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ドジっ子受付嬢

「つ、次の方……ど、どうぞ……」

ナミの声は、今日も少しだけ小さい。

冒険者ギルドの受付カウンター。

朝から人が多く、ホールはざわざわしていた。

(き、緊張する…)

自分に言い聞かせるように、ナミは小さくぶつぶつ呟く。

それに気づいた冒険者が首をかしげたが、ナミは気づいていない。

「えっと……こちら、どうぞ…」

「ああ、これな」

差し出された依頼書を受け取ろうとして――

「あっ」

つるっ。

依頼書が、ナミの手から滑り落ちた。

「す、すみませんっ!?」

慌ててしゃがみ込む。

勢い余ってカウンターの下に頭をぶつけて、

「こつん」と可愛い音がした。

「い、いたた……」

顔を赤くしながら依頼書を拾い、ぴしっと揃えて差し出す。

「こ、こちらで……ま、間違いありません……!」

冒険者は一瞬きょとんとしたあと、苦笑した。

「……忙しそうだな」 「は、はい……!」

元気よく返事をしすぎて、今度はペンを落とす。

からん。

「……あ」

(あああああ……!)

ナミは内心で悲鳴を上げながら、再びしゃがみ込んだ。

――でも。

(この人……左足、少し引きずってる……) (前衛なのに……防御低め……)

視線は自然と、冒険者の装備や立ち姿へ向く。

(この依頼……見た目より危ない……) (この人一人じゃ……きついかも……)

「……あの……」

ナミはおずおずと顔を上げた。

「こ、この依頼……その……」 「ん?」

「……一人で行くより……誰か……あ、あの……」

言葉が詰まる。

指先がもじもじと絡まる。

(言っていいのかな……余計かな……)

でも、ナミは小さく息を吸った。

「……もう一人……盾役の方が……いらっしゃると……」 「……」

冒険者は少し考え、頷いた。

「確かに。じゃあ、声かけてみるか」 「……! は、はい……!」

ぱあっと、ナミの表情が明るくなる。

(よかった……)

その後も、ナミは忙しかった。

名前を噛む。

書類を落とす。

独り言をぶつぶつ言う。

「えっと……えっと……」 (この人とこの人は……合わない……) 「……あっ、違います……!」

周囲から見れば、

落ち着きのないドジっ子受付嬢。

でも。

(このパーティ……雰囲気……ちょっと重い……) (依頼主……説明……曖昧……危険……)

ナミの視線は、常に人と人の“間”を見ていた。

結果として――

その日、大きな事故は一つも起きなかった。

夕方。

「……はぁ……」

ナミは椅子に座り、小さく息をつく。

(つ、疲れた……)

でも、カウンター越しに見えたのは、

無事に帰ってきた冒険者たちの姿だった。

「ナミちゃん帰ったよ〜今日はありがとね」

「……!」

ナミは一瞬、固まってから、

慌てて深くお辞儀をした。

「い、いえ……! お、お疲れさまでした……!」

胸の奥が、ほんのりあたたかくなる。

(……今日も……大丈夫だった……よね……)

そう思いながら、

ナミはまた小さく、ぶつぶつと呟く。

「……明日も……がんばろ……」

その頑張りが、

評価されることはなかった。

――この時は、まだ。

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