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まだ受付嬢ではない元受付嬢

ギルド酒場は、昼間から賑わっていた。

依頼帰りの冒険者。

これから向かう者。

情報を集める者。

ナミは、その片隅で小さなテーブルに座っていた。

「……お、おいしい……」

湯気の立つハーブティーを、両手で包み込む。

向かいにはエリー。

「この街、学舎は多いけど……」 「……うん……」

「図書館は少なそうね」 「……そ、そう……」

エリーは地図と本を広げていた。

ナミは、なんとなく周囲を眺めている。

(……あの人……焦ってる……) (……あの人……ケガしてるの……隠してる……) (……あの人たち……相性……悪い……)

ぶつぶつ。

無意識に、いつもの癖が出る。

「……あ……」

ナミの視線が、酒場の奥へ向いた。

ロイドがいた。

一人で、地図を睨んでいる。

(……洞窟……) (……一人……無理……) (……でも……止まらない……)

「……あの依頼……」

ぽつり。

エリーが顔を上げる。

「どの?」 「……洞窟……魔獣……」

「姉、声」

「……あ……」

その瞬間。

「おい」 「ん?」

隣の席の冒険者が、ロイドを見た。

「その洞窟の依頼、俺たちも狙ってる」 「……え?」

「ちょうど人手探してたんだ」

ロイドは驚いた顔をした。

「……いや、俺は……」

「三人いれば安定だ」 「報酬も割れるしな」

(……え……)

ロイドが迷っている、その時。

「……あの洞窟……」 「……最近……」

ナミの小さな声が、

不思議なほど、周囲に通った。

「……魔獣……増えてる……」 「……?」

「……でも……」 「……?」

「……午前中なら……安全……」

ざわっ。

酒場の空気が、変わった。

「それ、誰情報だ?」 「昨日の噂と一致してるぞ」

「……え……?」

ナミは、びくっとした。

「……ち、違います……」 「誰だ今の?」

エリーが即座に言う。

「独り言です」 「独り言?」

「聞き流してください」

だが、世界はもう動いていた。

「午前中か」 「じゃあ今から行けば――」

「待て」 別の冒険者が立ち上がる。

「洞窟近く、崩れかけてるって話もある」 「午後は危ないな」

「じゃあ全員で行くか」 「人数多い方がいい」

ロイドは、完全に流されていた。

「……え、え……?」

結局大人数でパーティが結成された

――洞窟。

午前。

本来なら最悪のはずだった戦場。

だが。

「……な、なんだこれ……」

魔獣は少ない。

動きは鈍い。

まるで、都合よく弱体化しているかのよう。

「当たり日か?」 「こんな楽な依頼、久しぶりだぞ!」

戦闘は、圧倒的だった。

その最中。

ドンッ!!

天井が崩れた。

「伏せろ!!」

だが崩落は、

魔獣の真上だけ。

「……嘘だろ……」

魔獣は下敷きになり、動かなくなった。

「……勝った……?」

ギルド酒場。

「……生きて……帰ってきた……」

ロイドは、呆然としていた。

「……よかった……」

ナミは、ほっと息をつく。

「……運……よかった……ですね……」 「……ああ……」

エリーは、ロイドを見てから、ナミを見る。

(……運で片付けるには……)

「姉」 「……な、なに……?」

「もう一杯、飲む?」 「……の、飲む……」

酒場では、もう噂が始まっていた。

「今日の洞窟、奇跡だろ」 「魔獣の真上だけ崩れるとか」

「午前中が安全って話、誰だ?」 「さあ……」

誰も、ナミを見ていない。

ナミは、ただお茶を飲んでいるだけ。

だが。

偶然にしては出来すぎた幸運が、

確かに、命を救った。

本人は、何も知らない。

周囲も、気づかない。


――だが今後


この街で起きる「ラッキー」は、


すべてこのドジっ子から、


静かに溢れ出すということを


今はまだ誰も知らない

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