十一粒目とエピローグ
溢れる光の中、校門の前で母親の手を振る影が見えた。本当にお別れの時だ。
「手紙……書くよ」
「うん。でも、かずくんから年賀状着たことないけど大丈夫かな」悪戯に笑う。
「やな感じだなぁ」ムスッとする。
「うそうそ。待ってる。わたしも書いていい?」
「うん。でも、芋の判子はかんべんね」
「ひっどーい。去年の年賀状、自信作だったのに」
僕らは一しきり笑い合ったあと、ジャングルジムから降りて母親の待つ校門まで黙って歩いた。
いつまでも二人一緒に歩いていたかった。
もっと同じ空気を吸っていたかった。
ずっと同じ夕日を浴びていたかった。
ここからいなくなるなんて考えられなかった。
でも、時はそう思えば思う程、早く過ぎて
気がつくと、母親の待つ車の前まで来ていた。
「さよなら。じゃないよね?」
「さよなら。じゃないよ」ゆうちゃんは微笑む。
「絶対、手紙書くし、電話もするし、ゆうちゃんのこと思ってる」
「うん。わたしも」
動き出そうとする車の窓を開け、僕らは指切り約束した。
「またね!!」
「またね!!」
やがて車は徐々に進みだし、ゆうちゃんはどんどん小さくなっていく。
遠くなればなるほど僕は手を大きく振った。ゆうちゃんにいつまでも見えるように。
ジャングルジムと同じ夕日が僕らを見ていた。
終わり。
―エピローグー
「お客さん、お客さん」
僕はその声に揺り起こされた。ぼやける目を擦り、見上げると朝乗ったバスの運転手だった
「ここは?」
「随分、気持ち良さそうに寝ていたから、終点までいって戻ってきちゃったよ」
「どのくらい寝てました?」
「そうだなぁ。片道二時間だから、四時間かな。お客さん、相当疲れてるんだねぇ」
僕は欠伸を噛み殺して、「お蔭様でかなりすっきりしました」
「僕、昔終点の江田分校に通ってたんですよ」
「エデン?なんだそりゃ、聞いたことないぞ。なんかいい夢でも見たんかい」バスの運転手は首を傾げる。
「どうやらそうみたいですね」
ああ、やっぱり夢だったのか。
僕は寝すぎて節々の痛む体を起こして、運賃を払いバスを降りた。
やっぱしな。そんなに上手くいくわけないか。
僕は会社に休むのを連絡してなかったことを思い出し、電話しようとポケットの携帯電話を探した。
ポケットを探ると布切れみたいなものが指に引っ掛かった。
取り出してみると、自分の物ではないけどどこか見覚えのあるハンカチだった。
……あっ。
僕は思い出した。
それはゆうちゃんから借りて、返しそびれたハンカチに似ていた。
僕は呆然としていると、ポケットの携帯電話が鳴る。慌てて携帯電話を取る。
メールが一件着ていた。
送り主は川上優香だった。
拙い文章ですが読んでくださってどうもありがとうございました。
出来れば感想などくださると嬉しいです。