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ゼロの魔法  作者: 緑木エト
第二章 黒の来訪編
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第1話 始まりは突然に

明けましておめでとうございます。

これからも「ゼロの魔法」をよろしくお願いします!

「お〜。やっぱ人多いなぁここは」


 道幅が広く両端に沢山の露店がひしめいている大通りの様相を見て、思わず感嘆する。

 広い筈の通りは行き交う無数の人々によっていくらか狭い印象を受ける。露店で売られている美味しそうな食べ物の匂いが俺の鼻腔をくすぐり、客の呼び込みや買い物客の声などが街を包む喧騒となっている。何とも賑やかで心が浮き足立つ光景だ。


 ここはエストクル王国、王都。

 この国の王様を始めとした王族達が住まう王城がある都市だ。

 王城は街の真ん中辺りの標高の高い所に位置しているため、国のトップ達がいるのに相応しい大きく荘厳な造りをここからでも簡単に眺めることが出来る。


 エストクル王国は比較的穏やかな気候でとても過ごしやすい所として知られている。また、過ごしやすいというのは気候だけでなく、この地で生活する上でという意味もある。

 この国は王政を敷いているが前の世界のような絶対王政ではなく、民が虐げられる事態になっていない。

 俺が初めてこの国の現状を見た時、それは驚いたものだ。

 歴史の授業で習ったのは大抵権力を振りかざし、独裁的な政治を行っていた感じだったからだ。いや、ちゃんとした国もあったのかもしれないが残念ながらそこまで俺は知らない。


 街を行き交う人々の顔は笑顔が多く、ここでの生活に満足しているような印象を受ける。

 そんな自然と笑みがこぼれるようなこの国の一面を見ていると、俺ははたとここに来た目的を思い出した。


「やっば忘れてた。観光は後にして早いとこ行った方がいいか。……にしても、なーんでこんな事になったんかなぁ」


 俺が王都にいるのは望んでの事ではない。別に来たくなかった訳じゃないが。


 目的地へ向けて歩きながら、俺は何故こんな事になったのかを思い出していた。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆





 時は一ヶ月ほど前に遡る。

 俺が虚の森(ホロウ・フォレスト)の小屋を出て行き、師匠と旅を続けて二年くらい経ったある日の事だ。

 旅の間、俺は師匠に魔法を教えてもらったり、実際に闘ってボコボコにされたり、金を稼ぐため冒険者ギルドに依頼されている魔物の討伐(師匠チョイス)をさせられたりしていた。

 あっそうそう、俺は冒険者ギルドと呼ばれる魔物の対処や薬草の採取など様々な依頼を受けている組織に冒険者として登録している。きちんとした職を持っていないならず者達が簡単に稼げる所だ。詳しい説明は今は関係ないので割愛。


 とまあかなり濃い日々を送りながら、いつも通り疲れて泊まっていた宿で休んでいた時だ。

 同室である俺と師匠は夕食を食べた後、部屋で各々寛いでいた。


 因みに同室であることに関して、師匠は俺と一緒でも問題ないらしく、安く済んでいいと言っていた。確かに一理あるが恋仲でもない男女が同室というのは如何なものか。当初俺は反対していたが奮闘虚しく、覆る事ことは無かった。まあしかしだ。一般的に危惧される問題は絶対に起きないと言えよう。……何故ならそんなことをすれば俺が死ぬから。


 すっかりリラックスしてベッドに腰掛けていた俺に、唐突に師匠が声を掛けてきた。


「キョウヤ、これから学園行って」

「は?」


 ちょっと待って。よく聞こえなかった。


「……もう一度」

「学園」


 おかしいな、余計短くなったぞ。


「あの……師匠? いきなり何言ってんですか?」

「いや、だから学園よ。そこ行って来いって話」

「すいません、 脈絡無さすぎて何を言ってるのか理解出来ないんですけど」

「そこは対応しなさいよ」


 無理です。

 全く……これだよ。話に脈絡が無いのはいつものことだし、結構重要なこともいきなり言ってくる。今回のヤツはその二つのコンボ。俺がかなり苦労する感じのパターンだ。


「はあ〜…………で、俺は学園に行って何をすれば? 大切な書類の宅配とか見学とかですか?」


 もう今更何を言っても覆らない類の話だと思うので、素直に観念して話を進める。その方が建設的だ。

 半ば投げやりな感じでその目的を訊く。


「あー違う違う、そういうんじゃなくて。転入するのよ、そこに」

「………………え?」


 転入……? 俺が?

 完全に予想の範囲外だったため呆けた声が出てしまった。けれどそこはあの自由奔放さが桁違いの師匠に二年半付き合ってきた俺だ。すぐに調子を取り戻し、疑いに入る。


「どういう風の吹き回しですか師匠。学園のような穏やかで安全な場所に俺を入れるなんて。絶対何か裏があるでしょう?」

「あるわよ」

「…………」


 ほらな、やっぱり。こんなもんだよ人生。

 うまい話には裏がある、ということわざがあるが、俺は『師匠の甘言には裏がある』という語を同じ意の新たな諺として提唱したい。


 ソッコーで認めやがった師匠になんとも言えない微妙な表情になる。いっそ清々しいまでの即答に頭を抱えたくなるがそこは我慢。同じようなことは過去何度もあったのだ。これくらいでへこたれるんじゃこの人の弟子はやっていけない。

 “学園に行く”が“学園に転入する”と結び付けられなかったのも、旅の間そんな平穏に生きていなかったからだ。哀しいね。

 兎にも角にも、その“裏”とやらを教えてもらわなければ下手すりゃ俺の命が危ない。

 そんな訳で今回の仕事の内容の仔細を教えてもらう。


「キョウヤが転入するのはエストクル魔法学園よ。そこの学園長は私の古い友人でね。先日連絡が来て頼まれたのよ、校内に潜む鼠を炙り出してほしいってね」

「鼠?」

「そう。何者かはわからないけど確かに曲者は存在するみたいよ。目的は不明。いつから潜り込んでいたのかもわかってないわ。今のところ学園には何の被害も確認出来ないみたいだけど、そのお陰で尻尾を掴むことすら出来ていないっていう状況のようね」


 へぇ……魔法学園にね……。

 聞いている限りでは特に何もしていないようだし、急を要する問題では無さそうだ。それが安全を保証するものかは別として。

 学園長は極秘に調べているようだが、相手が行動を全く起こさないため手をこまねいているみたいだ。そこで友人である師匠に対処を頼み込んできたと。

 なるほど厄介な相手だというのは理解出来た。ただ引っ掛かることがある。


「――何で俺なんですか? 相手が大物かどうかはともかく、そんな結構重要そうな事俺でいいんですか?」

「いいのよ、あなたは私の弟子なんだから。それにそのくらい出来るよう育てたつもりだし、私の仕事にも散々付き合わせたでしょ」


 おお、意外と俺の評価高い?

 思っても見なかった師匠の言葉に驚きと嬉しさを覚える。


「んじゃまあ、その期待に添えるよう頑張りますよ。それで確認ですけど、俺は学園に転入して生徒としての観点から鼠を見つけ出すって事でいいんですか?」

「ええそうよ。場合によっては見つけるだけでなく、その場で対処しても構わないわ」


 対処……ね。


「……それはどちらで(・ ・ ・ ・)、という意味で?」

「……心配しなくても大丈夫よ。こちらとしても目的や背後関係を知りたいから、情報優先の方でやっときなさい。但し、ヤバかったら……その時はあなたの判断に任せるわ」


 ……そういう事なら俺が憂慮する事態になるのはそうそうないか。俺は潜んでいる賊の発見、または確保をすればいい。それが俺の今回の仕事内容だ。


「それでもし無事に全て終わったら……そうねぇ……そのままそこにいてもいいんじゃない?」

「へっ?」


 真剣な空気に変わりつつあった中、突然の休暇宣言に間の抜けた声が出てシリアスはどこかに霧散した。


「だってキョウヤ今までずっと私と旅してきたから同年代の友達いないでしょ? このままじゃボッチよ?」

「うるさいです、黙っといてください」


 ていうかあんな旅じゃすぐどっか行くから友達作っても意味ねぇんだよ。俺は友達がいないんじゃない。時間的に作れなかっただけだ。

 ……でもまあ、悪くは無いな。日本にいた時は学生生活は中三の途中で終わったっきりだったし、高校生活を送ってみたかった。

 願っても無い素晴らしい提案に、すぐさま飛びつきそうになるがすんでのところで踏みとどまる。忘れたか……俺が提唱する新しい諺を……!


「師匠。……裏、ありますよね」

「はあ? 無いわよ。何言ってんのよ、あなた勘繰り過ぎ。――はあ〜、全く、私の好意を蔑ろにするとはなんて馬鹿な弟子なんでしょう」


 やれやれというような態度で盛大に嘆息する師匠。

 はっらたつー。こめかみに青筋が浮き出ているのが自分でもわかる。

 そもそもこんなうたぐり深くなったのも全部アンタのせいだろがコンチクショウ。


「……じゃあ俺は仕事が終わったらゆったり優雅に学園生活を満喫してもいいんですね」

「いいわよ」



 よし、多分の嫌味を込めたが言質は取った。これで俺は暫く師匠から解放される。師匠の教えを受けられないのは残念ではあるが、それ以上に精神的負担が取り除かれることの方が今の俺にとっては重要だ。マジで休息が欲しかったから。

 それに俺の力がどこまで通用するのか試すいい機会だ。


「――あれ? でもちょっと待ってください。転入って、そんな簡単に入れるもんなんですか?」

「そこはあれよ。学園長直々の依頼だし、多少の無茶は通るわ。それにそのことに関する責任は全てあっちに持たせるつもりだから。良かったわねー面倒な試験とか受けなくて」

「そ、そうですね。良かったです」


 師匠の場合、“多少”がどれくらいのものなのか、想像に難くない。きっと今頃学園長は大変だろう、“多少”の無茶によって。

 しかしそれは俺にとってみれば都合がいい。いちいち試験とか受けるのは正直だるいし、師匠の言う通りめんどくさい。


「ところで師匠は俺が行った後も旅を続けるんですよね」

「そのつもりよ、まだ全員じゃないから」

「わかりました」


 その後も色々と今回の仕事に関することを訊いていった。

 そんな感じでその日は終わりを告げ、翌日に俺と師匠は別々に出発することに決まった。



 そして翌日、出発時。

 俺は一通りの必要な物を詰め込んだバックパックを背負い、宿泊していた宿の前で、この世界に来てからずっと一緒にいた師匠との別れを済ませる。


「それじゃあ師匠、行ってきますね」

「ええ、上手くやりなさいよ。それと――」

「?」

「何度も言ってるけど、あの魔法(・ ・ ・ ・)は決して人前では使わないこと。これは命令でもあるし約束でもあるのよ。だけどもしも使わざるを得ない時があったら……絶対にバレないようにしなさい――――いいわね?」

「――はい、わかってます」

「……そ、わかってるならいいわ――――じゃあね」





 ◆◆◆◆◆◆◆◆





 事の経緯を思い出してみてもやっぱ突然だなぁ〜って思う。

 あれってどう考えても一晩で決める内容の話じゃなかったよな。いやまあちょっと浮かれてた俺も悪いけど。


 回想によって気も漫ろであった俺は、歩きながら自分が重要なことを見落としているのに気づき、足を止める。


「…………どうしよう。学園ってどっちだっけ?」


 衝撃の事実。俺は……学園の場所を知らなかった。

 王都に来たことなかったから知らなくて当然なのだが、知らないという事実に気づかなかった。どうやら初めての王都に自分で思っていた以上に浮かれていたようだ。


「んー、人に訊こう。それなりにデカイ所らしいし皆知ってんだろ」


 という訳で、近くの美味しそうな串焼きを売っている店主に、買い物ついでに学園への道を訊ねることにした。

 店に近寄ると、空腹を余計感じさせる匂いが肉を焼く熱気とともに俺の目の前に広がった。


「おっさん、これ二つちょうだい」

「まいどありー。ちょっと待ってろよ」


 注文を言いその分の金額を払う。

 がっしりした体つきの店主は、俺の注文にその厳つい顔をにっとした笑みに変え、焼き加減がいい感じになっている串焼きを選び出した。

 そんな人の良さそうな店主に声を掛ける。


「あのさ、ちょっと訊きたい事があるんだけど、いいか?」

「あ? なんだ? 答えられるもんなら何だっていいぜ」

「ありがとう。魔法学園への道がわからなくて困っててな。だから道を知っていると助かる」

「魔法学園? あそこは結構有名なんだが……道を知らないってことはお前旅人かなんかか?」

「ああ、そうなんだ。今日初めて王都に来たんでな、ここの地理はさっぱりなんだ」

「なんだ観光か? 学園だったらこの通りを真っ直ぐ言った先にある中央広場に出てから、東の大通りに出れば見えてくると思うぞ。でっかい建物だからそこまで行きゃすぐわかるだろうよ」


 快く答えてくれた店主に礼を言い、串焼き二つを貰ってその場を立ち去る。

 さて、道もわかったことだし学園に行くとするか。


 うん、この串焼きうめえ。

連続投稿2回目の更新は二日の昼間くらいにします。

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