六粒目
どうやら次は給食の時間らしい。
「はい!!班ごとに席を並べて!!」と、おかお先生が教室の中を響き渡る声を出した。
四年生、12人が4人ごとに班になって机を向き合わせた。僕の斜め前に座るゆうちゃんとは斜向かいになるということだ。
僕の向かいがめぐちゃん。こちらもゆうちゃんに負けず劣らず勝気な子。一つ班を挟んで、廊下側の班に座るお山の大将のテルもケンカではかなり手こずっていたな。
そして、僕の隣りに座るのがトシ。親はここらへんの大地主らしくて、その親の遺伝子を受け継いで学校内でも評判の秀才だ。だけど、そんなところを微塵も感じさせないトシは僕にとって非常に頼りになる存在だった。
宿題するのに何度お世話になったことか。感謝感謝。
廊下側から順番に書くとこうなる。
ゆき かおり
テル ツヨシ
あい まき
ジュン ヒロ
ゆうか めぐみ
トシ 僕
10年以上経ってるのに、よく憶えてるもんだなと自分で感心してしまう。
机にナプキンを広げて、箸を行儀良く並べていると、割ぽう着を着た給食当番のテル、ツヨシ、ゆき、かおりがカレーの匂いを引き連れて、給食を運んできた。今日の献立はカレーとゴハンとひじきの煮物と冷凍蜜柑と書いてあったな。
ひじきと人数分しかない冷凍蜜柑は別としておかわりの争奪戦になりそうだ。現にもうすでにテルのよそったカレーが少ないと優良肥満児のジュンが文句を言っているし。テルは「そんなことねーよ。」と否定しているけれど、ちゃっかりテルの器にはカレーが山盛りになっていた。
子供ってわかりやすいと思いながら、僕も今は小学四年生だということを思い出した。
実は僕の頭の中もようやく落ち着いてきて、元の自分に戻るにはどうすればいいかとあれこれ考えていたけど、こんな時間も悪くないなと目の前にある給食を見てぐーぐー言っているお腹をさすった。
隣りのトシも引き算解いているときはあんなに冷静なのに、「いただきます」と早く言いたいのか、カレーを今にもヨダレが垂れんばかりに食い入るように見て貧乏揺すりしていた。
頃合いを見計らったように先生が日直のまきちゃんとヒロに「では、いただきましょう」と声を掛ける。
「はーい。いただきます」とまきちゃんとヒロの爛漫な声に「いただきます!!」とクラス全員の声が後に続く。やっぱり大将のテルの声が一番デカい。
僕もお腹が減っていたので給食にかぶりついた。カレーがちょっと甘かったので、ひじきにすぐ手をつける。この歳になってようやくひじきも食べれるようになったけれど、この頃は残さず食べなきゃいけないのが苦痛だったなと、いつも居残って食べさせられていたヒロの奴をちらっと見ると、案の定、ひじきの前で固まっていた。がんばれヒロ!!と心の中でつぶやいていたらヒロの奴があいちゃんとこそこそ喋っていた。
どうも、ひじきと冷凍蜜柑の交換を交渉しているらしい。ヒロがあいちゃんを拝むように手を合わせ冷凍蜜柑は愛ちゃんのもとに渡った。
交渉成立だ。
ヒロは蜜柑をまだうらめしそうに見ている。あいつは冷凍蜜柑だけはちゃんと食べていたっけ。
あいつの数少ない好物を差し出したということは背に腹は変えられないってことか。よっぽどひじきが嫌いなんだな。
その様子をひじきをほおばりながら見ていると誰かの視線に気付いた。ゆうちゃんがひじきを食べている僕を珍しそうに見ていた。
どうしたん?と食べながら聞くと、
「かず君、いつから食べれるようになったん?」
「つい最近」とこたえる。
と言っても15年後から計算して、つい最近だけど。
「えらいなぁ」とゆうちゃんは自分の前にある手がつけられないていないひじきを見ている。そうだ、ゆうちゃんも苦手だったけか。
「ひじき食べようか?」
「うん。じゃあ、みかんとこうかんしよっ」と救われたように言うから、
「いいよ 食べてやるよ」と蜜柑の申し出を断り、ゆうちゃんのひじきをペロリと食べて見せた。
「かず君らしくないなぁ。やさしいとこ。」とキョトンとするから、
「失礼だなぁ」と返す。
そんな会話をしていると隣りのトシと向かいのめぐちゃんまでこっちを訴えるように見るもんだから、仕方なしに全部で四人分のひじきを平らげた。いくら成長期とはいえ、小学四年生のお腹には過負荷だったようで、給食を食べ終わったときには僕のお腹はいっぱいでベルトがきつくなっていた。
冷凍蜜柑をもらわないでよかったと切実に思った。