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八粒目

 僕は15年前の記憶を頭をフル回転して呼び起こそうとする。


 ゆうちゃんのこと俺はどう思っていたんだろう――



 確かに、

 ゆうちゃんと一緒にいると楽しくて、

 ゆうちゃんと一緒にいればどんな遊びでもよくて、

 スーファミのF-ZEROではいつも勝てたし、

 忘れ物が多い僕に鉛筆を貸してくれたし、

 夏休みの宿題も最後の日に見せてくれたし、

 飼育当番も代わってくれたし、

 僕の枯れかけの朝顔を救ってくれたし、

 ザリガニを釣って見せるとすごく喜んでくれたし、

 間違ってお隣の窓ガラスをボールで割ったとき一緒に謝ってくれたし、

 ウソをついた自分が悔しくて泣いてたとき傍に居て励ましてくれた。


 だけど、だけど、

 僕はゆうちゃんに何一つしてやれてないんだよ。

 そう、何一つ。

 なんで僕なんか好きになったんだよ。

 テルのほうがよっぽど頼りになるし、

 トシのほうが頭もいいし、

 ツヨシだってジュンだってヒロだって僕よりいいとこみんな持ってる。


 なんでさ、僕のこと好きになってくれたんだろ


 僕は泣いた。


 泣いたんだ。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、わからなくなって泣いた。恋とか知らない僕がいた。「僕は25だぞしっかりしろよ」と自分を諭そうとするけど、涙は止まらなかった。


 うれしいって気持ちはたしかにあって。好きなんだとも思う。でも、どんな好きなのかもわからないし、どうすればいいかわかんないし、だいいち

今日で最後だよ!!もう時間ないじゃないか!!


 ……。


 そこには泣きべそのただのハナタレ小僧がいた。


 テルは僕を見ないで泣き終わるのを待っていてくれた。「ゆうかに絶対カズには言うなって口止めされてんだ」と僕の肩を叩いて、「あいつの言う事きかないと殺されちゃうだろ」と内緒話をするように付け足して笑ってみせた。


 こいつ、僕を励ましてくれてんだな。

僕は何も言われたわけでもなかったけど袖で鼻水を拭きながら「うん」と応えた。


 泣き終わった頃には、昼休みはほとんど終わっていた。



 僕の記憶が確かならば、小学四年のこの日を最後に分校の友達とは接触していない。


 そう、この日は特別な日ではなく、何も起きずに


 普通に学校に行き、普通に給食を食べ、普通にサッカーをし、普通にお別れ会をし、この分校と別離した。


 今、テルから、こんなことを打ち明けられたことは僕の記憶に無かった。


 記憶だけではなく事実が無かったのだ。もし忘れていたとしたら、よっぽど神経が図太い男だ。僕はさすがにそこまでは図々しくは無いと思う。


 なぜだかわからないけれど、僕はこれから先の人生に干渉できるチャンスを与えられたのかもしれない。


 そんなことを神様にしてもらうような善行をした憶えは無いが。


 カツラを獲ろうとする欲求を忍耐で押さえ込んでいた日々が、心当りだと言えなくもないけど。


 誰もが一度は思うこと、


 もしあのとき、あれをしていたらよかったのに。


 そう、後悔は先に立たないのだ。


 味気なく終わってしまったこの分校時代の人間関係を変えることが、何かを変えようとしているのかもしれない。


 どうすればいいだろう?

 なぜこんな機会を僕は与えられたのだろう?

 もしかしたら、ただの夢かもしれない。

 起きたら、なにも変わらない日々が横たわっているのかもしれない。

 そもそもテルはなぜこんなことを打ち明ける気になったのか聞いてみたらわかるかもしれない。

 あるいはわからないのかもしれない。

 そういえば、僕は傷つくのが怖くてヒトの気持ちを深く知ろうとしなかった。

 そんないつもの僕ならテルに真実を聞くことを躊躇していただろう。

 なぜ 躊躇する必要がある?


 わからない。


 誰かが傷つくの?


 わからない。


 それならやってみればいいじゃないか?


 わからない。


 いつものおまえなら何も聞かずに終わってるだろう。


 でも、おまえは今を生きているのか?


 今、大切なものもなく満員電車に乗る日々がおまえの望んだものなのか?

……。


 どうなんだ?


 ……わかったよ 聞いてみるよ。


 僕は僕に答えを出した。


 とにかくやってみようと決めた。


 だって、この人生がこれ以上つまらなくはならないだろうから。


 神様っているのかもな。



「……あのさ……」

「うん?」

「聞きたいんだけどさ」

「ああ」

「テルはどうして打ち明ける気になったの?」

「決まってるじゃないか、おれたち友達だろ」

「さあね」と僕はおどけて見せた

「こいつ、ころすぞ」テルが僕を小突く

 お互い、顔を見合わせて吹き出した。


 校舎から昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。



 ……そう単純なことだった。


 友達なんだよね。


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