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魔人たちの酒場にて

かなり開いてしまいました。すみません。

 む・・・

 故郷の門を出てしばらく、魔人の前線警戒網をかいくぐりながら道なき道を歩いていたところ、意外にも早く魔人の都市を見つけることが出来た。かなり大きな都市だ。恐らく、こちらの都市もルガルと同じように国境付近の交易で栄え、今は前線の要塞都市と化しているのだろう。都市の周りに防壁らしき壁がそそり立っていた。


 わー、入るの緊張するなー

 怖そうな魔人が門番をしている。胸を張って行けば何とかなると知っていても、何だか入りずらい。

 

 しかし、こんなところでうじうじしてても魔獣使いにはなれないのでとりあえず、門へと続く街道へ入った。

 さて、どんな風に装うか・・・

 歩きながらボクはこの都市に入ってから演じる「魔人少女」の設定について考え始めた。門をくぐる際、身分証明として〈ステータスカード〉を出すようだ。

 その時、レベルが”1”のままだと明らかにおかしい。この世界でレベル”1”だと赤子扱いだ。ボクはこの通り普通に十五歳の少女なのでそれは流石におかしすぎる。何かしら、理由が必要だ。

 うーん・・・

 考えてるうちに門の前に来ていた。門番の魔人が怖いくせにやけに事務的な受付のお姉さんみたいな笑顔で「〈ステータスカード〉をお出しください」と言ってきた。


 あーもう、どうとでもなれや!

 ボクはもう、その場しのぎで設定を作ることにした。


「てい!」


 謎の掛け声とともにボクは門番に〈ステータスカード〉を突き出す。門番の魔人はそれを不審そうに受け取ると、その内容を読んだのか、目を見開いた。


「これは・・・レベル1だと?えっと・・・うーん・・・こんなのマニュアルになかったよー・・・」


 小声で戸惑ってる魔人。なんか一人で右往左往してるのが可愛い。なんか、この戸惑い、利用できそうだな・・・。その時、ボクの頭に神が降りてきた。

 ふん。設定、思いついた。

 ボクは自分よりも高い背の魔人を見上げて口を開いた。


「ボク、実は元暗殺者なんです」

「は?」

「でも、止めて・・・そしたら、うち、暗殺一家なんですけど追い出されて。レベルも1にされたし、スキルもほとんど剥奪されたんです」

「は?」

「以上です。」

「え?ちょ・・・え?」


 さっきまでの怖い顔と受付嬢笑顔のギャップが面白いくらい瞬きしてる魔人。

 戸惑ってるところ悪いが、ボクは早く先に進まねばならないので〈ステータスカード〉を返すよう、手をだした。


「えっと・・・何かな、この手は」

「〈ステータスカード〉」

「え?」


 コイツ、物分かりが悪いな。これで門番やってられてるのが不思議なくらいだ。


「〈ステータスカード〉返してください」

「あ、うん・・・」

「では」


 そのまま門の中へとボクはツカツカと入って行った。それを唖然として見送る門番。次の受付者が来ているが気づいていない。本当に門番やってて大丈夫だろうか。もし、クビにされた時にボクが魔獣使いになってたら、荷物持ちかなんかに雇ってあげよう。

 よし、これで第二関門突破。何だか結構強引にやった気がするけど、しわ寄せなら後々どうとでもなる。


 魔人の都市は流石、人間よりも魔法を使いこなすだけあって、面白いものがたくさんあった。例えば、喋る魔剣とか、変な色の薬とか、空を飛ぶ用のほうきとか、自動で掃除してくれるほうきとか。人間の街でも見られないようなそれこそファンタジー小説の醍醐味とでも言っていいほどの商品ばかりが並んでいる。

 思わず立ち止まりそうになるのを我慢して、ボクはなるべく雰囲気の悪そうな酒場が立ち並ぶところへ歩いて行く。道すがら、近くの露店(以外にもちゃんとした店があった)で固めのサンドイッチをむぐむぐしていたところ、「やあ、かわいいお嬢ちゃん。どこ行くんだい?」と何回か魔人のおっさん達に絡まれたが、完全無視するか軽くにらみつけると、すごすごとどこかへ消えていった。

 この街のおっさん達は人間界と比べて辛うじて、マナーがなってるようだ。よろしいよろしい・・・。

 満足して何組目かのガタイのいいおっさん達に微笑みかけると、なぜか蛇に睨まれたカエルみたいにその場に硬直して動けなくなっていた。どうかしたのだろうか。


 酒場が一番、賑やかになるのは日没から夜にかけてだ。今はまだ日が傾きかけた正午過ぎ。ボクは路地裏で物乞いを観察したり怪しい店を回って時間をつぶすことにした。やはり、魔人たちのカラフルな肌色の中で普通に人間のような肌は流石に目立っていたようだが、むしろコソコソしてた方が目立つので堂々と歩いていたら、何も不審な目を向けられることはなかった。


 さて、段々日も暮れてきた。そろそろ、正念場に備えて場所取りに行くか。

 ボクは何軒目かに立ち寄った怪しい薬屋を出ると、昼の中に目を付けといた居酒屋へ歩き出した。


○ ○ ○

「やあ、お嬢ちゃん。こんなとこにいて大丈夫なのかい?」


 いつものように行きつけの酒場に行くと見慣れぬ少女が店の隅にちょこんと座っていた。フードの下から覗く珍しい色彩が、ある男の魔人の目を引いた。


「新しい職を探しているんです。母にここに来ればいい働き口が見つかるだろうと言われました」

「君の母さんは少し変わってるね。酒場で就職活動なんて・・・ろくな仕事が見つからないだろうに」

「はい」


 少女が顔を上げた。闇のように全く表情の読めない真っ黒な瞳が魔人をとらえる。魔人はその眼に思わず(ひざまず)いてしまいそうな威圧感を感じた。


「現に私はろくでもない仕事に就こうとしてますから。母はそれを知っていたのでしょう」

「そのろくでもない仕事って?」

「・・・」


 少女が目を伏せた。

(しまった、聞くもんじゃなかったな)

 思いのほか、自分は酔っていたようだ。思わず、口がすべってしまった。

 人間との戦争が始まってから、治安が悪くなり人でも足りなくなり、商人、平民の生活は悪くなるばかりだ。この少女も自分と同じくらい苦労しているのだろう。


 魔人の仕事は山賊だった。仲間たちとともに峠を越えようとする商人を襲い、奪ったものを売りさばく。悪いことだと知っていても、分かっていても、妹たちを養うにはこうするしかない。

 魔人にできるのは山賊と、戦争が早く終わるのを妹たちと祈るだけだった。


「いや、別に無理して」

「魔獣使い」

「は?」

「私は魔獣使いになりたい」

「ま、魔獣使いだと・・・?」


 魔人は驚いた。魔獣使いと言えば、魔獣との絆を大切にし、今の戦争で前線に立って大いに活躍しているというエリート達だ。魔人の間では憧れの対象として一部では新興宗教のようにあがめられていることもあるらしいし、莫大な金を稼げるが、なるには厳しい修行を積まなければならない。

 魔人はそんな難易度の高い職にこの小さな少女が就こうとしているのが信じられなかった。


「お嬢ちゃん、魔獣使いは厳しい修行を積まなければならなくって、いくら切り詰めてても・・・」

「知ってる。・・・でも、ボクの小さいころからの憧れでしたから」


 少女の目に宿っているものを見て、魔人は息を呑んだ。これほどにも純粋な「憧れ」や「好き」という強い気持ちを持つものを初めて見た。

(この嬢ちゃんなら、本当に魔獣使いになる気がするな。・・・十年後くらいに。その時も戦争が続いてたんなら、「最狂」とかって呼ばれてそう)

 魔人が呆れた目で少女を見つめるが、少女はお構いなしに目をキラキラと輝かせて魔人の方に体を乗り出してくる。


「ここいらの山で、魔獣使い見かけたことありませんか?なるべく変人なのがいいですね。おじさん、山賊でしょう?山には詳しいと思いまして」

「変人って・・・。ていうか、俺が山賊度と知っていて話しかけたのか?」

「何を言うんですか?話しかけてきたのはそちらですよね」

「あー、うん。そうだったっけな」

「いいから、早く教えてください。魔獣使いに心当たりはありませんか?」


(そういわれてもなぁ)

 魔獣使いはもはや、この国の主戦力だ。ほとんどが中央の王都に行っていて、こんな国境付近に残っているのは相当な人嫌いか、変わり者だろう。

(まあ、嬢ちゃんの「変人」って言う条件には合うやつばかりだろうな)

 それにしても、一風変わった条件だ。この少女は魔獣使いになるほかに何か目的があるのかもしれない。しかし、このご時世だ。魔人はそこの辺りは何も聞かずにいることにした。


「それなら、一つ、心当たりがあるぞ。ここから西に三つ山を越えたあたりにディラス山という山があるんだが・・・そこにまだ、王都に行っていない魔獣使いがいるそうだ」

「そうですか!ありがとうございます。すぐ行きます」

「あ、ちょ、」


(行っちまった・・・)

 少女はするりと酒場の扉から出て行き、夜の喧騒の中に消えていった。魔人は「何だったんだれ」とつぶやくと酒場の店主に酒を頼みに自分の席に戻った。

 

 その夜、ディラス山に続く山道で走りに走って体力の限界が来て倒れこんでる少女がいたとかいないとか。

読了ありがとうございます。


自分の作品がどれほどのものか知りたいので、評価などなどよろしくお願いします。


(不定期更新なので、とても空くことがあります)

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