新しい街へ向かう元受付嬢
「……ほ、本当に……こっちで……合ってる……?」
街道を歩きながら、ナミは不安そうに周囲を見回していた。
道は広く、人通りも多い。
「合ってる。地図通り」 エリーは即答する。
「……そ、そっか……」
エリーは、肩にかけた鞄を軽く持ち直した。
その中には分厚い本が何冊も入っている。
「この街には、学舎も図書館もある。
私、ここでちゃんと勉強するつもりだから」
「……が、学者さん……?」 「目指してるだけ。あんたと一緒」
ナミはぱちぱちと瞬きをした。
「……えへ……心強い……」
その直後、石につまずいた。
「わっ……!?」
ぐらり。
「はいはい、気をつけて」 エリーが慣れた手つきで、ナミの腕を掴む。
「……あ、ありがと……」
◆
街道には、同じように街へ向かう人たちがいた。
商人。
冒険者。
旅人。
ナミの視線は、自然と人へ向く。
「……わ……」
ぽつりと、小さな声。
「……あの人……イケメン……」
エリーがちらりと見る。
「どの人?」 「……ほら……あそこ……」
鎧を着た青年冒険者。
整った顔立ちに、余裕のある歩き方。
(自信あるけど……威圧しない……) (周り……ちゃんと見てる……) (……モテる……)
「……イケメンだね……」 「分析するな」
◆
少し進むと、今度は小さな女の子が目に入る。
ふわっとした服に、楽しそうな笑顔。
「……あの子……可愛い……」 「はいはい」
「……お姫様みたい……♡」
(大事に育てられてる……) (周り……ちゃんと見て……歩いてる……) (……いい家の子……)
「……将来……幸せになりそう……」
「未来まで見るな」
◆
さらに進む。
前を歩く兄弟らしき二人組。
兄は少し無口そうで、
弟は元気いっぱい。
「……あの兄弟……雰囲気……いい……」 「まだ続くの?」
「……あのお兄ちゃん……」 「うん」
「……きっと……優しい……」
(歩く速度……弟に合わせてる……) (荷物……全部……持ってる……) (……いいお兄ちゃん……)
エリーは一瞬、足を止めた。
「……ナミ」 「……な、なに……?」
「……やっぱり、あんた変」
「……ひ、ひどい……」
◆
街が見えてきた。
石造りの門。
行き交う人々。
賑やかな声。
「……わぁ……」
ナミの目が、きらきらと輝く。
エリーも少しだけ、視線を上げた。
(ここで勉強して……) (知識を集めて……) (ナミの力を、ちゃんと証明する)
その瞬間。
「……あっ」
またつまずいた。
「だから足元」 「……ごめん……」
◆
街の中は、情報量が多すぎた。
「……わ……」 「静かに」
「……あの人……自己中っぽい……」 「失礼すぎる」
「……あ、でも……悪い人じゃ……ない……」 「フォローが遅い」
(声……大きい……) (視線……自分中心……) (でも……仲間には……甘い……)
エリーは、ナミの横顔を見る。
(人間観察オタク…?)
◆
宿屋の前。
「……こ、ここ……?」 「ここ。評価も悪くない」
ナミは看板を見る。
(清潔……) (人の出入り……ちょうどいい……) (受付の人……笑顔……本物……)
「……いい宿……だと思う……」 「でしょ」
部屋に入って、ナミはベッドに座り込んだ。
「……つ、疲れた……」
でも、表情はどこか明るい。
「……街……楽しい……」 「私は明日から学舎を見に行く」
「……えらい……」 「普通」
ナミは、布団に倒れ込みながら呟く。
「……でも……ここなら……」 「うん」
「……私……がんばれる……かも……」
エリーは、窓の外を見た。
「……あんたの力を、ちゃんと評価する場所を探そう」 「……うん……」
ナミは、にへっと笑った。




