第1話 お茶会にようこそ***
お茶会は、茶道部ではありません。帰宅部でもありません。もちろん、運動部などでもないのです。新自由学園の運営にも関係する重要な生徒の集まりなのですが…、主人公たちの会話から読み取ってください。
扉を開くと、まぶしい青空が広がっていた。
昼休みの中庭には、笑顔がある。おしゃべりがある。
透明な秋の陽射しに、歌声やボールを打つ音が響いている。
中学の青いリボンと高校の赤いリボンがあちらこちらにゆれている。
語らい歩いている生徒たちが思い思いに過ごしている。
「こんにちは」
「ごきげんよう」
ユリは、秋風を受けながら、センター校舎のステップを駆け降りた。
日差しが、きらきらしているって感じ。
なんか、わくわくする。
おもわず駆け下りた。
気持ちがいいわ、という声が追いかけてくる。
お昼休み、学校がまぶしさにあふれている。
ユリが振り返る。
優華お姉様も左右に両手を広げて、空に顔を向けている。
お日様のチカラを受け止めている。
とっても美しい花々が咲いているように見えた。
コスモス、ゼラニューム、キキョウ、ベチュニア……、お花が見えた。
「ユリさん」
ステップを降りてきた優華お姉様が手を差し伸べてくれている。
自然と、お姉様と手をつないだ。
中学生が学ぶ校舎まで、芝生の道を歩き出した。
「午後の授業をお休みするのは、学生のお仕事だから大丈夫よ」
「お茶会でのお話が、仕事……ですか……」
「学園長から、皆様のお手伝いに励むことも勉強なのです、そう言われましたでしょう……」
「はい。すてきな学園生活をすることに、学生も参加すること。そう言われました」
「それが新自由学園のスタイルなの。楽しくて、すばらしい時間を過ごしたい。どうを?」
「はい。そう思います、けど……」
「数学が分からなくても、お友達の気持ちが分かるほうがステキだわ。英語の点数よりも、英語のジョークで笑えることが楽しいじゃない。ユリさんも、そう思うでしょ?」
「は…い…」
「ありがとう。うれしいわ、同じ気持ちだなんて。ユリさん、よろしくね」
正直、そういわれても……ユリは揺れている。学園長と優華お姉様とお話をしてくれて、すばらしいとは思うよ。でも、なんか、いい言葉で騙されているようにも、ちょっと思ってしまう部分がこころのすみっこにあって、優華お姉様に悪いとは思う。悪いと思いつつも、本当に自分が『わたしが学園のために……』なんて、よいしょされて、くすぐったくもうれしい気持ちになっている。
「お茶会の時は、授業に出ないから、後でホームワークやレポート提出があるけど、それは、わたしやお茶会の先輩たち8人がサポートするから安心してね。もちろんテスト対策も、お手伝いするわ。それに、帰宅部に課せられるボランティア活動がないのよ。楽でしょ」
「はあ……まあ。でも、でも、なんでお茶会で授業を休めるなんてこと、できるんですか?」
秋の日差しに、ちょっと夏の彩と、冬の香りがあるのを感じる。
優華お姉様が、遠くに目線を投げた。
「それは、お茶会、ティ・パーティが、学園の生徒自治を支えているから、なの。いわば、セキュリティー・サービスなのよ」
ユリの目を見て微笑んだ。
「もう、7年以上も前だけど、学園内で事件がおきたの。それで、警察が入ってきたの。先生も生徒も取り調べを受けました。有名な事件だったわ。テレビやラジオ、インターネットの掲示ボードやブログにも載っていたから、たくさんの学生が傷ついたのよ。事件の起きた学年の生徒はみんな疑われたし、日本全国から注目されたの。知っているかしら?」
「お話しだけは……」
「ユリさんは、小学校からの転入だから……すこし、かな、知っていても……」
「……はい……」
「大人たち、学校の先生もお父さんお母さんも、責任を投げあうだけで、事件を解決することができなかったの。その時、立ち上がった生徒がいたの。きちんとお話をしてくれない大人たちに、自分たちの学校だから自分たちで見直すって。学生が独立したの。小説にもなったわ。それが学園生徒会。立法、裁判機能に始まって、広報はもちろん、財務機能、製品開発機能までつくってきたの。大学生の先輩を頂点に、高校と中学、小学校まで。その学生裁判になるまえに調査するのがお茶会なの」
「はあ、警察みたいな……」
「そうね……、どちらかというと調査官って感じ。少年少女学園内自衛調査隊って感じ、かな。最初は、学生自治会で生徒の独立を提案した高校生の応援団だった。応援団、それじゃ堅苦しいから、ティ・パーティという名前にしたの。アメリカ合衆国の大統領選挙の応援団のイメージだと聞いたわ。それを直訳して、お茶会。いいネーミングでしょう。ユリさんの好きな探偵さんみたいな部分もあるわ」
優華お姉様が笑う。
中学クラスのカフェテリアの前に立つと、扉を開いて中に入った。
一日2本。時間が……。明日は頑張るぞ。