十粒目
「ジャングルジムに何で登ってるの?」
「わたし、学校でこの場所が一番好きなんだ」
「どうして?」
「登ってくればわかるよ」
僕もてっ辺に登ってゆうちゃんの横に座った。
「見て」ゆうちゃんが空を見上げた。
藍色に染まった空に幾筋ものオレンジ色や赤色の雲が走っていた。僕は思わず息を呑んだ。
「空がこんなにも近いでしょ」ゆうちゃんは誇らしげに言う。
「うん」
「なんで夕方の空ってこんなに赤いのかなぁ」ゆうちゃんが独り言のように呟く。
「空気って粒で出来てるって知ってる?」
「ううん。でもそれと夕焼けが赤いのはどんな関係があるの?」
「太陽からの光のうち、青い光は強いけど、その分、空気の粒に弾かれて僕らの所に着く頃にはバラバラになってしまうんだ。
だけど赤い光は、青い光みたいに強くないから、空気の粒に弾かれてもバラバラにならないで僕らの所まで届くんだよ。だから赤いんだ」
ゆうちゃんが僕をじーっと見ている。僕は緊張してまともにゆうちゃんの顔を見れない。
「ふうん。よくわからないけどカズくんはもの知りね」
「そんなことないさ」
ねぇ、
「ゆうちゃん……」
「何?」
心臓がもっと酸素を運べとせっついて、僕は大きく息を吸った。
「テルから聞いたんだけどさ」
「もしかして――バレちゃった?」ゆうちゃんの顔が夕焼けみたいに赤くなる。
「そのもしかして」
「全く、テルくんにはあれだけ黙っといてって言ったのに」
気にしなくていいんだよ。
「わたしが好きなだけなんだから」
「あのさ」
「だーかーらー」
ゆうちゃん、聞いて。
「こんな気持ち初めてでどんな風に言えばわからなかったけど、今日、テルと話しててわかったんだ」
ゆうちゃんのこと、
「好きだよ」
「一緒にいたいよ」。
そして、胸の痛みが洪水のように溢れ出した。
「なのにさ、今日でお別れだろ?こんなに一緒にいたいのに明日から離れ離れなんて。なんで 僕はこの気持ちにもっと早く気づいて、もっと早く正直になれなかったんだろう」
顔中、鼻水と涙だらけになった。どんな大女優だってこんな不細工な泣きっ面はできやしない。
「わたしも一緒にいたいよ。でも離れ離れでも一緒でいることはできるよ」
ゆうちゃんの瞳にも夕日が滲んでいた。
「どうやって?」
かずくんが教えてくれたじゃない。
「太陽とわたしたちはこんなにはなれていても、空気のつぶがじゃましても夕日のこの光はバラバラにならずに届くんでしょう?」
「そうだよ」鼻をすする僕。
「かずくんとゆうかだって出来るはずだよ。どんなに離れていても一緒に」
「そうだといいけど……」
「そんな弱気でどうするの!!どこにいたって同じ空の下じゃない」
「うん」同じ空の下、僕らは同じベクトルの光――
「わかればよろしい」
「えらそうだなぁ」ありがとう。
「うるさいなぁ」
涙を拭うと、夕日が山々の稜線をオレンジ色に浮かび上がらせジャングルジムを暖色の光が包んでいた。