、いかにもな顔つきをした男達がニヤつきながら現れた。


「おいおいおいおい、どーゆうことだァこりゃ。てめぇ何してんだ、ふざけてんのか」

「わ、悪ぃ。狙いやすそうと思って……つい……」


 三人の内の一人がスリ師に向かって威圧的な声を投げかける。

 どうやらスリ師の仲間のようだが、今の感じから推測するにスリ師は彼らより下であるようだ。


「余計なことすんじゃねえ! そんなんだからこうして面倒な奴がついてくんだろうが」


 男は怒鳴り声を上げると俺を忌々しそうに睨みつけてきた。

 対する俺は平然とその視線を受け流す。

 んー、話し合いが通じなさそうな気がものっすごくするが、一応挑戦してみようか。


「あーお取り込み中すいませんね。俺そいつに財布スられたんだけど、もし良かったら返して貰えると嬉しいなぁー……なんて」


 なるべく好意的に、そして笑顔で。

 第一印象は話し合いをスムーズに進め――


「こっちもそうしたいのはやまやまなんだが、悪いがそうもいかなくてなぁ。部外者に見られんのはちと不味いんだわ……ってことで消えてくれや」


 ――るとは限らなかった。おかしいな?

 男が背負っていた剣に手をかける。

 それを合図に他の者達も各々の武器に手をかける。

 見事な交渉決裂。完全な臨戦態勢。


「……はあ〜だめかあ〜」


 いやまあわかってたけども。

 結局話し合いが通じない方達を前に、肩を落とし溜息を一つ。

 そんな俺の態度が舐めているとでも思ったのか、こちらを睨む視線が強くなった。


「恨むならそこの愚図を恨むんだなあ!」


 愚図とはこいつらの後ろに控えているスリ師の事か。仲間意識は低いのか、そもそも仲間として見てないのか。


 一斉に掛かってきた男達を前に俺は焦る事もなく、ただただそいつらの動きを眺めていた。

 向かって右側の男が手にした剣で切りかかってくる。それを俺は左足を引いて半身となることで余裕で回避。すぐさまやってきた切り返しをしゃがみ込むことで対処した後、俺はそいつの足を払い、そのまま一回転し遠心力が込められた強烈な蹴りを土手っ腹に叩き込み吹き飛ばした。


「「なに!?」」


 残った二人が驚愕の声を上げるが、そんな隙を見せちゃ駄目だと俺は思うな。


 俺は背後の外壁に向かって飛び上がり、それ蹴ることで逆の外壁に移動。

 三次元的な動きで翻弄された男二人は、今ちょうど俺の軌道を目で追い、振り向いたところだ。だが残念ながら少し遅い。俺は既に彼らの頭上から飛び掛っている。


 狙いは位置的に俺の近くにいた先ほど俺と話していた大柄な男。俺と目が合ったそいつの瞳には、動揺の色がありありと浮かんでいた。

 そんな動揺も俺にとってみれば付け入る隙に繋がる。一発で仕留めようと大きく振りかぶった腕で男の顔面目掛けて殴打する。


「ぐっ……おおおおお!!」


 ――が、咄嗟に反応したのか剣を俺との間に入れ、盾として攻撃を受け止める。しかしその衝撃で男の足元が沈みこむ。

 剣の腹で競り合っている拳と剣。直に鉄に拳を打ち付けた形となってしまったが、身体強化の恩恵によって俺が痛みを感じる事はなかった。


 雄叫びを上げ必死に持ちこたえている男へ追撃を加えようかと一瞬考えるものの……どうやらそんな暇はないようだ。


「この野郎っ!」


 俺の頭上からの急襲に度肝を抜かれていたもう一人の男が我に返ると、寸秒膠着状態であった俺に短剣で切り掛る。

 素早い動きから振るわれる短剣。それを少しばかりの後退で避ける。だがそれだけで敵方の攻撃が止まる筈もなく、次々と刃渡りの短さから織り成す流れるような連撃が始まった。


「クソッ! なんでッ! フッ! 当たんねぇんだよっ!」


 残念ながら俺には当たらないが。

 攻撃がなかなか当たらない事に喚き散らしている男に答えを教えてやる。


「簡単なことだ。……それはな、圧倒的に実力が違うからだ。だから――」


 ガンッと、金属同士が激突する衝突音が鳴り響く。


「テメェの武器も簡単に盗られる」

「な、なんだと……」


 愕然とした声を上げるのは先ほどの競り合った(・ ・ ・ ・ ・)大男(・ ・)

 短剣を持った男に気を取られている間を隙と見倣した大男は、気配を忍ばせ奇襲攻撃を決行した。ところが不審な動きに気づいていた俺は、相手の甘い連撃の最中さなか、短剣を奪い取り背中越しに剣と剣を交わらせた。

 ――レベルが低い。


「そっちにも色々と都合があんだろうが、それは俺にも言えるんでな。――伏してろ」


 そう告げと俺は短剣を思い切り振る。その勢いで剣を持った大男の腕は後ろへ持っていかれ正面ががら空きとなる。

 大男はまだ呆然とした様子だったが、俺は容赦なく腹に一発、意識を刈り取る。

 あともう一人。


「ひっ!」


 何とも無様な声。

 仲間の二人を軽々とのして見せた相手が振り返ったことで次は自分だとわかったようだ。


「相手が悪かったな。……恨むならあのスリ師を恨めよ」


 こいつらが先ほど俺に言った言葉を、俺は微笑を浮かべながら返してあげる。

 それに一層足が竦んだようで、既に逃げられる状態じゃなくなり震え上がる男に短剣の柄を振るう。打ち込まれた攻撃は相手を気絶させるには十分で、男はどさりと地に倒れ込んだ。


 あまりにも呆気ない結末だ。

 最初はあんなにも不遜な態度だったのに、今では三人とも伸びている。

 だがこれで邪魔する者はいなくなった。


「――さて、と。……そこで腰を抜かしているスリ師さん。財布、返そうか」


 笑顔で、そう言った。

次話からは週一ペースに戻します。

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