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お姉ちゃんは受付嬢

ギルド酒場の一角。

エリーは分厚い本を広げ、黙々と文字を追っていた。

周囲の喧騒は気にならない。慣れている。

なぜなら、すぐ近くに――

姉がいるからだ。

「い、いらっしゃいませ……あっ」

ナミはカウンターで、受け取った銅貨を落とした。

床に転がり、椅子の脚の下に消える。

「ああっ、待ってください……!」

慌ててしゃがみ、今度は額を机にぶつける。

「……」

エリーは何も言わず、本のページをめくった。

この光景は、もう日常だ。

「す、すみません! 今拾いますから……えっと……あれ?」

銅貨は、なぜか三枚に増えて戻ってきた。

誰も気づかない。

ナミ本人も。

「よ、よかった……足りてますよね……?」

冒険者は苦笑いしながら頷き、去っていった。

エリーは一瞬だけ、ペンを止める。

(……今の、増えてなかった?)

でも、ツッコミはやめておく。


ナミは受付嬢。

ドジで、要領が悪くて、ブツブツ独り言ばかり。

一方エリーは――

実はギルドのスタッフではない。

ただの姉の付き添い。

仕事をしていない。

学者を目指して、ギルド酒場の端っこを借りて

勉強しているだけ。

つまりこの状況は、少し不思議だ。

頼りない姉が働き、

しっかり者の妹が、そのお金で生きている。

「エリー、お昼これで足りる……?」

ナミが小声で聞いてくる。

「十分」

エリーは即答した。

ナミは、ほっとしたように笑う。

その笑顔を見るたびに、エリーは思う。

(この人、私を養ってる自覚だけは、ちゃんとある)

ナミにとってこの仕事は――

世界を救うとか、評価されるとか、そんなものじゃない。

妹にごはんを食べさせる。

それだけ。

「えへへ……お姉ちゃんに任せて勉強頑張ってね……」

その言葉は、自信がなさそうでいて

でも確かに“姉の声”だった。

エリーは本を閉じ、ため息をつく。


知識も判断力も、エリーの方が上。

多分やらせたらエリーはバリバリ仕事する。

それは事実だ。

それでも、この関係を崩さない。


ナミが“姉でいられる”場所を、

エリーは奪わない。


「お姉ちゃん」

「は、はいっ!?」

「今日は、早めに帰ろう。疲れてるでしょ」

ナミは一瞬きょとんとして、

それから照れたように頷いた。

「……うん」

その直後、

書類を全部落とした。

「ご、ごめんなさーい!!」

エリーは額に手を当てながら、

小さく笑った。

(ほんとに、頼りない)


姉が働き、妹が勉強する。

普通なら当たり前のような光景がなぜか

あべこべで、歪で、

それでも今は、これが一番ちょうどいい。

ナミは今日も、ドジっ子受付嬢。

その仕事は、

姉が姉でいられる、大切な仕事。


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