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少女漫画のヒロインかもしれない元受付嬢

「……エ、エリー……」 「なに」 「……人……多い……」

宿を出たナミは、早くも挙動不審だった。

きょろきょろ、そわそわ、足元がおろそか。

「だから前見て」 「……う、うん……」

――そのとき。

角を曲がった瞬間。

「……あっ」

どんっ!!

「いってぇ!?」

「きゃっ!?」

ナミは勢いよくぶつかり、そのまま尻もちをついた。

「……い、いた……」

「前見て歩けよ……」

上から聞こえた声。

見上げると、青年が立っていた。

装備は簡素。

顔立ちは普通。

目つきは少し険しい。

(……普通……) (特徴……薄い……) (かけだし……冒険者……)

「……あ……」

ナミは、立ち上がろうとして――

じっと、青年を見つめた。

「……あの……」

「……は?」

「……自己評価……低め……」 「……?」

「……でも……無理して……強がってる……」 「……は?」

「……本当は……優しい……」

青年は、完全に固まった。

「……何言ってんだ、あんた」

(声……硬い……) (防御反応……) (でも……人に慣れてない……)

「……たぶん……悪い人じゃ……ない……」

「いや怖ぇよ!?」

エリーが、即座に前に出た。

「すみません」 「え?」

「独り言が口から漏れるタイプです」 「漏れるとかいうな……」

青年は、明らかに一歩引いた。

「……変な女……」

「……う……」

ナミは小さく傷ついた。

「……ご、ごめんなさい……」

青年は、頭を掻いた。

「……いや……こっちも……言い過ぎた……」

(謝る……) (ちゃんと……非を……認める……) (やっぱり……優しい……)

「……いい人……」

「だから声に出すなって!」

「俺、ロイド」 「……な、ナミ……」

「冒険者?」 「……い、いえ……」

「……あ、そ」

ロイドは、それ以上踏み込まなかった。

その距離感が、ナミには少し安心だった。

「じゃ」

そう言って、ロイドはさっさと行ってしまった

――数分後。

ギルド。

ナミが中に入ると、聞き覚えのある声がした。

「ロイド、今日も依頼か?」 「はい」

「……え……」

ナミは、固まった。

「……さっきの……」

ロイドも気づく。

「あ……」

沈黙。

エリーが、即座に割って入る。

「はいはい、少女漫画ならここで運命感じる場面」 「違う!」

「現実では“変な女と再会しただけ”」

「……う……」

ロイドは、ナミを見て、少し気まずそうに言った。

「……さっきは……悪かった」 「……い、いえ……こちらこそ……」

(ちゃんと……謝る……) (やっぱり……)

「……優しい……」

「頼むから黙って」

受付前。

「受付の仕事、探してるなら……」 ロイドが言いかける。

ナミは、びくっとした。

「……い、いえ……まだ……」

エリーが、ナミの肩に手を置く。

「今は様子見見学だけね」 「……うん……」

ロイドは、少し考えてから言った。

「街、案内しようか」 「……え……」

「初めてみたいだし」 「……や、やさし……」

「姉、静かに」

エリーは、ロイドを見る。

「言っときますけど」 「はい?」

「姉はドジで、変で、独り言が多いです」 「ちょっと……!」

「でも」 エリーは真顔になる。

「人を見る目だけは、たしかです」

ロイドは、ナミを見た。

さっきより、少しだけ――

真剣な目で。

「……そうなんだ」

ナミは、もじもじしながら俯く。

「……が、がんばります……」 「だから何を」



この“変な女”が、

やがて自分の運命を左右する存在になると、

ロイドは、まだ知らない。

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