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辞めた受付嬢

「……お世話に……なりました……」

ナミは小さく頭を下げ、ギルドを後にした。

引き止める声はなかった。

理由を聞かれることもなかった。

それが、何よりも答えだった。

寮も引き払ったナミは実家へ戻る

実家は、ギルドのある街から少し離れた場所にある。

小さな家で、派手さはないが落ち着く場所だ。

「……ただいま……」

戸を開けると、すぐに声が返ってきた。

「おかえり。……って、その顔」

台所から出てきたのは、ナミの妹――エリーだった。

姉とは違い、背筋が伸び、目つきもしっかりしている。とてもしっかり者の妹である。

「……また、無理したでしょ」

ナミは視線を逸らし、もじもじと指を絡めた。

「……や、やめて……きちゃった……」

エリーは一瞬、ため息をつき――

何も言わず、椅子を引いた。

「座りな」 「……うん……」

この世界には、「スキル」と呼ばれる力がある。

魔物を倒す剣技。

魔法を操る詠唱。

身体能力を強化する加護。

多くの人は、戦闘系スキルを持つ者こそが「価値ある存在」だと考えている。

そして――

スキルを持たない者は、前線には立たない。

裏方。

雑用。

商人や職人。

ナミも、そうだった。

「……私……スキル……ないから……」

ぽつりと呟くと、エリーは肩をすくめる。

「表に出てないだけでしょ」 「……え?」

「戦闘スキルが分かりやすいだけ。

 それ以外のスキルだって、本当はある」

ナミはきょとんとする。

「……でも……誰も……」 「気づかない。自分でも、他人でも」

エリーは、まっすぐナミを見た。

「特に、戦闘に直接関係しないスキルはね」

「ギルドでは……」

ナミは、少しずつ話し始めた。

依頼を回したこと。

怒られたこと。

評価されなかったこと。

エリーは黙って聞いていたが、

途中で一度、眉をひそめた。

「……それ、本当に“勘”?」 「……え……?」

「冒険者の性格、パーティの空気、依頼主の癖」 「……」

「全部、ちゃんと見てたんでしょ」

ナミは、小さく頷いた。

「……み、見ちゃう……んだよね……」 「で、結果は?」 「……誰も……死ななかった……」

エリーは、はっきりと言った。

「それ、能力だよ」 「……え……?」

「何かを成し遂げれば評価はされる

何も起きなかったことは評価されにくい」

しばらく沈黙が流れる。

やがて、エリーが立ち上がった。

「この街、合ってなかったんだと思う」 「……え……?」

「見る目がない人間が多すぎる」

ナミは、思わず目を見開いた。

「……で、でも……」 「だからさ」

エリーは、少しだけ笑った。

「別の街で仕事探そう」 「……!」

「私も一緒に行く」 「……い、いいの……?」

「放っておいたら、また一人で潰れるでしょ」

ナミは、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

「……ありがと……エリー……」

その夜。

ナミは布団の中で、天井を見つめていた。


エリーの言葉が、頭の中で繰り返される。

――戦闘外のスキル。

――気づかれない能力。

「……もし……そうだったら……」

小さく、希望が芽生える。

こうして、

ドジっ子受付嬢ナミは、新しい街へ向かうことになる。

それがやがて、

この世界にとって“革命”と呼ばれる出来事の始まりだと――まだ誰も知らない

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