学者を目指す妹がいる受付嬢
――私は、ずっと違和感を覚えていた。
◆
この街のギルドは、
特別な冒険者がいるわけでもない。
伝説の武器があるわけでもない。
なのに――
依頼は成功し、
被害は少なく、
街は静かに回っている。
◆
「……お姉ちゃん」
私はカウンターの内側を見つめた。
書類を抱えて、もじもじして、
依頼書を落として慌てて拾っている。
――ナミ。
◆
「す、すみません……」 「こ、こちら……依頼……です……」
冒険者は苦笑い。
「大丈夫かよ」 「まあ、受付だしな」
……誰も、見ていない。
見ていないけれど。
私は知っている。
(順番) (配置) (人の組み合わせ)
お姉ちゃんは、
何も考えていないようで、
“一番噛み合う形”だけを選んでいる。
◆
私は、本を思い出す。
古い学術書。
誰も読まない棚の奥。
そこに書かれていた言葉。
――生産スキル。
戦わないスキル。
作る、整える、つなぐ力。
でも、そのページには
こうも書いてあった。
「評価されなければ、
そのスキルは存在しないも同然である」
(……まさに、今の世界)
商人たちは言う。
「最近、無駄な仕入れが減った」
職人たちは言う。
「納期が正確になった」
冒険者たちは言う。
「事故が減った」
◆
でも誰も、
なぜそうなったのかを考えない。
私は、確信し始めていた。
(この街には、生産スキル持ちがいる)
(しかも、一人や二人じゃない)
でも――
(証明できない)
それが一番の問題だった。
◆
理屈じゃダメ。
感覚でもダメ。
この世界は
結果しか信じない。
◆
「……お姉ちゃん」
「は、はい……?」
私は、できるだけ平静に言った。
「お姉ちゃんはそのままでいてね」
きょとん、とするナミ。
「え……?」
だって。
(世界の方から近づいてきてる)
◆
このギルドに。
この街に。
そして――
お姉ちゃんの周りに。
私がやるべきことは、
はっきりした。
生産スキルは存在する。
それで結果は出せる。
評価されれば、世界は変わる。
その“証明”をする。
それが、私の役目。
お姉ちゃんは、
今日も依頼書を並べ替えながら、
ブツブツ呟いている。
「……これで……」 「大丈夫……かな……」
◆
大丈夫。
世界はもう
お姉ちゃんのイタズラに
引き寄せられている。




