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―雪余―

雪が点在する庭。

積もった時はあれほど白かったのに。

溶け始めた途端に薄汚い色へと変貌してしまう。

白とは異なる濁った色。

それが当然のようにある庭ほど、醜い物はないのだろう。


「…無粋なものだねぇ」


溶けるなら、一度に溶けてしまえば良い。

そうすれば、即座に元の景観を取手戻すだろう。

あの、停滞で形作られた、色彩のない庭に。


「本当に、見苦しい」


潔く消えもせず、かといって、何時までも存在する訳でもなく。

頑ななまでに在ろうとし、同時に消えてゆこうとする。

何処までも矛盾したその姿は、人のそれによく似て。

嫌悪感を抱くと留時に、妙に、親近感を抱かせる。


「…どうか、している」


息を吐き、緩く、髪を掻き上げる。

移り変わり、いずれ朽ち果てる物に、思いを馳せるなど。

有り得ない事だ。…少なくとも、昔の自分には。

憎いと思いつつ、愛しいとも思う、など。こんな、辻褄の合わぬ感情を抱くなど。

決して有り得ない事なのだ。緩く瞼を伏せ、溜息を吐く。


「のら、」


とたた、と駆ける音と同時に、腰に軽い衝撃。

ゆるりと瞼を開けて見下ろせば、そのまましがみつく小さな姿。


「おかえり、えみや。早かったね。」


そっと髪を梳くと、擽ったそうに身を捩り、えみやは満面の笑みを浮かべた。


「うん、いずみが風邪を、ひいたから。はやととお見舞い、行ったんだ」


治ったら、また、遊ぶって、約束をして来たんだよ。

楽しそうに笑い、続けざまに喋り出す。

見舞いに雪兎を作った事、とても喜んで貰えた事。

時折つっかえたり、話を飛躍させたりもして、一日の出来事を話して聞かせた。


「そう、愉しんだみたいだねえ」


屈み込んで、視線を合わせ、そのままくしゃりと頭を撫でる。


「うん、とても、楽しいよ」


ふふと笑い、庭先に眼を移す。

それにつられるように様にして、のらもまた視線を動かした。


「雪、もうすぐ溶けちゃうね」


ぽつ、と零した一言に、気付かれぬ様、苦笑する。


「溶けてしまうのは、寂しいかい?」


問いにふるりと首を振り、寂しくないよ、と向き直る。


「どうしてだい?」


予想外の反応にほんの少し、驚くと。

それを胸の内へとひた隠し。 ただただ穏やかにのらは訪ねた。


「だって、また冬になったら降るから。」


それに、春も好きだもの。今は、溶けるのを見て待つよ。


屈託のないその言葉に、思わず声を、出して笑う。


「あぁ、そう、そうだねぇ」


水墨画のような庭を眺めた。

やがて、雪が溶け、春が散り、夏が照らし。秋が舞い。再び、季節が巡るだろう。

季節など、どうでも良いと思っていたが。

それはそれで、また違った赴きがある。

そう思うと、今の暮らしがとても愛しく、心地よく感じた。


はやとといずみと、皆を誘って、遊ぶんだ。はしゃぐえみやに微笑んで。


それはきっと良いだろう。 そのままゆっくりと瞳を閉じて。やがて相見えるであろう、、色彩の庭に想いを馳せた。

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