第1話 お茶会にようこそ**
【登場人物の紹介】主人公たちの一人
ユリちゃん。……本名:ユーリア・有里・マニーナ
ネイビーのロングスカートの前で、困ったように手を組んで、ドアを背中に閉めておどおど立っているような中学1年生。赤いボブカットヘアに、透き通る白い肌に紅を刷いたような頬、深いブラウンの大きな目。ロシア人と日本人のハーフ&ハーフの少女です。
「まあ、ユリちゃんは、美人やないねぇ。スゴークかわいいってこともないしぃ。まあ、ふつーうに、おかっぱ頭の元気な中学一年って感じやん。探偵小説や刑事ドラマのイケメンが人一倍好きってだけやね。人と比べて、髪、赤いし。ニキビあるし、胸も……」先輩に言われて泣きました。
「人と比べて良い悪いって、あまり意味がないのですけど、それはユリさんの情念。情念のチカラですから、大切なの。でも、そのままでは『嫉妬』にしかならない。でも、情念として『知る』に向ければ、その情念のチカラ、とっても役に立つのです」とお姉様いわれています。
将来は、素敵なお姉様になる、かな?
扉を閉める。
ユリと優華お姉様が中学一年のクラスに向かって歩き出した。
お姉様と手をつないでいる。
それだけで、ユリはワクワクしてしまう。
優華お姉様の左肩越しに、ユリはお姉様の横顔を見上げた。
中学一年から見ると、優華お姉様とは大人のようだ。
背の高さも、体の線も、違う。
どうしたら、こんなお姉様になれるのかしら?
「どうしました?」
ユリの目線に気がついた優華お姉様が、小首を傾げると微笑んで訊ねてくれた。
「いえ、なんでも……」
キレイなお姉様って、一緒にいるだけでステキな気持ちになる。
ユリは、いいたいけど、いえない言葉を胸に隠した。
「わたしも、そうだったわ」
優華お姉様がユリから目を離すと、通路の先を見ながら応えてくれた。
「お姉様に手をつないでもらって、お茶会に入って、一緒に歩いていたのよ」
「ユリさんと、同じ。わたしもユリさんだったの」
ユリは、頭を下げた。
とっても嬉しくて、嬉しくて、赤くなって歩いている自分を感じていた。
お茶会の部室があるのは、生徒会室の横、センター校舎の四階。
生徒会のあるセンター校舎4階から、中学校舎の2階までは、
中庭を抜けて、5分くらいかしら。まだまだ先だった。
その距離が長いことを、きょうは嬉しいとユリは思った。
「わたしも、ムリだっておもったもの」
優華お姉さんがユリに振り向くと笑った。
「お話しを聞くだけ。あなたならできるよ。そうお姉様にいわれて歩いていた」
ユリは、手を軽く握る優華お姉様の力強さを感じた。
「一緒にお茶を飲みながら、お話を聞いて。分かることから始めるの、そういわれたわ」
ユリは、なにか、できるって気がして、頷いてしまう。
「ついてきてね。ついてくれば、きっとユリさんは、わたしより素敵な姉様になれるわ。だから、一緒にお話を聞いて。うれしければ涙がでるほど笑って、楽しければ涙がでるほどに喜んで、つらかったら涙を流して悲しみましょう。ユリさんは、お話し合い相手のお気持ちがわかる。心が感じられる。それが、あなたのチカラよ」
ユリは、すこし辛くて、顔を上げた。
「涙の数だけ、強くなれるっていうわ。あなたの涙で、あなたの気持ちが伝われば、お話をしてよかったという気持ちになるわ。その気持ちが大切なの」
階段を降りながら、ユリが歩くのに、優華お姉様があわせてくれているのが分かる。
大丈夫。そうお話してくれているのが嬉しかった。
センター校舎一階のロビーを歩く。
行きかう学生が、優華お姉様にあいさつしていく。
「ごきげんいかが?」
優華お姉様、あいさつを返す。
優華お姉様を育てたお姉様って、どんな方々なんだろう?
センター校舎の出入り口の扉に、お姉様の手がかかる。
「お昼休みだから、まず、クラス委員とお茶を楽しみましょう。そして、恵子さんご本人とお話するの。五時間目の授業が飛んじゃうわね……。どうしましょう?」
「え、どうなるんですか?」
扉を開けると、お昼休みの中庭に出た。
学園もの、その二回目です。毎日原稿。できれば3本♪
♪できるかな~、できるって~♪
ホントかな、ホントかな~。やってみなはれ、はれ~。