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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺の新妻がこんなにかっこいいわけがない!

作者: 九十九

イロモノです。


 結婚1周年を迎えた日、俺は傍から見ても浮足立っていた。駅から自宅までたった10分の道程がひどく長く感じられ、背中を丸めてノロノロと歩くサラリーマンやOLを早足で抜き去っていく。腕に抱えた真っ赤な薔薇の花束とその中にこっそり隠した指輪に、思わず口がにやける。

 きっと妻のことだ、顔を真っ赤にして大喜びしてくれるだろうな……。

 花束を抱え直し、また1人疲れた風情のサラリーマンを追い抜いた。





「ただいまー!」

「おかえりなさ〜い」


 自宅につき玄関の扉を開けると、ふわりとシチューの香りが鼻孔をくすぐる。ふっと肩の力が抜け体がリラックスしていくのを感じた。今まで気がつかなかったが、胃がぎゅっと縮み空腹を訴えてきた。思わず腹を2、3度さすり、靴を脱ぐために玄関で屈みこみ、右足のかかとに手をかけた。

 あれ?……妻の声はこんなに低かっただろうか……。

 かすかな不信感を抱いた時、リビングからパタパタと軽快な足音が聞こえ妻がこちらに来たことがわかった。顔を上げず、いつものように鞄を渡す。その時ついでというように花束も渡した。ここまで来て、急激に気恥ずかしくなり俯いたまま靴が脱げないふりをして時間を稼ぎ、妻の反応を待つ。

 妻は今どんな顔をしているのだろうか……。

 また堪えきれず口が笑みの形を作る。


「シンジさ〜ん、ちょっといいかな」

「な、なに?」


 てっきり喜びの声をあげると思っていた妻から、予想と違う言葉がでて激しく動揺する。手汗がものすごいことになっていた。どうしよう喜んでもらえなかったのだろうか、という不安が込み上げ胸がちくりと痛んだ。


「わたしね、……になっちゃった」

「はい?」

「だ〜か〜ら〜」


 その瞬間顔をあげた俺は、




「わたし、男になっちゃったの」




3軒隣に余裕で聞こえる絶叫をあげた。





「ということで、お昼寝から起きたら男になってたの」

「どういうことだよ!?」


 リビングに移動した俺たちはテーブルをはさみ、向かい合ってソファに座っていた。

 自称・妻のそいつは、190センチはありそうな高身長に、引き締まった肉体、色素の薄いふんわりとした髪に大層美しい顔をのせた大男だった。俺が疑い深い目で見ると、きょとんとした顔で小首をかしげた。……ちっとも似合っていないのだが、なんとなく倒錯的なものを感じさせ男に興味のない俺でもどきりとさせられる。それと同時にずきずきと痛みをうったえる頭を押さえながら、妻から実にのんびりと語られた内容をまとめてみた。

 要約すると、朝に俺を見送ったあと、掃除と洗濯、昼食をすませ、買い物から帰宅し昼寝をしていた。そして起きたらなんと男になっていたというのだ。しかも慌てることなく、俺の部屋からスウェットと下着をちゃっかり借りて着用し、あまつさえ夕飯の準備をしていたというのだから驚きだ。常々、妻の天然ぶりは感じていたが今回はさすがに病気レベルのような気がしてきた。ますます頭痛がひどくなってきた。

 ちなみに昼寝から目覚めた時には服が千切れて全裸だったらしく、アソコも大きかったのよ、なんて眩しい笑顔の大男もとい妻に報告された俺の心境がわかるだろうか。わかってたまるか。


「あ、シンジさん」

「なに」

「お花ありがとう、テーブルに飾るね?」

「……おう」


 真っ赤な薔薇を両腕で抱きしめ、真っ赤な顔で微笑むのはバックに花が飛びそうな大男だった。

 ちくしょう俺の未来ビジョン通りじゃないか、人物以外……本当にどうしてこうなった。

 パタパタと落ち着きなくキッチンへ消えていく妻に、どこどなく面影を感じてしまい強く出れない俺であった。

 ん?いや待てよ、あれは妻じゃなくて妻の隠し子なんじゃ……。

 ある意味祈るような気持ちになってきた。妻が男になったよりは、よほど信憑性がある気がしてきた。結婚1周年目で隠し子発覚なんて冗談じゃないが、今のファンタジーな状況に比べればまともに感じてしまうのはなぜだろう。どちらにしても状況は最悪で、何だか泣きたくなってきた。


「シンジさん! シンジさん!!」


 俺が完全なマイナス思考に沈んでいると、キッチンから大男が突進してきた。

 え、なにこれ冗談抜きで怖い。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃ……


「ギャアアアッ!?」

 

 抱きつくというか、のしかかる勢いで突撃され骨がミシリと悲鳴をあげた。

 痛い!痛い!なんだこれは妻の隠し子と疑った罰なのか。本当に痛い。やめてくださいしんでしまいます。


「あ、ごめんねシンジさん! これ、指輪ッ!」


 どうやら最後だけ口に出ていたようで、妻は慌てて俺の上からどく。妻の指にはプラチナのシンプルなリングが抓まれていた。花を生ける時に仕込んでおいた指輪に気付いたらしい。天然の妻だったら排水溝に流すんじゃないかと密かにひやひやしたものだが、杞憂だったようだ。

 うわあ……指輪を目の前で見せられたら、また緊張してきた。


「あー、……それ、な」

「ありがとう大事にするね!」

「お、おう」

 

 それでもお礼を言われて照れ隠しに思わず顔をそむけると、くすくすと笑い声が聞こえた。


「あ、でも今のサイズじゃ入らないなあ」


 小指も無理だね、なんてのん気な声が聞こえた。

 現実からも顔をそむけたかった。



シンジさん

 旦那。176センチの標準体型。結婚1周年の日、自宅に帰った彼に悲(喜?)劇がおそいかかる。


 天然。149センチの小っちゃくてふわふわの新妻。得意料理はシチュー。


妻?

 大男。190センチ(推定)の超イイ男。素晴らしい筋肉から繰り出される絞め技は旦那の骨を砕く。



某氏のお気に入り100件祝いでした。お粗末様。

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― 新着の感想 ―
[一言] 発想が凄すぎです。 面白いし。 これってありです。 続きが楽しみです。
[良い点] 誰がそのシャツを縫うんだい?(ジ〇リ風) 筋肉はジャスティス!! 元女な現男の嫁なら無駄毛もなさそうで完璧じゃないか。 [気になる点] 嫁さん、圧しが足りないよ!誤字にあらず。 喜びのあま…
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