#2
今や犬猿の仲な月影渉と花柳太陽だが、可愛い頃もあった。
それは11年前。
二人がまだ幼稚園生の頃だった。渉と太陽は大の仲良し。今とは真逆のラブラブだったのだ。
「うぇーん。」
「太陽ちゃん、泣かないで。どうしたの?」
太陽の頭を撫でる、渉ちゃん。
「僕は男の子なのに。また、皆がお前は女の子だっていうの。わたるちゃん。うっ、うっ、うぇーん。」
渉は、太陽の事を抱き締めた。
「大丈夫!僕が太陽をずっーと守ってあげる!この先ずっと!だから、泣かないで?」
「僕も!渉を一生まもる!父ちゃんが言ってたんだ!好きな子の前では漢であれって!泣くなって!だから、もう僕泣かない!」
「いい?約束だよ?絶対に離れないでいようね。二人でいれば怖いものなんてないよ、太陽!」
「うん!」
そんな二人はお互いが初恋だった。
でも、歳をとるに連れ、中学生の頃だったか。
思春期を迎え、体に変化が起きた。
なんでか、渉は太陽の体に触れてみたくなり、それだけじゃもの足りなくなっていた。こんなのはおかしいとかいうのかもわからなかったが、抑えきれなくて、二人でゲームをしていたとき、太陽の手を握った渉はそれ以上を望んでしまった。
「なに?」と太陽が触れられた手を見る。近付いていく、顔と顔。
「太陽、俺の事好き?」「好きだよ?」
簡単に言う太陽は罪深いと渉は思った。だけど、止まれない。
「俺の好きは、太陽の好きとはちがうかもしれない。」
「どういうこと?」
「太陽に触りたいし、キスとかしたいし、もっと近づきたい…。」
体だって、反応してしまう。手を触れるだけで。緊張して渉はどうにかなりそうだ。
「…?俺だって、渉とキスとか…したいよ?」
「本当に?」
渉は太陽を気付けばゆっくりと押し倒していた。「こんな風に好きなんだよ?俺は…。」心臓が壊れそうだし、太陽の反応が怖い。神様、どうか…。なんて、渉は願いながら一度瞑った目を開けると太陽は、気難しい顔をしていた。「これは、違うんだけど。」と言われた。
「何が?」と渉は不安そうな目をする。
「俺は渉を…その抱き締めたいし、できれば、抱きたいんだけど、それじゃダメ?」
「ダメというか…。俺も太陽を抱きたいんだ…。」
どうか、いいと言ってくれと渉は願ったけれど現実は残酷であった。
「やっぱ、帰るわ!俺、抱かれるなんて、無理だし!」と、太陽が慌ただしく渉の部屋から出て行ってしまう。
振りほどかれた腕に残る温かな太陽の感触はひどく渉には痛かった。まるで、傷口ができたように。渉は、部屋の隅に力なく座った。
それからというもの、二人はぎこちなくなり、遠ざかっていってしまった。
太陽は、女の子としか遊ばなくなったし、何度も話かけようとしたが、すり抜けるように逃げられた。渉はその事にかなり、ショックを受けて忘れてしまいたいというように猛勉強し始めた。
だが、志望校を決める時が来た渉は、あおはるより、もっといい高校にも入れたが、太陽の側にいたくてこの私立青山春木学園に通う事になったのだ。「惚れた方が負けなんて、絶対認めない。いつか、あいつを抱いてやる。」渉はそう心に誓っていた。
だが、入学式の帰り道決定的な一殴を渉は食らった。
「太陽くん!入学おめでとう!」
渉は、見てしまったのだ。
仲良さそうに、少し歳上の女の人が太陽を笑顔で出迎えている姿を。「ありがとう!」なんて満面な笑みで、手を繋ぎ去っていく太陽がそこにはいた。
渉は太陽が許せなかった。
(俺を一生、守るっていったのは何処のどいつだ?好きだって言ったあれはなんだったんだ?)
小学生の頃から追いかけられていた他校の女子生徒の群れを前に、渉は遠ざかっていく太陽と謎の女性の背中しか、視野に入らなかった。
(いつか絶対、太陽を抱いてやる…。)
渉がそんな事を思っていたとは露知らず、今や女の子をとっかえひっかえしている太陽はというと…。
(実は今更俺も童貞なんて、言えねーよな…。散々渉に童貞童貞言っといて…。)
中学の頃、不穏な関係になってしまい、高校二年で同じクラスにまでもなってしまった太陽と渉。
しかも、王子と王子だなんて訳の分からない自作演劇をする事にもなってしまった。
「ねぇー考え事?」
今付き合っている?女の子が怪訝そうに言った。
「いや~、今度さ。男子校だってのに、文化祭の出し物がさ。ボーイズラブ?つーの?の演劇にきまっちゃって。」
「え!?ボーイズラブ!?主役やるの!?」
やたら食い付き良いなあ、なんて太陽は思った。
「まあ…どうしても負けたくない奴が王子役やるから…。なんか引くに引けなくなったつーか。」
「もしかして、その相手って、月影君じゃない!?えー!2トップじゃん!あおはるの!絶対見にいく!」
圧凄いな、なんて太陽は思っていた。
(でも、男同士なんて不毛だろ…。)
太陽は思い出していた。あの時のことを。
中学の頃、本気で好きだった。ゲームをしていて、渉に手を触れられて。それ以上を望んでしまった。渉を抱いてしまいたかった。でも、渉はそれを望んでなかった。 それはさほど太陽にとって傷は浅かったのだが、数日後仲直りしようとバスケ部の渉へ会いに行こうとした矢先聞いてしまったのだ。「月影君、好きな人いるのはわかってる。でも、私じゃ駄目かな…?」渉の中学の頃の女友達。
バスケ部の美人マネージャー。
体育館裏で、告白されている渉を見て、良くないことだと思いつつも気になって太陽は隠れて聞いてしまったのだ。渉の一言を。
「俺も、お前みたいに美人な女に惚れてれば良かったよ。」
それからというもの、太陽はとにもかくにも女の子と遊んだ。
「はーい!カット!なんか、ギクシャクしてんだよなあ!明日だぞ!本番!月影も花柳も、もっと自然体で頼むよ!お互い愛し合ってるっていう設定なんだから!」
しれーっとしたクラスで委員長だけが気合い入りすぎている。
まるで、映画監督のようだ。
「この台本じゃさあ、ボーイズラブってかんじしなくない?俺の姉貴が腐女子でさ。結構詳しいんだけど、二人とも大根役者みたいで、伝わってこないし…。キスくらいするしかないんじゃね?」
坊主の野球部、朝日野が面白そうに言った。
『キスだと!?』
二人の声がだぶった。
目が合えば睨みあう、引くに引けない二人がいた。
(なんだ?キスくらいで驚いて?まさか、まだ俺を好きなんじゃないよな?)
渉の心の声は、目を合わすと太陽に伝わるようだ。
(まさか、お前如きのキスで動じるわけねー。)
太陽の心の声も、同じく分かる渉。
「やって、やる。」
「やって、やろーじゃねーか!」
今日もお二人様は、思春期真っ只中にございます。




