第2話 恵子さんの恋***
箱の中から、冊子を取り出した。
薄汚れた、ゴワゴワした冊子だった。
マウスのキャラが笑っている。ピンクの花がかすれて、傷ついている。
優華お姉様が、その冊子をユリに渡してくれた。
一度、雨に打たれたのかしら。それとも水溜りに落としたなの?
紙が波打っている。濡れた冊子を乾かしたから、ゴワゴワしている。
扉を開けると、日記になっている。
見上げると優華お姉様がうなずいてくれた。
「これは、恵子さんの日記でしょ」
恵子さんに目線を向けなおすと、優華お姉様が言葉を続けた。
口に手を当てて、困ったという表情になった。
「捨てちゃ、だめよ。私の仲良しさんたちが止めておいてくれた。この日記。彼に怒られたと書いてあった。その翌日から、日記のペイジが真っ白になる。恵子さんが書いているわ『買ってきたものを懋さんが持っていった。二度と買わない、神様に誓います』と。恵子さん、書いていたでしょ」
ユリは、だんだん花の香りが強くなってくるのがつらくなってきた。
ハイビスカスのお茶にマッチしているけど、頭がクラクラする。
お姉様が、一枚の写真を取り出すと、恵子さんの前に押し出した。
恵子さんと、もうひとり、金髪の女の子が写っている。
二人で笑いながら、Vのサインを投げている。
後ろには、外国人がいっぱい。夜の街がある。
「この写真に写っている女の子と前に出かけているわね。日記にも書いているわ。そこで『友だちに教えてもらった秘密のお店に入り、彼とわたしの愛のためにプレゼントを買った』と。彼女があなたとの思い出に出してくれた写真の日付から、このお友達だと分かった。同じクラスの子ね。話を聞いてみてもいいかしら……」
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「あやまらなくてもいいのよ」
「おともだちはお店を知っていただけなんです。わたしも雑誌で見て、お話したら。レンちゃんが知ってるって。でも、それが、いけない薬……だ…」
「クスリ?」
ユリは思わず、声に出してしまった。
恵子さんが、おもわず天井を向いて、頭を抱えた。
そして、大声を出した。
「ああ、あ~、あ~、あ~、あー、ああ……」
恵子さん、嘆いている。
叫ぶように、声を絞り出している。
どうしよう。どうしたらいいのか、わかんないよ。
ユリは、ただ、天井に向かって叫ぶ恵子さんを見ていた。
優華お姉様がフワリと立ち上がるのを感じた。
「恵子さん。いっぱい叫んでも、大丈夫。つらかった数だけ、いま、心が粉々にくだけていくの。でも、いまだけ、だから……」
そして、呼吸ができないほどに声を絞り出している恵子さんを、
優華お姉様が背後から包んでいった。
優華お姉様の腕が閉じ、黒い髪が彼女を包んでしまった。