少女漫画のヒロインかもしれない元受付嬢
「……エ、エリー……」 「なに」 「……人……多い……」
宿を出たナミは、早くも挙動不審だった。
きょろきょろ、そわそわ、足元がおろそか。
「だから前見て」 「……う、うん……」
◆
――そのとき。
角を曲がった瞬間。
「……あっ」
どんっ!!
「いってぇ!?」
「きゃっ!?」
ナミは勢いよくぶつかり、そのまま尻もちをついた。
「……い、いた……」
「前見て歩けよ……」
上から聞こえた声。
見上げると、青年が立っていた。
装備は簡素。
顔立ちは普通。
目つきは少し険しい。
(……普通……) (特徴……薄い……) (かけだし……冒険者……)
「……あ……」
ナミは、立ち上がろうとして――
じっと、青年を見つめた。
「……あの……」
「……は?」
「……自己評価……低め……」 「……?」
「……でも……無理して……強がってる……」 「……は?」
「……本当は……優しい……」
青年は、完全に固まった。
「……何言ってんだ、あんた」
(声……硬い……) (防御反応……) (でも……人に慣れてない……)
「……たぶん……悪い人じゃ……ない……」
「いや怖ぇよ!?」
◆
エリーが、即座に前に出た。
「すみません」 「え?」
「独り言が口から漏れるタイプです」 「漏れるとかいうな……」
青年は、明らかに一歩引いた。
「……変な女……」
「……う……」
ナミは小さく傷ついた。
「……ご、ごめんなさい……」
青年は、頭を掻いた。
「……いや……こっちも……言い過ぎた……」
(謝る……) (ちゃんと……非を……認める……) (やっぱり……優しい……)
「……いい人……」
「だから声に出すなって!」
◆
「俺、ロイド」 「……な、ナミ……」
「冒険者?」 「……い、いえ……」
「……あ、そ」
ロイドは、それ以上踏み込まなかった。
その距離感が、ナミには少し安心だった。
「じゃ」
そう言って、ロイドはさっさと行ってしまった
◆
――数分後。
ギルド。
ナミが中に入ると、聞き覚えのある声がした。
「ロイド、今日も依頼か?」 「はい」
「……え……」
ナミは、固まった。
「……さっきの……」
ロイドも気づく。
「あ……」
沈黙。
エリーが、即座に割って入る。
「はいはい、少女漫画ならここで運命感じる場面」 「違う!」
「現実では“変な女と再会しただけ”」
「……う……」
ロイドは、ナミを見て、少し気まずそうに言った。
「……さっきは……悪かった」 「……い、いえ……こちらこそ……」
(ちゃんと……謝る……) (やっぱり……)
「……優しい……」
「頼むから黙って」
◆
受付前。
「受付の仕事、探してるなら……」 ロイドが言いかける。
ナミは、びくっとした。
「……い、いえ……まだ……」
エリーが、ナミの肩に手を置く。
「今は様子見見学だけね」 「……うん……」
ロイドは、少し考えてから言った。
「街、案内しようか」 「……え……」
「初めてみたいだし」 「……や、やさし……」
「姉、静かに」
◆
エリーは、ロイドを見る。
「言っときますけど」 「はい?」
「姉はドジで、変で、独り言が多いです」 「ちょっと……!」
「でも」 エリーは真顔になる。
「人を見る目だけは、たしかです」
ロイドは、ナミを見た。
さっきより、少しだけ――
真剣な目で。
「……そうなんだ」
ナミは、もじもじしながら俯く。
「……が、がんばります……」 「だから何を」
この“変な女”が、
やがて自分の運命を左右する存在になると、
ロイドは、まだ知らない。




