表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

擬似温度 × ***

擬似温度 × 缶コーヒー

作者: 奈々月 郁

寒い夜。


飲みたかったからとか、そんな理由ではなくて、ただカイロ代わりになるものが欲しくて缶コーヒーを一本買った。


痺れるような熱さ。

かじかむ両手でしっかりと包み込んで、残りまだ長い家路を急いだ。


目深に被ったニット帽からはみ出した耳が、寒風にさらされて痛い。

空っ風ばかりが抜けるこの町では、年の末を待たずとも師走の強い冬風が吹く。


あと家まで10分もしない辺りで、ようやく手が温まってきた。

逆に、120円で自販機から外へ放り出された缶コーヒーは、随分と冷めてきていた。

冷え切ってしまう前に、とプルタブを起こす。


一口飲んだら、思ったよりも冷めていて不味かった。

そのまま一気に飲み干す。


空っぽの缶を持て余しつつ、また急ぎ歩く。

手が温まったことの安心感と、カイロ代わりを飲み切ってしまった僅かな喪失感が、頭の片隅から何かを引っ張り出してきた。




『手を繋ぐ』




あぁ、寒いというのに手袋もしないで、互いに温め合っていた頃もあったっけ?

今では、手袋をしないで外に出るなんて考えられない。

隣に僕の手の冷たさを気にかけてくれる人もいない。


ほんの1・2分で、缶は氷みたく冷たくなってしまった。

持っているのはつらいが、案外人目もあるので投げ捨ててしまうわけにもいかない。

モラルに外れたことをする時に、人目をはばからずにいられるほど若くはないので、こそこそするのがいいところだ。


じゃあモラルに適った人道的な行動を起こす場合は?

同じだ。善いことも悪いことも、こっそりやるような歳になったのだと思う。自嘲するように、そう思う。


缶はひどく冷たくて、温めてくれたはずのそれは、今度は僕の温度を奪っていく。

親指と人差し指で落ちない程度に摘んで、家まで持ち帰った。


靴を脱いですぐ、不燃ごみの袋に缶を投げ捨てた。


淡い思い出も、どっかに捨てた気がした。


あの子は今も、この缶みたいに簡単に捨てられたと思っているだろう。

あの子以外を…尽きないあの子の心配を切り捨てて、面倒だと、うざったいと遠ざけた僕。

今はこんな擬似温度でしか、ぬくもりを感じられない。



~Fin~

ねむねむ……奈々月 郁です。

ファンタジー大好きなので、あまり数は多くないですが、恋愛もので、短編です。

幽霊とか魔法とか異世界とかが出てこない、ごくごく普通の方のお話です。

シリーズで載せたいな~! と目論んでますので、他ももし掲載致しましたら、読んでみてもらえると嬉しいです。


それでは……おやすみなさいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ