真似をされる受付嬢
噂は、思った以上に早く広がった。
「最近、あの街のギルド、やたら回ってるらしいぞ」
「揉め事が少ない」
「クエスト失敗率も下がってる」
そんな話が、他の街にも届いた。
当然、真似をするギルドが出てくる。
会議室の配置。
受付の流れ。
クエストの割り振り方。
倉庫の管理方法。
――やり方は、見える。
「これなら、うちでもできるだろ」
「この受付嬢どんくさっ笑この程度かよ」
最初は、みんなそう思った。
だが結果は、散々だった。
「なぜだ……?」
「同じことをしているはずなのに」
クエストは遅れ、
物資は余り、
人員は噛み合わない。
「段取りは合ってる」
「指示も間違ってない」
「なのに、結果が出ない」
その報告を、エリーはギルド酒場の隅で聞いていた。
ナミはいつものように、
「えっと……こちらの書類……あっ」
と書類を落としている。
(やっぱり)
エリーは、確信に近いものを感じていた。
他のギルドは、
“やり方”だけを真似している。
でも、このギルドは違う。
倉庫を回しているのは、
「在庫の流れを読む」商人。
武具を任されているのは、
「失敗しない工程を感覚で掴む」職人。
冒険者をまとめているのは、
「人の配置が自然に見える」ギルドマスター。
一人ひとりが、
自分に合った役割をしている。
そしてその役割は――
他人には見えない。
「人を入れ替えても、同じ結果になると思ったのが間違いだったな」
別の街のギルド長が、苦々しく言った。
「誰が、何に向いてるか……
そこが分からないと意味がない」
その言葉に、エリーは静かに頷く。
(そう。問題はそこ)
スキルは、個に宿る。
配置は、結果を左右する。
やり方だけをなぞっても、
中身が違えば、同じ答えにはならない。
ナミが、受付台の向こうから小声で話しかけてくる。
「エリー……なんか、難しい顔してる……」
「ちょっと考え事」
「そっか……」
ナミは安心したように頷き、
次の瞬間、別の書類を落とした。
(この人は、本当に変わらない)
でも――
(だからこそ、このギルドは“再現できない”)
エリーはノートを開き、静かに書き留める。
・結果は方法ではなく、人から生まれる
・個の適性を見抜けなければ、組織は機能しない。
・成功の正体は、見えない力の集合
まだ、証明には足りない。
でも、方向ははっきりした。
(やっぱり、この世界……
スキルを、全然活かせてない)
ナミは今日もドジで、
何も考えていない。
けれどその周囲では、
真似できない成功が、確かに積み上がっていた。
それに気づいているのは――
今のところ、エリーだけだった。




