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ほんの少し調整する受付嬢

クエストは、

最悪の形で始まった。

「騎士団は中央から制圧する!」 「隊列を崩すな!」

「は? 魔獣は散ってんだぞ!」 「そんな悠長にやってたら囲まれる!」


指示が、真逆。

騎士団は規律を守ろうとし、

冒険者は各自の判断で動こうとする。


結果。

・騎士団が向かった方向には敵が少ない

・冒険者が突っ込んだ場所には強敵

・連携は取れず

・伝令は行き違い

・討伐数は伸びない


「チッ……!」 「だから言ったんだ!」

「勝手な行動を取るな!」 「命令違反だ!」

現場は、完全にぐちゃぐちゃだった。

そのころ、ギルド。

ナミはカウンターの内側で、

依頼進行用の黒板を見ていた。

「……えっと……」 「今……ここで……」

地図の前で、指を止める。


「……あ……」

ほんの少し、

札の位置をずらす。


それだけ。

・討伐班の順番

・物資の搬入時間

・次の報告先

ほんの、少し。


「……これなら……」 「ぶつからない……はず……」

独り言は、誰にも聞こえない。


その結果。


現場では――

「……あれ?」 「さっき騎士団が行った方、敵増えてるぞ!」

「今だ、挟め!」

別の場所では、

「補給が来た?」 「予定より早いぞ」

「助かる!」

さらに、

「魔獣が……逃げた?」 「別の隊に誘導されたみたいだ!」

噛み合わなかった歯車が、

なぜか回り始める。

偶然。

たまたま。

運が良かった。

誰もが、そう思った。

結果。

・被害最小

・討伐完了

・想定より早い帰還

「……終わった、だと?」

ウィリアム――ウィルは、

報告書を見て言葉を失う。


「正直に言う」 「こんな無茶な編成で、成功するとは思ってなかった」


バズも腕を組む。

「俺もだ」 「現場は完全に崩壊寸前だったはずだ」


二人は、同時に気づく。


「……誰かが」 「間に入ってる」


「大きく指示を出したわけじゃない」 「でも、流れが“調整”されていた」


「騎士団と冒険者の隙間に」 「誰かが、自然に入り込んだ」


しかし――


「誰だ?」


答えは出ない。

ギルドに戻ると、

いつもの光景があった。


「……あ、えっと……」 「お、お疲れさまでした……」

ナミが、深々と頭を下げる。


「……ナミちゃん無事おわったよ!」

わたわたしてるナミを見て冒険者が笑う。

ウィルは一瞬、

ナミを見た。

ほんの、一瞬だけ。

だが、すぐに視線を外す。

「……いや」 「気のせいか」

ナミは、またカウンターの内側で、

地図を片づけながら、ぶつぶつ言う。

「……よかった……」 「誰も……ケガしてない……」

誰も知らない。

このクエストを救ったのが、

ほんの少し位置をずらしただけの受付嬢だということを。

そして――

その“微調整”こそが、

世界を変える力の、ほんの前触れであることを。


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