ほんの少し調整する受付嬢
クエストは、
最悪の形で始まった。
◆
「騎士団は中央から制圧する!」 「隊列を崩すな!」
「は? 魔獣は散ってんだぞ!」 「そんな悠長にやってたら囲まれる!」
指示が、真逆。
騎士団は規律を守ろうとし、
冒険者は各自の判断で動こうとする。
結果。
・騎士団が向かった方向には敵が少ない
・冒険者が突っ込んだ場所には強敵
・連携は取れず
・伝令は行き違い
・討伐数は伸びない
「チッ……!」 「だから言ったんだ!」
「勝手な行動を取るな!」 「命令違反だ!」
現場は、完全にぐちゃぐちゃだった。
◆
そのころ、ギルド。
ナミはカウンターの内側で、
依頼進行用の黒板を見ていた。
「……えっと……」 「今……ここで……」
地図の前で、指を止める。
「……あ……」
ほんの少し、
札の位置をずらす。
それだけ。
・討伐班の順番
・物資の搬入時間
・次の報告先
ほんの、少し。
「……これなら……」 「ぶつからない……はず……」
独り言は、誰にも聞こえない。
その結果。
現場では――
「……あれ?」 「さっき騎士団が行った方、敵増えてるぞ!」
「今だ、挟め!」
◆
別の場所では、
「補給が来た?」 「予定より早いぞ」
「助かる!」
◆
さらに、
「魔獣が……逃げた?」 「別の隊に誘導されたみたいだ!」
◆
噛み合わなかった歯車が、
なぜか回り始める。
◆
偶然。
たまたま。
運が良かった。
誰もが、そう思った。
◆
結果。
・被害最小
・討伐完了
・想定より早い帰還
◆
「……終わった、だと?」
ウィリアム――ウィルは、
報告書を見て言葉を失う。
「正直に言う」 「こんな無茶な編成で、成功するとは思ってなかった」
バズも腕を組む。
「俺もだ」 「現場は完全に崩壊寸前だったはずだ」
二人は、同時に気づく。
「……誰かが」 「間に入ってる」
「大きく指示を出したわけじゃない」 「でも、流れが“調整”されていた」
「騎士団と冒険者の隙間に」 「誰かが、自然に入り込んだ」
しかし――
「誰だ?」
答えは出ない。
◆
ギルドに戻ると、
いつもの光景があった。
「……あ、えっと……」 「お、お疲れさまでした……」
ナミが、深々と頭を下げる。
「……ナミちゃん無事おわったよ!」
わたわたしてるナミを見て冒険者が笑う。
◆
ウィルは一瞬、
ナミを見た。
ほんの、一瞬だけ。
◆
だが、すぐに視線を外す。
「……いや」 「気のせいか」
◆
ナミは、またカウンターの内側で、
地図を片づけながら、ぶつぶつ言う。
「……よかった……」 「誰も……ケガしてない……」
◆
誰も知らない。
このクエストを救ったのが、
ほんの少し位置をずらしただけの受付嬢だということを。
◆
そして――
その“微調整”こそが、
世界を変える力の、ほんの前触れであることを。




