第2話 恵子さんの恋
「数学が分からなくても、お友達の気持ちが分かるほうがステキだわ。英語の点数よりも、英語のジョークで笑えることが楽しいじゃない。ユリさんも、そう思うでしょ?」
少女たちは、中庭をとおり、中学生の学ぶ校舎についた。
小説家 扉を開く。
中学の青いリボンが飛び出してくる。
「テレビで、ヤッチがさあ」
「なになに、ホント~?」
「ヤダ~」
「コクッたのぉ」
昨日のドラマ、好きな音楽、今日の部活……、
昼休みの通路におしゃべりがあふれている。
「あ。こんにちは」
優華お姉様とユリがステップを上がり、
気がついた生徒が、ペコリと挨拶している。
「ごきげんよう」
小首を傾げて、笑顔で挨拶を返す。
お姉様の挨拶に、赤くなって生徒が駆け出していった。
「さあ、ユリさん。恵子ちゃんのクラスにいきましょう。ご案内してください」
「こっちです」
ユリがお姉様の先に立つと、ぱたぱたと階段を駆け上がっていく。
お姉様がふわっと黒髪をなびかせて上がってくる。
降りてくる女子生徒が、あわてて左壁に飛びのくと、挨拶する。
「ごきげんよう」と、笑顔で受け止める。
お姉様の顔が目前に。女子生徒が真っ赤になって見送る。
ユリは、すごく嬉しくなった。
自分がお姉様を案内している。
ちょっと、なんだけど、すごーく偉くなった気がした。
階段を登り、通路を2クラス先まで歩いたところで、ユリが立ち止まる。
「お姉様、このクラスです、恵子さんのいるのは」
「どうもありがとう、ユーリアさん。おかげで早く到着できました。感謝します」
お姉様の微笑を、ユリはうるうるした瞳で受け止めた。
「おじゃまいたします」
お姉様が扉を開けると、中に入った。
「クラス委員長、いらっしゃいますか?優華と申します」
手前の机で談笑する中学一年に声をかけた。
赤いジャージが飛び起きた。
「あ、優華お姉様」
「クラス委員長は、いらっしゃいますか?」
少女が振り返ると、大声でクラス委員長を呼んだ。
一人、立ち上がると走ってくるのが見えた。
「こんにちは。お昼休みにごめんさい、委員長」
「こんにちは。優華お姉様」
優華お姉様とクラス委員長が握手した。
「こちらが、お茶会のメンバーになったユーリア・有里・マニーナさん。ユリさんと呼んでください」
「Cクラスの委員長の矢田です。ユリさん、よろしくお願いします」
クラス委員長が笑顔で右手を出した。
ユリは、くすぐったいような、晴々とした気持ちで手を握った。
「委員長。お願いしていたものはありますか?」
「これしかなかったんですけど……」
委員長が白い封筒を出した。
「クラスのみんなで話して、いろいろ探して十枚ぐらい、集めました」
「ご本人には?」
「大丈夫です。お姉様のお話どおり、お話してませんし、ぜったいバレてないです」
そう、クラス委員長が断言した。
お姉様が封筒の中を確認すると、持っていたファイルケースにしまった。
「では、恵子さんを呼んでください」
「はい」
「ユリさん。恵子さんを連れて、学年のミーティング・ルームにご案内してくれますか?」
「あ、はい。通路の奥の、あの、お部屋ですか」
ユリは通路の奥にある、以前相談室といっていたあたりを指した。
「ええ。お願いします。私は、先に言って、お茶会の準備をしますから」
お姉様がクラスの扉を開け、ミーティング・ルームに向かって出て行った。
さて、少女たちのインタビューが始まります。どんなインタビューで、少女のお話を聞くのでしょうか?