新しい街でまた受付嬢
「……えっと……ナミさん、ですね」
新しい街の冒険者ギルド。
受付カウンターの向こうで、ギルド職員が書類を見ていた。
「一応、簡単な面接と確認は終わりましたが……」 「……は、はい……」
ナミは、緊張で肩をすくめている。
「戦闘スキルは?」 「……な、ない……です……」 「補助スキルは?」 「……わ、わからない……です……」
職員は少し考えた。
「……まあ、受付は経験者ですし」 「……あ……」
「――合格で」
「……え……?」
ナミは、目をぱちぱちさせた。
「……ほ、ほんと……?」 「はい。今日から入ってもらえます」
「……あ……あの……」
ナミは深く頭を下げた。
「……が、がんばります……」
エリーは横で腕を組み、静かに頷いた。
(第一関門、突破)
◆
初仕事。
ナミは、受付カウンターの中で、あたふたしていた。
「……えっと……依頼……」 「……こっち……?」
書類を落とす。
拾う。
別の紙を間違える。
「す、すみません……!」
だが。
「まあいいよ」 「急いでないし」
冒険者たちは、なぜか穏やかだった。
(……優しい……人……多い……)
「次、お願い」 「……は、はい……!」
◆
依頼を受けに来た冒険者たち。
ナミは、無意識に口を開く。
「……あの……」 「ん?」
「……この依頼……」 「……?」
「……人数……もう一人……増やした方が……」 「理由は?」
「……な、なんとなく……」
冒険者は笑った。
「なんとなく、か」 「……す、すみません……」
「まあいいや。どうせ人余ってるし」
◆
結果。
そのパーティーは、追加できた1人が
たまたま危険な罠を事前に発見し
負傷者ゼロで帰還した。
「ラッキーだったよ!助言ありがとうな!」 「……え……?」
ナミは、首を傾げる。
◆
次。
「この依頼、今日中に出たいんだけど」 「……あ……」
ナミは、依頼書を見て小さく呟く。
「……天候……」 「え?」
「……明日……雨……降りそう……」 「……?」
「……今日……行った方が……」 「天気予報なんてあるのか?」
「……な、ない……です……」
冒険者は首をすくめた。
「ま、急ぐし今日行くか」
◆
結果。
翌日、その地域は記録的豪雨。
もし一日遅れていれば、依頼は失敗していた。
「偶然だな」 「ラッキーだったな」
誰も疑わない。
◆
さらに。
ロイドが来た。
「……依頼、受けに」 「……あ……」
ナミは、思わず言った。
「……ロイドさん……」 「?」
「……今日……その依頼……やめた方が……」 「……理由は?」
「……いやな……感じ……」
ロイドは少し考え――
依頼書を戻した。
「……信じるよ」
◆
数時間後。
その依頼先で、
魔獣の大量発生が確認され、
討伐は中止になった。
「……危なかったな……」 「……うん……」
ロイドは、ナミを見る。
「女の勘てやつか?」 「……へ……?」
「いや……なんでもない」
◆
ギルド内。
「最近さ」 「うん?」
「運良すぎじゃない?」 「たまたまだろ」
「依頼の成功率、上がってるぞ」 「ラッキーが続いてるだけだ」
ナミは、カウンターの内側で縮こまる。
「誰も、姉のせいだなんて思ってない」 「……うん……」
◆
その夜。
ギルドの奥、古い資料室。
埃をかぶった分厚い本を、
エリーがめくっていた。
「……あ」
一つの項目で、指が止まる。
戦闘にも補助にも分類されないスキル
発動者すら気づかない稀少能力
エリーは、静かに本を閉じた。
(このスキルやっぱり……)
◆
ナミは、その頃。
「……おつかれさまでした……」
誰にも気づかれず、
今日も一日を終えようとしていた。
自分が、
ほんの少し言葉を落とすだけで、
世界の歯車がずれていることも知らずに。
――これは、偶然ではない。
――これは、幸運でもない。
未来がみえているわけでもなんでもない
だが、なぜかそうなることが決まっていた
ナミの中で、
無意識に発動し続けるスキル。
その名は――
《運命のイタズラ(trick of Destiny)》
それは、
人と人、出来事と出来事を
“ほんの少しだけ正しい位置へずらす”力。
世界はまだ、
その意味を知らない。




