第1話 お茶会にようこそ ~四番館一部屋の扉一~
ドアを越えると、新しいお話が始まる。その構成で書いていきます。学園ものは初めて(小説を書くこと自体が3ヶ月)だから、どうなることやら? 少女たちが仲間の恋や愛を守りながら、育っていく姿を書ければいいなあと思います。
扉が開いた。
レッドヘアをボブカットに整えた少女が、おずおずと入ってきた。
「あの、わたし、ユーリア・有里・マニーナっていいます、けどぉ……、優華さ、いえ、優華お姉様はいらっしゃいますでしょうか?」
中学一年の制服、ネイビーのロングスカートの前で、困ったように手を組んで、ユーリア・有里・マニーナと名乗った少女は、ドアを背中に閉めて立っている。透き通る白い肌に紅を刷いたような頬、深いブラウンの大きな目を見開いて、部室の中に自分の居場所を探していた。
四人がけのチャコールウッドのテーブルが目の前ある。
あたたかな湯気がティファールのケトルから揚っている。
二人のお姉様が座っていた。
「ユーリア? ああ、ユリちゃん、や。待ってたんよぉ」
金髪カーリーヘアの三年のお姉様が、片手を上げると、ミニのプリーツを跳ね上げて立ち上がった。
「こんにちは、ユリさん」
漆黒の長い三つ編みがきれいな高校一年のお姉様。小首を傾げながら微笑むとカップを持ち上げて、応えてくれた。
持ち上げたグラス・カップには赤いお茶、湯気の向こうに微笑みが見えた。
「あの、優華お姉様、でしょうか?」
「ちゃうわぁ。わたし、喜美子・レイ・ヒトフ。キミ姉ちゃんって呼んでや」
「わたしは、厚木琳麗ですえ。リンと呼んでよろしおす。お茶はいかが」
「セヤ、すわって、すわって」
「一緒にお茶にいたしましょう。本日は南国想華、ハイビスカスのハーブティどす。肌にもよろしおすえ」
三つ編みのお姉様、リンさんが手を差し伸べてくれた。
金髪カーリーのキミ姉ちゃんが手前の席を引いて、背もたれを叩いた。
「ほら、座ってや」
三つ編みのリンお姉様がグラス・カップ2つにお湯を注いでいる。
促されるままに、フィガロの椅子に腰掛けた。
「もうすぐ、優華お姉様もいらっしゃいます。お砂糖は薔薇のを使うてね」
伏せたまつ毛が長さが、ユリはすごいうらやましいって感じた。
「あら、ユリさん? あなた、ユリさんね! ユーリア・有里・マニーナさん」
ドアを開けて入ってきたお姉様がまっすぐユリの前に立つと、声をかけた。
「こんにちは。優華といいます」
黒い髪に、黒い瞳、細い唇で微笑んでいる。高校三年の制服がかっこよかった。
「ああ、あの、ユーリア・有里・マニーナ、です!」
あわてて立ち上がると、椅子がガタガタ音を立てて、しかも、足がもつれた。
「やだ(赤くなっちゃう)」と小声を上げた。
優華お姉様が、笑顔で歩み寄ると、ユリの肩に手をかけて撫でる。
握手を交わした。
顔を寄せて「いいのよ、座ってお話ください」と微笑んでいる。
「が、学園長から言われて、あの、このパーティを、お誘いくださるって、だから、優華お姉様が会いにくるようにいわれて、喜んで、きました」
すこし、間があいた。
「ぶっ。わははは、緊張してる、あかん。ユリちゃん、順番、ばらばらやで」
カーリーヘアをふって、キミ姉ちゃんが笑う。
「ユリさん、リラックスしたらよろしおす。それをいわはるなら、『学園長はんより、優華お姉様に会うようにいわれましたので、きいました。きょうはお茶会パーティにお誘いいただいて、わたし、とても嬉しい』っていうのがよろしおすえ」と、リン姉様が微笑んで話しかけてくれた。
ユリは、言葉がない。
ただ、赤くなって、また腰掛けた。
優華お姉様が真顔で手をふった。
「キミさん、リンさん、そんな笑ってはかわいそうです。ユリさん。お茶を飲んで、リラックスしてくださいね。今日は、ハイビスカスですね。おいしそう」
優華お姉様が、横に腰掛けるとソーサーに添えてグラス・カップを持ち上げた。
うれしそうに微笑んで一口、飲んだ。
「おいしいわ。リンさん、いつも、ありがとう。感謝してます」
「あすは、グリーンのカモミールや、ねぇ。おたのしみにしてるでぇ。リン姉はん」
三人で微笑みあっている。
「さて、ユリさん、さっそくですけど。ご一緒ください。あなたのチカラが必要なの」
「わたし? いえ、あの……」
ユリは、赤い顔を床に向けたまま。
優華お姉様が微笑みながら左手にユリを見つめている。
「あの……、やっぱり……、ムリです。あの……、わたし、お姉様方のようにはできませんし、お話が下手だし、お茶も……、とってもお呼びいただいた事件の解決に役に立つと思えません。大丈夫かなあって思ったんですけど……、キミ姉様やリン姉様と比べて、だめなのが分かりました。ごめんなさい……帰ります」
「そう、お話されると思っていました」
優華お姉様が伏せ目がちに微笑むと、ユリの腕に手を置いた。
深い黒い目を上げると、ゆっくりユリに声をかける。
「ユーリア。あなたがいつも、お部屋でお祈りしていますね。『なぜ、かわいい笑顔にならないのかしら』『なぜ、ニキビが出るのかしら』そうつぶやいて、同級生や先輩の名前を挙げては、あんなふうになりたいっと、お休み前にお祈りしてますでしょう。『だめだから、おもしろくないので』そうお話されて、部活もやめた。だめだけど、神様なんとかしてほしいと、お祈りされていますね」
「な、なんで、そんなこと、知っているんですか……」
「ええ、わたしの愛する花々が教えてくれました。さっき、琳麗の長いまつ毛がほしいって思っていませんでしたか。わたしがごあいさつする直前、リンさんのお顔を見つめていましたね」
ユリは手を口に当てると、言葉がなかった。
「ユリさんの中には、とっても嫉妬深い部分があるのでは? いつも、人と比べていませんか?」
「……はい……比べちゃうんです……」
「一人になって、『お姉様のようになれない』と『お姉様のようになりたい』の間に立って、『わたしは……』と思い込んでいらっしゃいますね。あなたには、人と比べてわたしはどうかしらって『知りたい』ってお気持ちが強いの。違うかしら?」
「……わたし、……どうしたら……」
「ユリさんの『知りたい』って、強い気持ちは、とっても大切。人と比べて良い悪いって、あまり意味がないのですけど、それはユリさんの情念。情念のチカラですから、大切なの。でも、そのままでは『嫉妬』にしかならない。でも、情念として『知る』に向ければ、その情念のチカラ、とっても役に立つのです。わたしは、あなたの比べて『知りたい』っていうチカラがほしいの」
優華お姉様が、ユリに微笑むと、手に手を重ねた。
「ですから、学園長にお願いしてお茶会にあなたをお誘いしました。どうぞ、わたしにチカラをかしてください、ユーリア・有里さん」
ユリは、大きな目イッパイに涙を浮かべている。
キミ姉様がカーリーヘアを突き出して、ユリちゃんの顔をのぞきこみながら、声をかけた。
「まあ、確かに、ユリちゃんは、美人やないねぇ。スゴークかわいいってこともないしぃ。まあ、ふつーうに、おかっぱ頭の元気な中学一年って感じやん。探偵小説や刑事ドラマのイケメンが人一倍好きってだけやね。人と比べて、髪、赤いし。ニキビあるし、胸も……」
「そのへんにしておきなはれ!」
カーリーヘアに向けて横からコブシが飛び出した。
リン姉様の鋭い裏拳を、
キミ姉様が軽く左手で受けた。
「比べても仕方ないんの、分かってもろうて、手伝ってもらわんとあかんやんか?」
「キミはんのお話しには、毒があります。リアルすぎ。かえって、泣い……」
泣いた。すすり泣いた。
「美人じゃなくて……。かわいいってこともなくて……。髪、赤いし。ニキビあるし、足が太くて……胸もないし……、ふつうにおかっぱ頭の元気な中学一年じゃ……だめなんですか?」
「ほら……」「あかん、ごめん。ごめんなぁ」あわてるお姉さんたち。
優華お姉様が、ユリの頭を抱いた。
「だから、あなたにお願いしたいの。ユリさんだから、できることなの。他の人にはおねがいしていませんわ。学園長、学校長と学年長にお話をして、ユリさんだったらとお願いしているよ。だから泣かないで。お願いしてるわたしまで、悲しくなる」
しばらくして、腕を解くと、ユリの頬を抱いて、優華お姉様が声をかけた。
「さあ、涙を拭いて……、ユリさん。お茶を飲んだら、わたしのお話を聞いて。それでもダメなら、お断りになってもいいわ」
二杯目の赤いお茶が、カップに注がれた。薔薇のお砂糖が、ユリのグラスに溶けた。
「……以上が、事件の内容なの。それで、本当に亡くなった彼が加害者なのか、彼女に話を聞いてみたいの。警察の女性警察官や保険鑑定士の人たちは、お母さんが同伴して彼女にお話を聞いていないわ。彼女は苦しんでいるわ。一緒にお話を聞いてほしいの。わたし一人では、だめなの。だから、一緒にきてほしいの。お願いいたします」
優華お姉様が、ユリの手を握った。
キミとリンも、ユリに声をかける。
「暴力的なリン姉様や、わたしじゃあかんのや。さらに、ほら、わたし、カーリーでしょ。地毛なのよ。しかもバリバリの関西弁、あかんでしょ。顔もチャッチャしてるし」
「武道家と暴力をいっしょにして……、私のは武道。しかも私の都言葉を関西でまるめてはあきませんえ。大阪のくさい言葉とはちがいます。でも、ユリはん。わたしのみやび言葉も、詰めていくには良いですが、冷たく聞こえてしまい、今回はよろしゅうないと優華お姉様と話しています。お頼みしますぇ」
優華お姉様の手の上から、ユリの手に触れた。
お姉様ふたりのどちらが行けばよいでしょう。
そうお話しする前に、ユリは、言葉を切られてしまった。
「いかが、ユリさん。ふしぎなお話でしょう。愛していると死んだ彼が、愛していたと語った彼女に訴えられる。なぜだか、知りたいでしょう。いかが?」
「はい」
思わず、頷いた。
優華お姉様の笑顔が広がった。それが、ユリは、嬉しかった。
「じゃあ、さっそく、彼女のクラスに行きましょう。一緒に来てください」
そう声をかけると、立ち上がり、ユリの前に手を差し出した。
優華お姉様の手。
ユリは、赤くなって手を握った。
二人は、立ち上がると、お茶会の扉を出て行った。
この小説には、別世界が重なっています。
その世界については、R15、R18になりますので、別途書きます。
六番館がR15で社会派探偵もの、七番館がR15オーバーでダーク・ファンタジー。
全世界が頭の中に広がっていて、その中から3つを抜き出しました。
それぞれの楽しさを追い求めてみたなあ……。できるかどうか、チャレンジしてみま~す、です。